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ロングスカート、はじめました。

中学生の頃、生まれてはじめて買った福袋に、自分ではまず選ばないような、ずろっと長いロングスカートが入っていた。

どきどきしながら足を通すも、母親にげらげら笑われるほど似合わなかった。

すこしツヤのあるあずき色の生地に、小花が散った柄は大人っぽく可憐だったけれど、砂場から出てきたばかりのような子供くさい顔には、荷が重いデザインだった。母親のクローゼットのものを、こっそり着てみた小学生にしか見えなかった。

それから倍以上の歳を重ねた今になるまで、自分はロングスカートが壊滅的に似合わないと思い込み、膝丈を厳守して生きてきた。愛用のスカートを何年も履き、くたびれたらまた膝丈を買うというサイクルが自分の中にできあがっていた。

ある日着古したスカートを買い替えようと店頭にいってみると、膝丈がまったくなく、丈の長いものばかりが並んでいた。きれいな布を手にとったまま、絶望的な気持ちになった。危機である。膝丈のスカートがこの世から消えてしまったら、この先、何を着ればいいんだろう。真っ青になって固まっていた。

にこやかに試着を勧めてくれる店員さんに「ロングスカートは、わたし背も低いし、絶対に似合わないので…」と語尾をどんどんしぼませて話すと「そんなこと、ないですよ。このあたりなんて、すごくお似合いかと思います。」と自分の体にさっと合わせてくれる。

直視できず、薄目で鏡を見ると、自分で思ってたほど悪くないような気がした。こわごわ、店員さんの顔をみると「ね?」と言いたげににっこりしてくれる。「すこし、考えてみます。」とその日はそのまま店を出た。汗がびっしょりだった。

もしかしたら、私はもうロングスカート履いても、許されるのだろうか。歳だけならばじゅうぶんに大人だし、顔も年相応に老けたと思う。気がつけば、友達は二人目の子供の手をつなぎ、家を建てるような年齢なのに、自分はまだスカートの丈ひとつで、緊張でかちかちになっている。

どうしようか迷ったけれど、店頭で買い求める勇気はどうしても湧いて来ず、通販で部屋着用のものをおそるおそる買ってみた。ぼんやりした紺色のスウェット生地で、内側がもこもことした暖かさに特化したものだ。おしゃれとはほど遠いデザインのスカートだけれど、その長さは意外と悪くなかった。似合わないんじゃないかと、おびえる自分にそっと沿うような、やさしい服の丈だと思った。

後日、勇気をくれた店員さんへの仁義を果たすべく、件のお店に行った。同じデザインのスカートはすでに売り切れていたので、ワンピースを買った。今まで買ったことがない長い丈にひるんで、死にそうな声を絞り出す私を、店員さんは明るい声で褒めてくれた。

ここ数年、年齢的に何を着たらいいのか、路頭に迷うような気持ちに幾度もなった。ときめく、ときめかないで断捨離していったら、タンスの中がからっぽになりそうで、着慣れた布でとりあえず体をくるんでいるという感じだった。だけど、少しだけ勇気を出して、着たことないものにも足を通してみよう。

わたし、これからロングスカートを履いて生きていこう、と思いました。

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たけのこスカーフ
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