見出し画像

最近泣いてしまったこと

先日、食材を宅配で届けてくれるサービスを検索しまくっていた。
初回だとトンでもない割引があるので、それ目的で

「ぐえっへっへっへ!貴様らに二回目はないのでアール!」

と心の鬼を前面に出してお試し申し込みをしまくっていると、ある一社から「これから食材を持ってお届けに上がります」と、昨今の若者が苦手な直電が入った。

まるでこちらを見透かされているかのような迅速な動きであったのだが、こちらも暇だったから

「どうぞ!(来るモンやったら来てみぃや!独身がガン首揃えて待っとるけぇのう!)」

と答えてから三十分後。
僕はまんまと「へい…へい…」と頷きながら、契約申込書を記入していた。

毎週配送の予定はあるものの、置き配をしてくれる上に近隣スーパーと比べて値段も高くないし、この週はイラン人ならお休みもOKだったら、まぁいっかと思ったのだ。

そして迎えた初週。
届けに来てくれた配送員はおじいちゃんに近いくらいのご年齢の方で、物腰は柔らかく、配送のことについてアレコレと丁寧に教えてくれた。

ただでさえ配送するのは大変なのに、応対バッチのグーグーガンモちゃん!と安心しながら頼んだ商品を冷蔵庫にキャンプインさせていると、ひらりと一枚のA4サイズの用紙が落ちて来た。

ゴミチラシかしら、と思っているとどうやら違っていて、どうやら先ほどの配送員の方が自前で書いた新聞なのであった。
内容は全て手書きで、ナンバーが三桁台なことにその歴史を感じさせた。
それを書くために人知れず続けて来た、守って来たこともきっとたくさんあるんだろう。

新聞には下手ウマだけど、とにかく一生懸命描いたのが伝わるカワイイねこちゃんのイラストが満載で、宅配先の方のお声、おすすめの食材、配送していて感じた最近の事柄なんかがイラストと共に掲載されていた。

絵だって、字だって全然うまくないのに、僕は新聞を読んでいる内に自然と暖かい気持ちになっていた。

『虫には虫の、鳥には鳥の、人には人の春がはじまっています』

そんな言葉のやさしさとおおらかさに、僕は不覚にも何故か泣いてしまった。

これは日頃ホラーや犯罪的な小説を書いているが為に情緒がおかしくなってしまった訳ではない。
いいか!違うからな!違うって言ったら絶対違うんだから!キィーー!!

実は小さな頃から駄菓子のパッケージなど、「デザイナーを頼めなかったから、下手なりに手書きで一生懸命描いてみました!」的なデザインのものを見ると、心がウッとなってゴミ箱に入れられない子供だったのである。

キティーちゃんだのミッキー君だの、商業スケコマシみたいなキャラが描かれているものは問答無用で顔面目がけて縦裂きでパッケージを開ける癖に、がんばって描いたの!みたいなパッケージの商品は何としても描かれているものを傷つけないようにしっかり上部を開封する子供だったのである。

しかもあんまりにも空の袋を捨てられないから溜めに溜め込んでしまい、母親に叱られた挙句に庭で大量焼却処分されるというショッキングな出来事も味わったことさえあった。

このような手書きタイプのものを捨てられない現象をなんというか不明だが、妹二人へ以前この話しをした時に「めちゃくちゃわかる!」と同意を得たので、遺伝的な物なのかもしれない。

と、話が脱線したけれど宅配員の方が書いた新聞にとにかく心が揺れ、泣いてしまった独身男がここに居るのであった。

また届くのが楽しみだなぁと思いながら新聞を読んでいると、お客さんのお声コーナーで

「復職がんばって!」

と書かれているのが目に留まった。
ご年齢もご年齢だから、もしかしたらお身体に無理が祟ったのかもしれない。

新聞は楽しみだけど、これからも無理せず頑張って欲しいなぁ、なんなら新聞だけ書くお仕事を与えてやってはくれまいか。この大枝が待っているゾ!と宅配会社に意見もしたくなったがそんな権力はないので、また新聞が届くのを心待ちにする日々が始まった。

しかし、その次の週、そしてさらに今週と、新聞は届かなかった。
それどころか、今週に至っては配送員があの年配の方ではなく、若くて!イケメンで!物腰がやはり柔らかくて!韓国っぽい感じで!世の主婦たちが

『ぎゃああああああああああああ!!!!』

とザコシばりに銅鑼をジャンジャン鳴らしながら大興奮してしまいそうなナイスガイに代わっていたのである。

流石にちょっと心配になってしまい、脱水したてのクリス松村みたいな顔の僕はナイスガイに尋ねてみることにした。

「今週、Oさんじゃないんですか?」
「そうなんですよ。なので、今週は僕が代わりにお届けに上がりました」
「そうなんですね。ところで、最近セックスはしてますか?」
「通報しますね」

と、朗らかな会話をしながらも「Oさん今週休みなんだ……新聞、ないんだなぁ……」とシメジを冷蔵庫にキャンプインさせつつ、ちょっぴりおセンチな気分になったりもした。

そんでもって、今日その宅配会社から電話が入った。
ワタシ……イケメンに訴えられたのかしら、と思いながら電話に出ると、契約してから一ヵ月経ったのでそのご挨拶なのだと言う。

なんとも丁寧だなぁと思いながら、「最期に、いや、最後に何か質問や言い遺すことはねぇか?」と聞いて来たので、例の配送員の方についてこんなことを伺ってみた。

「あのぅ、Oさん、お休みしてるんですか?」
「ええ、そうなんですよ。ちょっと体調を崩してしまいまして」

やはり、体調を崩されていたんだなぁと思いつつ、ちょっと柄にもない言葉を伝えてみた。

「あのぅ、Oさんが作った新聞……なんですけど」
「あ、はいはい!何か……不都合ありましたか?」
「いえ。とても暖かくて、そのぅ、届くのが凄く楽しみなんです」
「本当ですか!Oがとっても喜ぶと思うので、伝えておきますね!」
「ぜひ、お願いします。が、頑張って下さいとも、ゼヒ、オツタエ下サイ」
「はい!ありがとうございます!」

他人様に「頑張って」だなんて、あんまりにも慣れない言葉だったのでしどろもどろになってしまったが、とにかく言いたいことは伝えられた。

Oさんは来週から復帰予定とのことだったけれど、無理はせずに楽しみながら配達してくれたらと心待ちにしている。
だって、いつも身勝手に移り変わる季節をあんなにやさしく探せる人なんだから。

「頑張って下さい」なんてエラそうに言ってしまったけど、そんな人にこそ小さくて暖かな季節がやって来て欲しいなぁ、なんて思う大枝なのでした。

今日は少しほっこりした話が出来たので、明日は気の狂った人が主人公の小説投稿します。

Oさん。新聞たのしみにしています。

サポート頂けると書く力がもっと湧きます! 頂いたサポート代金は資料の購入、読み物の購入に使わせて頂きます。