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カップ&スタンド 高子

本日ご紹介するのは、
ここ数年を振り返った時、
圧倒的に買ってよかったもの、

白い「カップ&スタンド」

高子です。


道具なんだから、
黙って、ただ使えば良いのに、
なんで、わざわざ、
言葉にしたくなるのでしょう?

この子のことを…。


道具なのに、
その役割を超える何かを、
醸し出す存在は、


どういうわけか

「 子 」

を纏いはじめます。


それは、こころの海の潮の加減、
潮位が変化するからではないでしょうか。

買った、という感覚の潮はだんだん引いて行き、
出会った、という感覚の潮が満ちてくるのです。

その子には、
「出会えて嬉しい、これからヨロシクネ〜」と、
語りかけ、使い方、触れ方が、
変化してゆくのです。

毎日使っているうちに、
何だかその子が、可愛いくなって来て、
毎日会っているような、
不思議な気持になってくるのです。

可愛いいという感情は、
モノという存在を超えたあたりから芽生え、
尊厳らしきものが生まれ、
大切に扱った体感を積み上げ、
自分の一部のように感じられたりと、
お互いの関係が、
いわば発酵するようなものなのでしょう。

そうして、
ついた名前が高子です。






そのカップ&スタンドは、
全体のサイズがコーヒーサイズでなくて、
ちょっと小ぶりな歯医者さんサイズ、
軽くて持ちやすくて、汚れにくい素材。

用もないのにカバンに入れて、
連れて行きたくなる衝動に駆られるのです。


さて、
高子の朝は、
朝日のあたる洗面台に咲く白い花
 シルビー・バルタンのようであり、


高子の昼は、
紅茶を飲んだ後の
 カトリーヌ・ドヌーブの微笑み、


夕暮れ時の高子は、
ジャンプスーツでバイクに跨涼り走り去る、
マリアンヌ・フェイスフルのようです。




ふつう
「カップ」の相方は「ソーサー」なのに、
この子の相方は「スタンド」なのです。

カップを使い終わったら、
口を下に向けて、
コート掛けの帽子のように、
スタンドにそっと収まるのです。

彼女の小ぶりな頭頂部を、
そっと後から支えるスタンドは、
危ういうなじにしか見えません。


その姿はヘップバーンの
「おしゃれ泥棒」のようであり、
わたしがそこから動けなくなるのも、
お分かりいただけるでしよう。



えっ? 
分からない…、

例えが古すぎる?

ですよねぇ〜、

でも、風情を纏うには、
やはり寝かせて半世紀ほどかかります、

たとえ今、どんなに可愛くても、
若いだけでは発酵美人にはなれません。

発酵して、しなやかになり、
熟成して、時代を超越しないと、
独特の香りが出ないのです……。



続けます。


しかも高子は、
またいつでも使える体勢で、
静かに洗面台の傍らに佇たずんでいる、

灯りはつかないのに、
まるで小さな照明器具のようなその姿は、

やはり
高子です。


歴史の教科書にも載っているシーボルト、
その孫にして、メーテルの原型とも言われる、

高子に違いないのです。

高子


高子の美しさを言い表すのに、
他の女性たちのイメージを持ち出すとは何事かと、
女性たちからは、怒られるかも知れません。

でも、時間別に咲く花の名前を、
そんなに知らないので、
銀幕に咲いた花を並べてみたのです。

高子がちょっと怒る顔も、
見てみたかったりもするのです。




お〜っと、だいぶ暴走してしまいました。
でも、
愛は衝動ですから、止められないのです。

「カップ&スタンド」に戻しましょう。


高子は、
ある役割を終えると同時に、
次の役割として機能します。

場面と場面をスムーズに繋ぐ
「エフェクト」のような役割です。

たとえば一日の終わりと、翌朝の始まり、
その間に横たわる、
睡眠と呼ばれる「別世界への旅と帰還」

その旅の入り口と出口には洗面台があり、
そこには必ず、高子が佇んでいるのです。


ですが…、

いずれ私にも、
別世界への旅から帰還せず、
洗面台の前に立つことがなくなる日が、
訪れるのでしょう。

その時、
なぜ今日は顔を出さないのか?と、
高子が心配しないように、

高子に遺言を書いておきましょう、
島倉千代子のBGMとともに。

人生いろいろ、
食べたものもいろいろ、

暮らしの隙間や、
歯の隙間にもいろいろ、

さざ波のように繰り返される日々の中で、
いやなことも、うれしいことも、あったね、

喜びを噛み締め、辛酸を舐めた事もあったね、
パンデミックをうがい、手を洗い、
すべて洗い流して来たよね。

でも、
湖に小舟がただひとつ浮かぶように、
いつも君はそこにいてくれたね。


ありがとう高子、
君は最高のカップ&スタンドだった。

いつか、
わたしが洗面台に立たなくなっても、
心配しないでほしい。

その時、
もう君はカップとして機能する必要はない。
もう君で水を汲んだり、
君に水をかけたりしないから、
安心してゆっくり休んで欲しい。

これから長〜く続く別世界から、
洗面台の傍に佇む君を、
ずっ〜と、眺めているから。

愛しのカップ&スタンド

高子へ


今日も洗面台横に佇む 高子

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