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建てないことを選択する[episode#02]

こんにちは、たけのこ齋藤です。
建築をつくるために設計するのが私たちの仕事ですので、誰かが「建築しよう!」と決めてくれなければ私たちの仕事は発生しません。

それでも過去に「建てないこと」を勧めたことがあります。その建築を建てる事がお客さんにとってプラスにならないと判断したからです。今回はそんなお話を。episodeシリーズの#2です。


はじまり


20代半ばの知人から、ある日電話で相談されました。内容は「予算500万円で、妻のサロンを作って欲しい。建物はトレーラーハウスのように移動可能なもので、その範囲のサイズで」というものでした。

移動可能にする意図を聞いたところ、数年後に建築するかもしれない新居の敷地内に移動させたいからだと言います。しかも電気、上下水道などのインフラも必要になりますし、それなりの設備も設えなければなりません。

色々とお話を聞いたあと僕は
「やめておいた方がいい。今そのサロンに予算を掛けるよりも、どうせつくるなら最終的に自宅の計画に交えてつくった方がいいと思う。そうじゃないと無駄になるお金が必ず出てくるよ。予算も内容からいくとオーバーすると思う。だから今は止めておいた方がいいんじゃないかな。」

そう言って依頼は断り、計画を再考することを促しました。


なぜ依頼を断ったのか?

まず、サイズ感と内容から500万円では難しい内容であること、トレーラーハウスという通常の木造建築では発生しない移動時の負荷による痛みが予想されたこと、一時的に設置される予定の場所にはインフラが引かれておらず、今回新たに引き込むつもりだということ。

たぶん1000万円弱程度はかかるだろうと思われるその建築は、どうせなら住宅を新築する計画があるのならそちらに組み込むことでお金のロスが無くなり、知人夫婦にとってもいいだろうと思ったのです。せっかく引いたインフラも無駄になり移設費用もまとまった金額になるのなら、その予算を新居に組み込む事で有効活用できるだろう…と。


その後

それからしばらくして、別の設計事務所に依頼してサロンを建築したというお話を聞きました。掛かった予算は800万円プラス設計料だったそうです。僕の予想は概ね的中した事になります。

最終的には予定金額の倍近いお金がかかることになりました。その後その知人からは少しだけ後日談を聞くことができ、「こんなに掛かるとは思わなかった。だいぶ予算オーバーになった。」と、ちょっぴり後悔していたようでした。

僕からの忠告を受けても建築することを選んだ彼。でも最後には「やっぱり建ててよかったな」と思えたのなら、それはそれでよかったと思うのですが…。

結局、建築するのなら請けていれば僕らにとっても設計料をいただける仕事になったはずです。しかしその仕事がお客さんのためにならないと感じたときには、正直にそれを伝える事にしています。建築は大きなお金が掛かります。建てるお客さんにとってもきちんとした資産になって欲しいから、そうすることも僕たちの仕事・役目のひとつじゃないのかなと考えています。

建てない事を選択する、それをお客さんの立場になってお勧めする。
そう判断した初めてのエピソードでした。


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