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論文紹介 戦争で航空優勢を獲得した国家は、どれほど優位に立てるのか?

イタリアの軍人ジュリオ・ドゥーエは著作『制空』の中で第一次世界大戦の経験から航空戦力の重要性が著しく高まることを予見し、陸軍、海軍から独立した空軍を創設すること、軍事的観点から航空優勢を確保すべきこと、戦略爆撃によって敵国の戦意を挫くことができることなどを主張しました。

今日ではドゥーエの議論に実証的な部分でいくつかの問題があり、特に戦略爆撃の効果に関しては間違った認識を持っていたことが指摘されています。それでも、彼の理論はエアパワー(airpower)の先駆的な研究業績として評価されています。

ドゥーエの理論によれば、航空優勢を獲得することは、あらゆる軍事行動において絶対に必要なことです。この主張はアメリカのミッチェルなどの航空戦略思想家にも受け継がれており、現在でも空軍関係者の間で影響力がありますが、厳密に検証されたことはありませんでした。

以下の研究では、航空優勢の獲得が戦争の結果にどのような影響を及ぼしているのかを定量的アプローチで分析しています。

Saunders, R., & Souva, M. (2020). Air superiority and battlefield victory. Research & Politics. https://doi.org/10.1177/2053168020972816

航空優勢とは、基本的にある空域を支配している状態をいいます。北大西洋条約機構の定義では、「敵対的な干渉を受けることなく」、航空部隊がそこで行動することができる状態であることを意味しています。もし敵が味方の航空機を何らかの方法で次々と撃墜するため、航空偵察や航空支援などの任務の遂行が妨げられるのであれば、それは「敵対的な干渉を受けることなく」という条件を満たしていないので、航空優勢を獲得できていないと言えます。

ただし、敵と味方の航空戦力がせめぎ合い、拮抗する状況もあるので、もし味方が航空優勢を失っているとしても、それが直ちに敵が航空優勢を獲得することを意味するわけではありません。歴史的アプローチを採用した複数の研究では、航空優勢を獲得すると、地上戦、航空戦の推移にも大きな影響があることが指摘されています。航空優勢を獲得できていない状態で戦闘機による護衛をつけずに爆撃機部隊を送り込めば、敵の戦闘機によって撃墜されるでしょう。

航空優勢を失った状態で地上部隊を運用しようとすることも大きな不利となります。なぜなら、航空優勢を失った味方の地上部隊は敵の空襲に対する防護を考慮し、部隊や装備を偽装、隠蔽、掩蔽することで被害を最小限にすることや、広い範囲に分散させることが求められるためです。このような措置は戦闘力の集中を困難にするだけでなく、部隊運用における機動を妨げてしまいます。

もし航空優勢を得た状態で地上部隊を運用するならば、航空偵察によって敵の動きを遠く離れていても知ることができるだけでなく、砲兵で効果的に制圧できない目標を効果的に制圧できます。そのため、航空優勢は地上部隊の機動を促進し、戦闘力の集中を容易にするとも考えられています。

これまでの定性的分析の結果を踏まえると、少なくとも国家間の軍隊が参加する戦闘において、航空優勢の獲得は勝利の公算を引き上げると考えられます。この仮説を検証するために、著者らは1932年から2003年までに起きた戦闘のデータを利用し、回帰分析を行いました。著者らは専門家としての定性的判断に基づいてそれぞれの戦闘で航空優勢を獲得した国家と、そうでない国家をコード化しています。交戦国のいずれもが航空優勢を獲得できない場合も考慮されています。この分析では政治体制の種類や、国力、戦闘に参加した部隊の規模などの影響を統制しました。

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