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優秀卒論を11本も選ぶ理由

2021年度、神戸大学国際人間科学部グローバル文化学科(以下、グロ文)では「優秀卒業論文賞」を11本選びました。「11本は1学科の表彰の数としては多いのでは?」と感じる人もいるのではないかと思います。この記事ではその理由・狙いについて説明していきたいと思います。

新旧の選考方法比較

グロ文は、その前身である国際文化学部が発達科学部と統合して1学科になってから5年目の学科で、この春で2回目の卒業生を出したところになります。優秀卒論の制度はそれぞれの学科で独自に運用されていて、11本の優秀卒論を選んだ制度は統合の機に改められた新制度です。まずは新旧の制度を簡単にまとめたいと思います。

旧制度(国際文化学部時代)
(1) 12分野がそれぞれ最大1つの優秀卒論候補を選ぶ
(2) 3~4分野をまとめた4つの講座で議論してそれぞれ優秀卒論を1つ選ぶ
(3) 優秀卒論の題目・著者を公表する

新制度(現在)
(1) グロ文の12分野がそれぞれ最大1つの優秀卒論を選び、推薦文を書く
(2) 学科長が数件の「学科長賞」を選定して、論文の内容を表す賞名を付ける
(3) 優秀卒論の題目・著者を推薦文・賞名を添えて公表する

優秀卒論の数は、旧制度では最大4件、新制度では最大12件授与される可能性があるということで単純には約3倍増になります。(実際には2021年度は11本、2020年度は10本と少数の分野で該当論文なしとなっています。)

なぜこのような制度の変更を行ったのか。ここからはそれを説明します。

狙い1:多様性を体現・広報する

異なる分野の論文を並べて優劣を比較する旧制度のやり方は骨の折れる作業であるわりに不毛で、グローバル文化学科の重視する多様性の尊重とも相容れないものでしかありません。研究にも多様な良さがあるはずなのです。なんでもかんでも成果指標で測ることを押し付けられることに疑問を抱く大学側が自分たちも同じようなパラダイムに囚われるのも空しい話です。

だからと言って単純に優秀卒論を分野の数だけ選ぶという提案は「多すぎては格が下がる」というような反対意見が出ます。反対に「優秀卒論なんてそもそも無くしてしまおう」という提案では筋を通すことはできますが、コミュニケーションの機会を逸しているように思います。優劣を比較することが不毛なだけであって、異なる分野の論文を並べること自体はむしろ推進するべきことだろうと思います。

そんなことを考えて新制度は「こんなに多様でおもしろい優秀卒論が今年も揃いました」と内外に広報することを主眼に置いたものになりました。目的を少しシフトすることで、優秀卒論を分野の数だけ選ぶことが自然に受け入れられるようになるわけです。ホームページに推薦文とともに掲載することで、ネット検索なんかにひっかかる機会も増えることでしょう。

多くの優秀卒論の中から学科長賞を選ぶというのも旧制度の選考プロセスとは本質的に異なります。議論も何もなく独断で選ぶものですので、どうしても好みのようなものが入らざるを得ません。公平さには欠けると思いますが、それでいい。いや、それがいいのだと思っています。人にはそれぞれ好みがある。それもまた多様性の一つの形です。その心が皆さんに通じて、優秀卒論のリストを眺めながら、自分だったらこれが好きなどと考えたり、他の人と話したりするきっかけになったらいいなあと願っています。

単純に優劣を競うというよりは好みが入ったものだよということが見て伝わるように、学科長賞にはその論文ごとにオリジナルの賞名を付けてもらうことをお願いしています。学科長賞を通じて、そのときの学科長がどんな人なのかが見えてくる、そんな楽しみもある制度だと個人的には思っています。

本当は、学科長以外にもいろんな人に○○賞を選んでもらって、すべての優秀卒論が何かしらの○○賞に選ばれているというのを理想として持っています。そうすれば「優劣ではなく好み」がもっとわかりやすくなります。外部の方に参加していただけるとさらに多様性を推し進めることができそうですね。

ゆるぼ:○○賞に参加したい人・団体の自薦・他薦

狙い2:将来の異分野融合研究の種まき

12の大きく異なる分野が同居する学科にあっても、異分野の連携・融合する研究はなかなか生まれません。その理由は1つに定まるものでありませんが、ほとんどのメンバーが他の分野にまで視野を広げることができていないことに原因があると考えています。

イノベーションは異分野の人が集うだけではなかなか起きません。イノベーションが起きるためにはまず、一人の人の中で異分野の発想が融合する必要があるのではないか?と思っています。異分野の発想が融合した研究構想を持った人が先に生まれてこそ、異分野の人に響くコミュニケーションを取ることができるのではないでしょうか?

新制度のやり方では、そのときの学科長がグロ文のほぼすべての分野のホットな研究に目を通すことになります。これを続けていくことで、グロ文リーダー教員陣の異分野融合力が高まっていくものと期待しているわけです。

今後のグロ文にご期待ください!

謝辞

10本以上の卒論を年度末に読み通すのはかなり大変なはずですが、学科長の寺内先生には「どれも非常によく書けていて読みやすいので、思っていたほど大変ではなかった」とコメントしていただいています。学科長が寺内先生で本当によかったと幸運をかみしめるばかりです。ありがとうございます。

グロ文生のみなさんが期待以上にすばらしい論文を書いてくださることでこの制度に託した願いが空回りせずに済んでいます。これからも多様でおもしろい卒論に出会えることを楽しみにしています。ありがとうございます。

ここまで読んでくださってありがとうございます。サポートいただけましたら意欲ある学生を支援するのに使わせていただきます。