「5年後も、僕は生きています ㊾手放す、ということ。」
㊾手放す、ということ。
2021年9月26日、不動産の契約書の取り交わしのため、僕は不動産屋のオフィスにいました。
手付金や契約書など、もろもろの書類を掻き込んだり確認したりして、準備は万全です。
あとは先方の方が先方の担当不動産屋さんと一緒に来て、書類の受け渡しと契約書の捺印、取り交わしで終わりです。
「ああ、これであの家へ正式に引っ越せるんだな」
僕は、ワクワクしました。
そう、その家は1階が吹き抜けのひと部屋になっていて、とても明るく広々としていて、庭はそれほどではないものの、木々や緑もあって、ほんとうに住みよさそうだったのです。
僕の頭の中には、あそこには「これ」を置こう。あの部屋は「こう使おう」という構想がほぼ固まっていました。
約束の時間を少し過ぎたころ、先方の女性と担当不動産屋さんが到着しました。
担当の不動産屋さんは以前会って話をしたときはしっかりしたベテランの女性でしたが、今日は若い男性でした。なんでも今日は契約書の取り交わしだけだから、ということで若い方が任されたそうでした。
そして…売主の女性と一緒に、何やら気難しそうな男性が入ってきました。
一瞬、不穏な雰囲気を感じましたが、気にせずに流しました。
「こんにちは」
挨拶をしてから、さっそく契約書の内容確認が始まりました。
僕の方はもうすでに、この書類の作成は先程終わっています。
先方の不動産屋さんが契約書の確認を読み始めたとき、売主の女性が
「ちょっと待って」
と言い出しました。
なんでも資金的な事を変更したい、と言い出したのです。
若い不動産屋さんは
「先日のご説明では、これで全く問題なし、これで行きます、と言っていたではないですか?」
と困惑気味に言いました。
「でも、あれから考えて、変えたくなったのよ」
「それを今、この場で言われても…今日は契約の日なんですから」
押し問答が続きます。
横で不機嫌そうにしていた男性が口をひらきました、どうやら息子さんのようです。
「そもそも、オレ何も聞いていないし、ホントにあの家売るの?」
腕組みをしていて、超ネガティブオーラを発しています。
「おいおい、それ、いま言う?」
と思いましたが、聞き流しました。
それを聞いた不動産屋さんはさらに困って、上司に電話で指示を仰ぎましたが、売主の二人の態度が急変したこともあり、どうにもなりません。
一生懸命説得と説明を約2時間…
結局、どうにもならず
「今日は無理、考え直す…やっぱり売らない」
ということになってしまいました。
オーマイガ!
引っ越し先が、無くなった!
長嶺君が困り切って言いました。
「こんなこと、僕も初めての経験ですし、聞いたことありません。すみません、刀根さん、ご迷惑をおかけして。こんなの、聞いたことがありません。前代未聞です」
「いやいや、まあ、これは誰のせいでもないからさ。こういう流れだったってことで」
約2時間ずっと立ちっぱなしで説得していた先方側の不動産屋さんも、売り主の二人を送ってから戻ってきて、平謝りに謝って帰りました。
で、さて、どうしよう?
一番困ったのは、僕です。
なんたって、引っ越す先が無くなってしまったのですから。
退去日は、もうひと月もありません。
それまでに、またあの作業…ネットで探し、舟橋さんに見てもらって、物件を見学し、契約をする…
それから引っ越し屋さんを選んで、ダンボール詰めて、引っ越し…
間に合うんだろうか?
不安と焦り…
それともに、不快ところから、なにやらささやく声が…
意味があるよ
全ての出来事には、意味があるんだよ
そう、久々に聴こえてきた「魂くん」の声。
魂くんは「直感」という声で語りかけてきます。
頭の中を「思考」が渦巻いていると「直感」がキャッチできなくってしうまうのです。
そのとき魂くんは、僕に向かって…
「執着を、手放せ」
とささやいていました。
そう、そのころの僕の頭の中は、新しい家のことでいっぱいでした。
常にそのことが頭の中に渦巻いていて、家の間取図やら周辺の地形やら、そんなことに取り付かれていたのです。
「思考」でいっぱいになっていたのです。
その執着、しがみつき、こだわり、それを気づかせるために、この契約当日のキャンセルが起こったと、僕は直感しました。
そう、全ては僕自身の気づきのための魂くんの計画。
それに気づいたとき、やけにスッキリと腹落ちしました。
なんだ、そうだったのか…
売主の相手の方やその息子さん、ましてや不動産屋さんを責める気持ちなど、微塵もありません。
全ては宇宙の流れなのです。
気づかずに執着していることに、気づくこと
そう、気づいていないんです。
気づけば、客観視することで何とでもなります。
気づいていない執着。
これに気づくこと
気づかせてもらうこと
これは目の前に起こる出来事と、自分の内面の摩擦を感じ取ることでしか、キャッチすることは出来ません。
そういった体験、出来事を魂くんは目の前に起こしてくれるのです。
目のまえに起これば、対処せざるを得ませんから。
今回の学び…
「手放すこと」
僕は手放しました。
手放すことを「受け入れ」ました。
気持ちもスッキリ
自分がひとつステージが上がった気がしました。
そして、新しい家に関しては、不思議なことが起こりました。
契約破棄の翌朝、つまり、手放すことを悟った翌朝、長嶺君から連絡が入りました。
「刀根さん、あのとき見学に行ったもう一軒の家、ローンが通らなかったそうです! さっき朝イチで連絡が入りました!」
宇宙のお仕事は、完璧なのです。
手放すと、新しいものがやってくる。
そうして今僕は、最初の適合率よりもっと高い、84の家に住んでいるわけです。
引っ越しの顛末を長々と書きましたが、実は「放射線治療の後遺症」も、同じ「手放すこと」を僕に教えてくれていたことに気づきました。
どういう事か、 といいますと…
放射線の後遺症が出ているのは「左脳」です。
「左脳」は思考脳です。考えたり、覚えたり、計算したりするときに主に使います。
一方「右脳」は「感覚脳」です。
「感じる脳」なんですね。
左脳に腫れが出ている、ということは…
「左脳を使うな!」
というメッセージだと、僕は受け取りました。
もともと左脳中心の思考生活で、ガンになったんです。
思考はずいぶん使わないようにしていたのですが、僕の魂は「まだ足りん、まだ使いすぎ」と言っていたのです。
放射線治療の後遺症は、追い打ちをかけるように、数字の計算や物覚えの悪さも併発していきました。
パソコンのタイプミスも増え、イライラすることも多くなりました。
今まで普通に出来ていたことが、滞るようになってきたのです
ホテルに泊まったときエレベーターの前や、駅のホームに鞄を忘れて慌てて探しに行ったことも一回や2回ではありません(笑)。
釣銭の計算も苦手になりました。
いままで普通に出来ていたことが、出来なくなる。
これは、いままでの「普通」を「手放す」ということです。
いま、ここの「自分」を100%受け入れる。
いわゆる「アホ」になった自分を笑って受け入れる。
どんどん「アホ」になっていく自分を受け入れる。
「利口で賢い自分」を手放していく。
それは「アホ」だけではありませんでした。
僕は「パンパン」に膨れあがっていく自分の顔を鏡で見るたびに
ああ、へんな顔だな
こんなんじゃなかったのに
この顔、嫌いだ
そう自分に向かって毒づいていました。
変わってしまった自分の顔を、受け入れていなかったのです。
いま2022年7月現在、服用しているステロイドの料は最大なので、いまの顔が最大パンパン状態です。
でも、気づきました。
手放せ
しがみついていた「自己イメージ」を、手放せ。
君がしがみついていたものは、過去の残像にしか過ぎない
いまの君は違う
鏡を見よ
それが今の君だ
手放せ
過去と自己イメージを
そして「いまの自分」を受け入れよ
そして、その「いまの自分」もすぐに過去になる
全ては「流れ」ているんだ
全ては「プロセス(過程)」なんだよ
そう、全ては「流れ」です。
その「流れ」に気づかぬうちに対抗しているのは誰?
それは、エゴです。
この一連の出来事は、僕の中にまだまだたくさんいる「エゴ」の存在に気づかせてくれたのです。
自分の中にいるエゴを発見し、手放していく。
執着しているもの、ことがら、イメージ…
それに気づいて「手放して」いく。
おそらくこの作業が終わったときに、僕の放射線治療の後遺症はその役目を終えて消えて行くんだと思います。
㊿へ続く
第1話から読みたい方は、こちらから読むことが出来ます。
肺ガンステージ4からの生還体験記です。
とりあえず、ベストセラーになりました。
新刊です。
「読んだら人生が激変する」とご紹介頂けるほど、ご推薦いただいて感謝しかありません。10分ほどの画像です。よろしければ見てくださいね。
いわぶちゆういちさんの「ぶちの気ままライブ」出演させて頂きました。「さとりをひらいた犬」を書き始めたきっかけ、書いていた時の想い、感じたこと、その体験などを中心にお話させていただきました。よろしければ、ご覧くださいね。
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