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誇り高き歴史の町、会津地方のご当地怪談が登場!『会津怪談』(煙鳥、吉田悠軌、斉木京)煙鳥まえがき+試し読み(収録話「湖岸の刀」全文掲載)

地元ゆかりの著者らが総力取材!
誇り高き歴史の町・会津地方の怪異談

あらすじ・内容

【会津若松市】家老屋敷跡の子女の霊
【喜多方市】化け狐伝説と狐塚の怪
【猪苗代湖周辺】崖に埋められた刀の祟り
【南会津町】若松連隊、幻の行進
【会津南西部】禁忌の水辺・人飲み沢
【会津盆地】鶴ヶ城と小田山を結ぶ霊道
【会津坂下町】旧家の蔵の髪伸び人形
【磐梯山】林間学校の心霊写真
【猪苗代町】幽霊ペンションの地下室
【会津南部】青い人形の座敷わらし
【北塩原村】雨の雄国沼の怪
【昭和村】移動映画館の子ども霊
【会津南西部】土葬の作法と井戸の声

福島県会津地方の怪奇伝承、不思議で怖い話を地元出身の著者らが取材蒐集したご当地怪談集。
幕末に多くの子女が自刃した西郷頼母邸。その跡地周辺の屋敷で起こる怪…「家老屋敷跡にて」(会津若松市)
鴉が笑うように鳴くと人が死ぬ。集落の言い伝えの真相は…「鴉鳴き」(喜多方市)
地元で近寄ってはならぬと言われる沼。かつてそこで男が切腹したと祖母は言うのだが…「むぞせ」(会津南西部)
崖に埋められた祟り刀。露出した一部に触れた少年は…「湖岸の刀」(猪苗代湖周辺)
宿泊所と登山後の山頂で撮影された不気味な2枚の写真…「林間学校の写真」(磐梯山)
夢に導かれて訪れた鶴ヶ城とそこで待っていた思わぬ人物…「落日」(会津若松市)
ほか、52話収録!

煙鳥(編著・監修)まえがきより

 会津地方は福島県西部、越後山脈と奥羽山脈に挟まれた内陸の地域で広大な面積を誇る。
 会津の歴史は古く、古事記には「相津」として登場するほどで歴史の教科書では戊辰戦争の際に扱われるので全国に名の通った地域である。
 会津にはたくさんの怪談が眠っている。
 この度、会津出身かつ福島県在住の僕、東京都出身の吉田悠軌、福島県出身の斉木京という三人でこの本を紡いだ。
 中から見た会津、外から見た会津、中間に位置する者。
 この三名からの視点でそれぞれ会津の怪談たちを集め、切り取った。
 本書はそれぞれ著者別で怪談たちを並べてあるので、著者それぞれの感覚の違いを味わいながら読むのもまた一興と思う。
 それでは僕らと一緒に、薄闇に染まり始めた皆さんの知らない会津を覗きに行こう。            煙鳥

試し読み

湖岸の刀(猪苗代湖周辺)/斉木京

 二十代の女性、末永さんが母親の由依さんから聞いた話。
 由依さんは小学生の頃、猪苗代湖のとある浜から程近い集落に住んでいた。
 当時、由依さんが住む家の側に、湖畔を通る道路が走っていたが、通り沿いの崖にいつの時代のものかも分からない一振りの刀が埋まっていたそうだ。
 地上から三、四メートルくらい上の崖の土中から刃の一部が露出しているのが見える。

 ある年の夏休みに、近くの別の集落に住む亨君という男の子が、その刀を取ってきてやると息巻いた。
 由依さんより二歳ほど年上で、やんちゃな性格だったようで、悪友達を伴って件の崖へと向かった。
 かなり急勾配の崖に取り付くと、勢いに任せて這い上がっていき、やがてもう少しで刀に手が届きそうなところまで登り詰める。
 だが、指先が刀身にわずかに触れた途端、何故か突然彼は崖下へと落下してしまった。
 仲間達が駆け寄ったが、倒れたまま足を押さえて呻いている。
 亨君は結局足の骨を折ってしまい夏休み中は家で療養せざるを得なくなった。
 ただ彼は、人一倍体力があるので怪我が治ればまた元気に出てくるだろうと友人達は思っていた。
 しかし、二学期が始まっても亨君は登校することはなくそのまま小学校を卒業してしまったという。
 由依さんは亨君とは学区が違ったため、中学校に進学した後は彼と会うこともなかった。

 やがて成人した由依さんは実家を出て、郡山市に移り住んで会社勤めを始めた。
 あるときたまたま猪苗代の実家に帰省した際、亨君の話を耳にしたそうだ。
 由依さんの祖母の話では、彼は成人して間もなくひっそりとこの世を去っていた。
 内臓の重篤な病を患っていたらしいが、どうもあの刀に触れたことが原因ではないかと集落の人々は実しやかに噂していたようだ。
 のちに末永さんが大学生時代のゼミの教授から聞いたところによれば、例の崖があった一帯は領主に献上する刀を作るためのたたら場があったらしい。
 猪苗代湖の周辺からは鉄滓が出土し、古くから製鉄が行われていたことが分かっている。
 浜辺から採れる豊富な砂鉄から玉鋼を精製していたのだ。
 江戸時代には、会津藩は優れた刀匠を召し抱えていて、会津正宗と称された三善長道や十一代会津兼定(和泉守兼定)が特に有名だ。

 現在の喜多方市出身の阿部佐市によって、昭和十一年に書かれた説話集『会津怪談集』にも刀に纏わる怪異が記録されていて、一部要約すると次のようになる。
〈明治二年のこと、ある男性の妻が度々病に臥せるようになった。
 不審に思った男性は祈祷師に見てもらったところ、宅内の土手に久しく埋まっている寳刀が祟っているらしく、その刀を見つけて神棚に祀れば、妻が怪しい病に冒されることはなくなるという。
 男は庭を必死で探したが、刀は見つからない。
 そこで毎夜丑の刻に、入田村沼尻の紫雲山不動尊に参り祈願すると、ある夜不動尊が夢枕に立ち、櫻の根本に刀が埋まっていると告げた。
 すると確かにその場所から箱に入った刀が見つかったので、掘り出してみた。

 刀は殆ど錆びていたが、微かに銘が読み取れる。
 何と陸奥掾三善長道と彫られていた。男性が大切に神棚に祀ったところ、妻の病気は平癒したという〉
 刀には奉納刀のように神仏に捧げるために打たれたものや、持ち主に祟るとされる曰く因縁のある刀もある。
 亨君が取ろうとしたものも、決して人が触れてはいけない刀だったのだろうか。

―了―

著者紹介

煙鳥 Encho

怪談収集家、怪談作家、珍スポッター。「怪談と技術の融合」のストリームサークル「オカのじ」の代表取り締まられ役。広報とソーシャルダメージ引き受け(矢面)担当。収集した怪談を語ることを中心とした放送をニコ生、ツイキャス等にて配信中。VR技術を使った新しい怪談会も推進中。2022年、自身の名を冠した初の怪談集『煙鳥怪奇録 机と海』をを吉田悠軌、高田公太の共著で発表。シリーズ続巻に『忌集落』『足を喰らう女』『ののさまのたたり』がある。その他共著に『恐怖箱 心霊外科』『恐怖箱 怨霊不動産』『恐怖箱 亡霊交差点』(以上、竹書房)。

吉田悠軌 Yuki Yoshida

怪談サークルとうもろこしの会会長。怪談の収集・語りとオカルト全般を研究。著書に『中央線怪談』『新宿怪談』(竹書房)『現代怪談考』(晶文社)、『オカルト探偵ヨシダの実話怪談』シリーズ(岩崎書店)、『一生忘れない怖い話の語り方』(KADOKAWA)、「恐怖実話」シリーズ『怪の遺恨』『怪の残滓』『怪の残響』『怪の残像』『怪の手形』『怪の足跡』(以上、竹書房)、『怖いうわさ ぼくらの都市伝説』シリーズ(教育画劇)、『うわさの怪談』(三笠書房)、『日めくり怪談』(集英社)、『禁足地巡礼』(扶桑社)、共著に『煙鳥怪奇録』シリーズ、『実話怪談 牛首村』『実話怪談 犬鳴村』『怪談四十九夜 鬼気』『瞬殺怪談 鬼幽』(以上、竹書房)など。月刊ムーで連載中。オカルトスポット探訪雑誌『怪処』発行。文筆業を中心にTV映画出演、イベント、ポッドキャストなどで活動。

斉木京 Kyo Saiki

福島県出身。幼少の頃から怪談や妖怪に傾倒。土地の歴史や民俗が絡む怪異譚に、特に関心を持って蒐集を行っている。最近はソーシャルVRプラットフォームであるVRChatの怪談会に参加するのを日頃の楽しみとしている。単著に『贄怪談 長男が死ぬ家』、共著に『奥羽怪談』『恐怖箱 霊山』『投稿 瞬殺怪談』(以上、竹書房)など。

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