見出し画像

ミドルキャリアで苦悩する人のメカニズムとは?~新卒入社した大手企業に16年勤め上げて課長目前だけどいまだに確固たる自信がない~【キャリアストーリー解説編②】

こんにちは。堀内猛志です。
前回のnoteでは『新卒入社した大手企業に16年勤め上げて課長目前だけどいまだに確固たる自信がない』というキャリアストーリーの解説編①を書きました。

今回も太郎というペルソナと近しい方の参考になるように、キャリアの考え方やキャリアアイデンティティの観点から、太郎と同じ思考に陥った人の対処法をお伝えしていきたいと思います。


年齢とキャリアを積み上げると「しごと」の『オーナーシップ感覚』が変わる

このnoteを読んでくれている人はほとんどが日本人で日本的な企業にお勤めなので、太郎と同じく、新卒で入社後、会社からの辞令によって部署や職種や業務が決まったはずです。最近では配属ガチャというネガティブな視点で配置を語られることもありますが、全く経験もスキルもない人を雇い、業務を教えながら給料もくれるという、働く人にとってはかなりポジティブな仕組みだと思っています。

この仕組みを何となく理解でき、この仕組みに乗っかることを決めたのであれば、スポンサー(企業)の意向に沿った業務を行い、求められる価値を出した方が早いと思うでしょう。そして、企業側(上司側)も、その仕組みを理解して文句言わずに働く人間を良い人材だと評価し、仕組みを理解せずに「やりたいことができない」と文句を言うにも関わらず仕組みに乗っかろうとする人間をイマイチな人材だと評価します。

島耕作1巻より参照

上記は漫画「島耕作」での1コマです。アメリカ行きの辞令に対して主人公である島耕作が即決したことに対して、上司が良い人材だと評価しているという場面です。この漫画が発売されたのは1985年ですが、今なおこのような風潮は日本的伝統企業(Japanese Traditional Company)には残っていると思います。

余談ですが、島耕作はJTCで出世する人の最高峰のペルソナです。自社がJTCであり、自分の会社でトップに上りつめると意気込んでいる人は是非島耕作をバイブルとして読んで下さい。

さて、話を戻します。新卒の頃は能力も経験もないし、会社や事業がどこを目指しているのか説明を受けてもピンとこない状態が続くと思いますが、がむしゃらに業務に取り組むことで見えてくるものが違ってきます。会社の目指すもの、上司の言うことがわかるようになってきます。これは能力がついただけではなく視座が上がったからです。

文章では概念が理解しづらいと思うので図解化します。

キャリアアイデンティティの確立に伴う「しごと」の概念の変遷

「業務目標と求められるスキル」を紺色、「個人目標と保有スキル」を水色とし、水色の丸の大きさの変化で個人のアイデンティティの成長を表し、丸の重なり具合とズレで個人と組織のフィット感を表しています。
目標は、意義、視点、ビジョン、ウィルなどと置き換えてもいいと思いますが、その業務を行うことで向かう世界観のようなものです。ここでは一律で「目標」と置くことにします。

【仕事】仕える事で生計を立てる状態

会社から求められる「業務目標と求められるスキル」が、「個人目標と保有スキル」を上回っている状態です。自分の視点では会社の目指すものがぼんやりとしかわからず、自分のスキルを全部出し切っても求められていることに追い付かない状態です。この丸の重なりの差が大きいほどスキルミスマッチが大きいわけなので、相当な努力が必要です。差が大きいほど見えている世界も全然違ってくることもあり、意義もわからなければ、時間をかけても終わらない業務に疲れ退職する人が現れます。一方で、自分の視点が低く、スキルも足りないにも関わらず業務を与えてくれ、給与ももらえている状態なので、非常にラッキーだとも言えます。まさに「仕えている状態」ですね。

自分の能力が追い付いていないのに給料をくれるのですから個人が文句を言える立場ではありません。「うちの会社は下の人間の言うことを聞いてくれない」と会社の風土や上司に文句を言う人が多いですが、よくよく聞くと文句を言う人が文句を言えるレベルではない人であることが往々にしてあります。仕えている状態では業務を楽しいと思える人は少ないでしょう。しかし、自分に足りない能力を追いかけている状態であり、そこに成長実感を見出す人にとってはポジティブな状態とも言えます。

【私事】自分事で楽しく働ける状態

能力向上と共に視座も上がってきます。以前までわからなかった上司からの命令の意図や会社が求めていることの解像度が上がってきます。視座視点が合っている状態で、業務に対して能力がフィットしている状態なので、業務がどんどん楽しくなってきます。太郎の場合、太郎の成長に伴い、太郎の能力に合った配置転換を会社を行っていたので、太郎はゾーンに入りました。

公私ともに充実し、楽しく働けている状態だと人は「今に何の疑問も持たない」のです。なぜなら、自社の環境を最高だと思い込み、これが未来永劫続くように思ってしまうからです。これが実は問題です。うまく行っている時ほど自分を見つめ直し、自己認知、メタ認知を繰りかえしながら自分のスキルの棚卸、自分の市場価値を見定めるための葛藤を繰り返すべきでした。この葛藤については次回のnoteで説明します。

【志事】大義に向かい組織に収まらない状態

優秀な人ほど業務の中で様々なことを吸収します。そして能力はぐんぐん向上します。しかし、それによって問題が生じます。自分の視座視点が会社から求められているそれよりも高くなり、自分の能力が求められている業務を超えてしまうのです。

成長意欲が低い人にとっては最高の状態です。仕事をしている時代は120%の力で働く必要があったので毎日ヘトヘトでしたが、自分の保有能力が求められる業務レベルを超えたことで80%の力で業務をすることができ、20%の余裕を手に入れることになります。ただし、こういう人の視点は志に向かいません。サボれる状態をこれ幸いと享受し、この楽なポジションでい続けることに執着し始めます。このポジションにいるための努力には余念がないために会社の仕組みに100%乗っかります。よって、こういう人の上司にはすごく優秀な人に見えます。業務はちゃんとする聞き分けの良い部下なのですから。

伝統的日本企業ではこういう人が出世してしまうのですが、大変なのはこういう人の部下になった人です。昔は優秀だったかもしれないが、今は業務を選び、できることだけしかしないし成長意欲もない、こういう最悪な上司の元に配属された将来のエースが早めに退職を決断するという実情に、JTCの経営陣と人事は危機感を持ってもらいたいものです。

これはムダな組織階層が多い日本企業の弊害でもあります。これらの問題は、ピーターの法則、ディルバートの法則、パーキンソンの法則などでも証明されています。ちょうどよい記事を見つけたので貼っておきますが、今回のテーマとは外れるので言及するのはここまでとします。

志事と書くと一番良い状態に思えますが、太郎のようにこのフェーズまで来て初めて悩みだす人は少なくないのではないでしょうか。真面目な人ほど楽に業務ができてしまうことに危機感を持ちます。成長実感がないのですから。会社の目指すものより、自分が描くものを実行したいという気持ちも強くなり始めます。自分ならできるという自信も生まれているのですから。自分の身体が今まで着ていた服をビリビリに破っている状態です。大変です。だからこそ、より大きな業務を求めて異動願いを出します。しかし、それが叶わないことが多いのです。

『努力すれば何とかなる』の嘘

日本企業における優秀な人は、仕組みをちゃんと理解し、仕組みの中で最大限の成果を出せる優等生です。学生時代も早めに勉強の仕組みやテストで点を取るための仕組みを理解することでスクールカーストの上位をキープしてきたはずです。社会に出ても同じように今の地位を手に入れてきたので、いきなり違う仕組みで動くゲーム(外資/スタートアップ/起業)に変更するようなことはしません。まずは、仕組みの中で勝とうとします。だからこそ、社内での部署異動を求めます。一番リスクも少なく、且つ、自分のこれまでの勝ち方で勝てる仕組みがあるからです。

そして、真面目な人はこれまで自分の努力で環境を作ってきた自負があるので、自分を信じ、自分の力だけで変えようとします。しかし、残念ながら環境や仕組みは自分の努力だけでは変えられないことが多いのです。

太郎の場合、これまでは自分の望むキャリアを手に入れてきました。しかし、コロナという問題があったとはいえ、次のキャリアが見えなくなって初めてポジションがあることが当たり前じゃなかったことに気づきます。

2対8の法則は有名ですね。組織における業績の80%は上位20%の人によってもたらされているという法則です。組織はそれがわかっているので、上位20%の人にはできるだけ本人の意向に沿い、会社として肝入りのポジションに置こうとします。いかんなく業績を上げて欲しいし、退職して欲しくないからです。しかし問題は、必ず上位20%の人材に適切なポジションを約束できる会社はない、ということです。

高度経済成長期、年功序列と終身雇用が成り立ったのは、市場が絶対に伸び続けるという前提でした。毎年上位20%の定年退職者が出る以上、その次の年代における上位20%の人はすべからく次のポジションを与えることができました。しかし今はVUCAの時代、市場が常に成長しているわけではないので、毎年同じだけのポジションを用意することが約束できないのです。

成長企業はばしばしポジションが生まれます。事業成長に組織成長が追い付かないからです。しかし、図体が大きい企業ほど、年率で大幅に成長し続けるのは至難の業です。つまり、ポジションが空く、または作るのが難しいのです。ということは、上位20%ではなく上位5%くらいの人にしかポジションを与えられなくなります。太郎はここに外れたわけです。

新卒の頃の配属ガチャはポジティブな面もあると前述しました。能力が低いのに業務を与えてくれる以上、どこのポジションでも自分の能力を磨く機会はあったからです。しかし、最悪なのはキャリア中期の配属ガチャです。もはやほとんどのポジションで太郎の能力は会社が求める業務よりも上回っています。そして、太郎が求めるポジションは上位5%の人にとられました。つまり、今後の異動は太郎にとってポジティブな理由は1ミリもなく、会社の都合による駒の並び替えなのです。

あなたはこの状態で、自分の力だけでこの大きな組織を変えられますか?そういうことなんです。

自分は頭が良い、優秀だと思っている優等生ほど注意が必要

日本の就職活動の仕組み上、人気企業と言うブランドを持っている企業ほど優等生を獲得しやすいようになっています。優等生たちも吸い込まれるように人気企業に入っていきます。お互いにとってこのマッチングは合理的だからです。

ここまでの記事を読んで企業はひどいと思いましたか?優等生の皆さんなら理解できたと思いますが、企業は非常に合理的なんです。むしろ、個人の悩みに全体を合わせるような非合理な選択をする企業は崩壊してしまいます。この状態に陥った原因は仕組みの中だけで勝とうとした優等生のあなた自身の中にあります

創造性研究で知られるスタンフォード大学のティナ・シーリグ教授は「問いはすべて枠組みであり、答えはその中に収まる」とした上で、「枠組みを変えることで、解決策の幅は劇的に変化する」『リフレーミング』の効用を説明しています。まずはあなたの中にある凝り固まった枠組みを外すというリフレーミングを実践すれば、自ずと解決策は見えてくるのです。

問いと答えの関係

とは言えリフレーミングの実践は、自分の中で信じていた感覚や常識のパラダイムチェンジなのでそう簡単ではないでしょう。私に相談に来る方も、その方自身の中では枠の外に答えを求めていそうなので、私もそちらの方向に行くように問いかけるのですが、結局自分の中で元の枠に収まる人が多いです。

ということで次回以降は、枠組みを外すための自分との葛藤方法と、30代以降の自律キャリアの思考方法を説明していきます。


自身の常識をリフレーミングしたい方、太郎のようにリアリティショックからキャリアが見えなくなった方は以下よりご相談ください。

自分のタレントを本業以外の場面で活かしたい、キャリアクラフティングを実践したいという人はこちらからご連絡ください。

それでは今日も素敵な一日を!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?