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【エッセイ】 春のような朝に

どうも。私こと、大枝です。
今回は90年代J-ROCKのようなタイトルですが、サニーデイサービスが髪を掻き上げながらギターを弾き狂って感電死するお話しとかじゃありませんので、どうぞご安心を。

さっそく、本題。

先日まで2月だと言うのに何ともすっとこどっこいな狂った季節に日本列島は見舞われていた。
日中の気温は25度近くにもなり、部屋で過ごしていた僕は背徳感を抱きつつエアコンの『冷房』ボタンを押そうかどうか苦悩し、神へ赦しを請うている間に「まぁまぁ」と対話になり、人類が帰すべきイデアについて討論している間に夜になってしまったほどである。

その日は朝から気温が上がっていて、朝の9時には既に15度近くまで気温が上がっていた。
昨年の今頃なんか朝はマイナス5度とかで水道管が凍結し、蛇口を捻っても水が出ないので

「ぬわぁんで水が出ないんだっっっ!二ヶ月遅れでしっかり水道代は払ってるのに!こんなの差別だ!きぃーっ!きえええええ!」

と取り乱し、独居中年男性によるアパート自殺が目の前を通り過ぎて行くF1カーくらいの速度で頭をふと過ったのであったのだが、今年の冬はどうやらそんな機会もなさそうだ。

8時。開け放った窓からは薄っすら春のような草の香りが漂うと、今年も花粉症で苦しむ人を高みの見物でもしようかと言う気分にもなった(大枝は鼻の粘膜除去済です)。

煙草も切れそうだし、朝のコンビニエンスへ行ってみようと部屋を出て、そのまま歩き出した。
外はそのまま突然の春が訪れたような空気に包まれており、まったく寒さなんて感じなかった。
なんと気持ちの良い朝なのだろう。
ただ、ちょっと距離があるからやっぱり自転車で行こう。

そう思い踵を返したものの、僕がアパートへ戻ると別部屋の住民がヘルメット姿で部屋から出て来るのに出会してしまった。
日頃から常に人に会わないように警戒心丸出しで生きている僕はギョッとした。

このまま自転車を取りへ戻ったら、今出て来た住民と二輪置き場で鉢合わせになり、

『おはようございます!』

の挨拶イベントが発生してしまう!!

おはようございますは嫌だ!面倒くさい!ひぃぃええええ!顔を覚えられたら次また会った時に挨拶しなければいけなくなってしまう!スーパーであったら?コンビニであったら?出先であったら?はたまた旅行先であったら?
きゃあああああああああ!

という至極人として真っ当な想いに駆られ、再び踵を返した。

まぁ、単純に知らない他人にわざわざ挨拶するのがメンドウなのである。
アパートでどうしてもバッタリ会ってしまい挨拶をしなければならない場面になれば、それはそれできっぱりと諦め、物凄く小さな声で

「あっ、お、はようごさぃまーす……」

くらいは堂々と伝え、ふた回り下くらいの若者にガン無視されたりして、「アイツ、本当に何もない場所で突然事故れば良いのになぁ」と心の底から舌打ちしたりするので、ワタシはまだ大丈夫!と自分では思い込んでいる。
なので、僕の人間性への信頼はおおいに持って頂きたい。

そんな爽やかな性格の大枝だが、やはり住民と挨拶するのが億劫でコンビニエンスまで再び歩き出した。
距離にして片道五分ほどのプチ散歩である。

朝の早い時間とはいえど社会はしっかりと動き出しているもので、いそいそと駅へ向かうリーマンや学生、自販機の補充に回るトラックなどが目に飛び込んで来る。

うむ!みんな真っ当に生きていてえらい!!
そんな言葉を心の中で一方的に掛け続け、とある学習塾の角を折れた瞬間に思わずひっくり返りそうになった。

うむ!みんな真っ当に生きていてえらい!
と、さっき心の中で声を掛けた自販機補充のまだ若そうな配送員が、角を折れた学習塾の自販機裏手で威風堂々と野良オショウベンをぶっ放していたのである。

「ズコォーーーー!!!!」

と声に出して盛大にすっ転んでみようと思ったのだが、そのオショウベンの軌道がなんとも「まん丸」なアーチを描いているのを見て、何故か心が和んでしまった。
まるで「オイラ、オショウベンでお日様を描いているんだ!」そう思うほど、とにかく平和な軌道なのであった。

あれだけ緩やかな上昇軌道を描くということは、オチンポ君を意図的に上に向けて放水、或いはオレのターン、ドロー!オチンポ君は朝の効果により勃起を発動!しているかのどちらかだろう、と思った。

肝心のオションの勢いを見るに、シャーーッ!!という消化モードではないから、つまり彼はご機嫌なオチンポ君を春の陽気に合わせ、意図的に上に向けて放水しているのだ!ズバーン!という、シャーロック・ホームズも驚愕して禁煙し、土下座をしてしまうほどの名推理が瞬時にして脳裏を走って行った。

やはり、ここが大枝と一般人のデキの違いなのである。
小説とは、絶間なき観察と考察の子供なのだ。

ふむ、野良オションベンはいけない。しかし、ここは大人として目を瞑り……気候も穏やかだし、見なかったことに……。
と思ったのだが、よくよく考えてみたら彼はおそらく得意先の、それも学習塾の自販機の裏手で小便をこいているのである。

イカン!遺憾!学習塾で野良小便はイカンザキ!と憤慨し、軽犯罪であることを思い出した。
一度は逸らしかけていた視線を勧善懲悪の目線で彼へギンッ!と向けると、ちゃんと目が合った。

『おまえ、野良オションはいけないぞ!しかもそこはキッズ達の集まる学習塾で、おまえの得意先なんじゃないか?』
『違うのです!これは、決してショウベンなどではないのです!』
『では、なんだと申す?言ってみろ!!』
『はい!!小生なりの、バンクシーであります!』
『そうか!では君の表現を続け給え!』
『はい!ストリートの表現、頑張ります!』

そんなココロとココロの会話をサイキックで交わしてみたものの、

「いや!ただのショウベンだわ!!」

と我にかえり、彼から目線を外すことなく歩き続けた。
すると、平和なお日様を描いていた軌道は焦りの為か大きくブレ始めた。
焦りはすぐさま、彼の顔色を変えた。

「そんなさぁ……」

と顔を青くした彼はポツリと言って、荒ぶるション軌道もろとも、なんと放水状態にあるオチンポ君を股座に収めようとし始めたのであーる!!

何が「そんなさぁ」なのか分からなかったし、そんなさぁはこっちのセリフだ。
絶対手に引っ掛かっているだろうし、まさかその手でドリンク補充を続ける気じゃないかと思ったが、多分そのまさかだったのであろう。

彼はエビデンスとなる放水跡を点々と残しつつ、トラックの運転席へパリの火事場泥棒のような勢いで飛び乗ると、そのままエンジンを掛けて文字通り逃げて行った。

まぁ……春みたいな日だからなぁ……と僕が思うことはなかった。
だって、すぐ傍に公衆トイレを完全完備した公園があるからだ。
小便はそこですれば良いし、もしかしたら何か仕事に不満があっての行動だったのかもしれない。

普段も書き物も僕は性格が非常に大人しく、密輸されて港区女子宅で突然飼われ始めたプレーリードッグのように臆病な性格なので、塾の「お問い合せ」フォームにすぐさまアクセスし、件のことを放水時間も含め、お知らせしておいた。

諸君もオションが突然やって来た際は焦らず、まずは深呼吸をしてから便器に向かって堂々として頂きたい。
野良ショウベンではバンクシーにはなれないのだ。
そんな大人として立派なことを願う、春のような朝の出来事なのであった。

一体このエッセイは何の話しなんだろう……
ええ……?と思っている方へ告ぐ。

僕も同感である!

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