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ほどよく余白が残る街、ネウケン

 アルゼンチン中部の街・ネウケンを離れます。本当は明後日までいるはずだったけれど、チリで参加しなければいけないセミナーがあるので、全速力で帰る。間に合うといいんだけれど・・・。本当は今日中にチリ行きのバスに乗りたかったけど、午前9時発しかないらしい。明日のチケットを購入し、最後にネウケンの街をぶらつくことにした。ネウケンはいい街だったな。適度にのんびりしていて、誰も何も言わない余白がこの街にはある気がする。

 風が強かったけれど、天気は最高。金曜日ということもあってか、広場では多くの人が移ろう温和な時間を過ごしていました。バスチケットを買ったあとは、ある原稿を書くための街角インタビュー。昨日までに40人から短い話を聞いていたが「切りよく50人を目指そう!」と世話になっていたデスクからメッセージが来ていたし、もともとチリでのセミナーがなければ50人に聞くつもりだったんです。声をかけるのにもすっかり慣れたし、やるか。コツは水に飛び込むときと同じ感覚で、出来るだけ抵抗が少ないように、笑顔で流暢にスッとあいさつ&自己紹介をして相手の懐に入ること。そしたらあとは流れるだけ。

 ネウケンの余白は、いろいろな場所に漂っています。それは景色の中にもあるし、人とのコミュニケーションの中にもある。公衆の面前でカップルが抱き合い、芝に寝転がり、キスしあっても誰も何も言わないし、そこらじゅうにいる野良犬も介入しない。南米のいくつかの地域で「自分勝手を前提に、お互い許しあって成り立つ社会だから、みんな幸せ」と真理を発見した気になったこともあったけれど、ここネウケンでは「いい意味でみんなこだわりがない」という空気がある。

 余白を感じるのはネウケンだけではないけれど、すごく微妙なバランスで成り立っているように思う。広い公海をみんなが往来している。あまりに人が多いとぶつかりあうし、あまりにも過疎ってると寂しい。程よく街が整っていて治安もいいので、人の心も穏やか。南米には客引きや物乞いが寄ってくる地域もあるけれど、そういうこともない。それは特別、都市化が進んでいるということではなく、ネウケンはあんまり特徴がない「普通の街」って感じです。

 ネウケンは石油産業が盛んで、街は開発モード。もしかしたら、この穏やかな感じも数年後には変わってしまっているかもしれない。でもまぁその開発すらも、周りがだだっ広い荒野だからか、どこかゆるさが漂っています。あるいは、レンガ造りの高層ビルが、馴染みのないぼくからするとちょっとチープに見えるからかもしれません。8人ほどインタビューしたところで、川沿いの公園に向かった。

 川沿いのレストランに入った。昼からビールを飲んでやろうという魂胆です。最終日くらい、ネウケンを楽しみたいじゃないですか。メニューに載っていて、おすすめされたアルゼンチンビールは無いし、日替わりの魚料理もなかったけれど、そんなことでとやかく言う気はこの街で起こらない。全アルゼンチン人?の大好物、アサード(簡単に言うとステーキ)をほうばって、キンキンに冷えたベルギー産のビールを流し込んだ。

 想像以上に腹が膨れたので、川辺の砂利で昼寝。1時間ほど寝たな。久々に川の流れを見ると、なんだか落ち着くもんですね。さて残り2人のインタビューを終えるために、再び中心街へ。途中で渡った橋からは、練習にいそしむ数艇のカヤックが見えた。うらやましい。

 散歩中の園児を先導するのは、野良犬。これも余白のなせる技か。犬はしっぽフリフリ、得意げ。この規律がゆき届かない心地良さよ。ふと、密度って大事だなと考えてたんです。高密度だと、何か起きればその振動が一斉に伝播する。ビリヤードのブレイクショットみたいな、あるいは常に誰かが情報を監視しているネット社会のような、そんなもんです。園児を気にかけながら軽快に歩む野良犬、お咎めなしの保育士を見ると、しみじみ「いいなー」と。





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