星工芸の里(ショートストーリー)

 僕にしては珍しく、遠出をしてみた。
 運転中、車の外を流れていく景色をそれとなく見ていると、なにやら異様な雰囲気を放っている施設を見つけた。

 そこを見つける途中の道に、何度か見かけた旗。そこには『星工芸の里』と書かれていた。そして、今辿り着いた施設の看板にも、同じフォントで同じ名前が書かれている。
「ほしこうげい……」
 呆けたように呟く。その施設の周囲だけ、夜空が広がっている。今はまだ午前中なのに一体どうなっているんだろう。
 プロジェクションマッピング? ホログラム? どんな仕組みでこうなっているのか。気になって、中を覗いてみることにした。
 施設の入り口は門になっていて、そこをくぐる。
 通り抜けた瞬間、気温が変化したのが分かった。肌に触れるその感触は、まるで夜の中に居るみたいだ。
 微かに風が吹いた。どこかからりん、りん。と澄み切った鈴の音が聞こえてくる。
 敷地内の歩道や、駐車場以外に敷き詰められた、紺色の石。表面がいわゆるラメが入っているみたいにキラキラしている。さらに奥へと進むと、工房のような建物。自販機とトイレ。工芸品売り場と思しき場所もある。
 それらの中をそっと覗いてみる。
 あれ、何だろう。
 目を疑った。そこにあったのは、夜空のブロックだった。少なくとも、目に映ったそれを言語化する場合、そう呼ぶのが正解だろう、という見た目をしていた。
 周囲の空気とは混ざり合わず、境界線ははっきりしている。けれど、実際に触れられるのかは分からない。不思議な存在感がある。ゼリーっぽい? いや、もっと別な例えがある気もする。
 雲がふわふわと漂っているような、水に落とした絵具が広がっていった後のような。
 星工芸。もしかしたらここは、星を加工する施設、ということだろうか。
 もう少し中を回ってみよう。なにか面白いものが見つかるかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?