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韋編三絶

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いまだくすぶる亡霊──『真説日本左翼史──戦後左派の源流1945―1960』

池上彰、佐藤優『真説日本左翼史──戦後左派の源流1945―1960』(講談社現代新書)、講談社、2021年 リベラル(liberal)とはその名のとおり自由主義、すなわち自由を尊重する思想のことであり、したがって個人主義、また小さな政府や市場経済の承認といった、統制排除の価値観などを重視するものである。 ところが、日本でリベラルといえば、一般に左翼と呼ばれる社会主義、はたまた共産主義までが含まれるという、奇妙な現象が起こっている。もっとも、ヨーロッパでも市場原理主義への反

伝道者かソフィストか──『反日種族主義──日韓危機の根源』

韓国人の癪に障るのに、韓国で飛ぶように売れているというこの不思議な本が以前から気になっていた。この度、予約していた邦訳版を入手したので、早速読んでみた。 李栄薫編著『反日種族主義──日韓危機の根源』、文藝春秋、2019年 『反日種族主義』の編者で経済史が専門の李栄薫は、ソウル大学校教授を退職した後、李承晩学堂を設立し、現在その代表として活動している。本書は、李承晩学堂の「YouTube」チャンネル『李承晩TV』において、李栄薫を含む6名の講師が担当した講義動画の内容を再構

萱野稔人『死刑──その哲学的考察』

世界中が死刑廃止に向かう中、今なお死刑を存置している日本は少数派である。実に国民の8割が支持しているとのことだが、死刑賛成派は果たしてこの本を読んでもなお、考えは揺らがないであろうか。 萱野稔人『死刑──その哲学的考察』(ちくま新書)、筑摩書房、2017年 例えば、死刑が廃止されれば、凶悪犯罪が増えてしまいかねないと考える向きは多いであろう。だが、社会への復讐を狙って、自らの道連れとするために実行される殺人もある。つまり、死刑が凶悪犯罪を誘発する事例もあるというわけだ。