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その課題、ゲームにすれば解決できる!?【ゲーム思考で課題解決】

ゲームと聞くと「楽しむためのもの」をイメージされる方も多いでしょう。しかし、「ゲーム」の視点で課題を捉え、「ゲーム」の世界に課題を落とし込むと、今までは解決できなかった課題も突破口が見出せるようになります。

なにそれ!?、どういうこと!?と思われる方、ぜひこの先を読み進めてみてください。「ゲーム思考」は社会の課題にアプローチする、新しい鍵になると確信しています。

01.社会課題を解決する「シリアスゲーム」


世界では社会課題を解決するゲームを指して「シリアスゲーム」と表現しています。「楽しむため」を目的にしたゲームや、ゲームの要素を使って人の行動を誘発する「ゲーミフィケーション」とは異なり、シリアスゲームは文字どおりゲームそのものです。

例えばアメリカの貧困層の生活を擬似体験する「SPENT」や、バルト海の海洋国家が集まり政策を決定するための参考とする「MSP Challenge」などが有名です。アメリカやオランダを中心として活用されている課題解決のアプローチで、今後ますます広がっていくことが予想されています。

■参考:SPENT
https://playspent.org/html/https://playspent.org/html/

■参考:MSP Challenge


日本では「シリアスゲーム」という名前こそ広まっていませんが、企業研修でゲームが活用されたり、SDGsや災害対策を考えるためにゲームが使われることもあります。とはいえ、まだまだゲームはそのポテンシャルを課題解決に向けられていません。

「ゲーム」という言葉に対するイメージが、エンタメゲームの圧倒的に発展した日本だからこそゲームというテーマを課題解決に向ける発想に至らないのだと思います。しかし、社会全体がゲームが持つポテンシャルを活かせていない現状は、かなり勿体無いのです。

僕の組んでいるプロジェクトユニット「Live Vividly」ではシリアスゲームの開発と運用を活動の柱の一つに置いています。ゲームをつくるプロセスの中で、従来の課題解決アプローチとは全く異なる価値があることにたくさん気づきました。その価値をどんどん社会に届けていきたいのです。


02.ゲーム化するプロセスで「本質的な課題」と「突破力ある解決策」を発見する


どんなビジネスも、あるいは社会活動も、多くは「課題の解決」を目指しています。そのためのアプローチ方法が異なるだけで、目指すところは同じモノであることが多いですね。では、「既に社会に存在する課題解決のアプローチ」と「シリアスゲーム」は何が違うのか。

これはゲームをつくるプロセスで「本質的な課題」と「突破力のある解決策」を発見できることにあります。

ゲームにするから見つかる課題がある、ゲームにするから見出せる解決策がある。実は、ゲームをつくるプロセスそのものが、「本質的な課題」と「突破力ある解決策」の発見を促すような構造になっているのです。世界で「シリアスゲーム」がジワジワと広がり始めているのは、そんな意味に気づく人が増えてきたからでしょう。

そんな「本質的な課題」と「突破力ある解決策」の発見を下支えするのが「ゲーム思考」と名づけた能力です。

一般的な言葉ではないですね。僕がいま名付けましたから。笑

同じ名前の言葉を使っている情報もネット上に存在しますが、その意味はバラバラでありまだ定義されたものではありません。そのため、この記事で使う「ゲーム思考」とはシリアスゲームの開発を支え、「本質的な課題」と「突破力ある解決策」の発見を促す能力だと捉えてください。


03.ゲーム思考で課題を捉える、ゲーム思考を育む


シリアスゲームを作り上げていくためには「課題を含むテーマの構図化」「関係者の思考・行動、影響要素の抽出」「時間の経過を想定」する3つの基本概念を行き来することが必要になります。

■要素
課題にはほとんどのケースで当事者や関係者がいます。一人一人の人間であり、その行動原理は様々です。その人は何を考え、何を感じ、どんな判断基準に基づいて行動するか、個々に考えてみなければ実際の行動にまではつながりません。また、当事者や関係者に影響を及ぼすのは人だけでなく「コト」もあります。制度・組織・あるいは風潮なんかも「コト」に入りますね。これら「人」「コト」を総称して要素とします。

■構図
そして、課題は一人の人間と一つの原因から課題が引き起こされているケースはレアです。通常、複雑に課題は絡み合っています。一つ一つの要素がどんな関わり方をしているのか、どんな影響を及ぼし合っているのかを構図として整理しなければ、ある解決策が逆に大きな弊害をもたらすことも多いでしょう。だからこそ構図化のスキルは必須になります。

■時間
さらに、一つの施策・誰かの行為が影響を及ぼすには時間差があります。その時間差によって構図にも別の誰かにもどんな影響が出るのかも想定しておかなければ、望まない影響を生んだり狙った効果を減少させてしまう可能性もあります。だから時間の経過について考えることも必須なのです。


通常、この3概念を考えることは非常に専門的であり、とても難度の高い思考プロセスです。全体の構図を把握することや時間の変化を織り込むことは「システム思考」の分野が近いでしょう。一方で、個々の行動原理をトレースする作業は「デザイン思考」の得意とする分野です。

「ゲーム思考」は「システム思考」×「デザイン思考」の双方を組み込んだハイブリッドと言えます。なら、ゲームをつくる上でこのスキルを持ってないと全く作成できないの?と疑問に思われるかもしれませんが、そんなことはないんです。

この思考力は「ゲームをつくるうえで必要」でありながら、初期の段階でゲーム思考を得ていなくとも「ゲーム化のプロセスで養われる能力」でもあるのです。ゲームにするプロセスの中で、イヤでも養われます。ここにも一つ、ゲームをつくる意味があるのです。


04.課題の特定は難しい


何か解決したい課題があるとしましょう。ここで大切な問いは「その課題は本当に解決すべき課題なのか」です。課題とは目的を達成するために乗り越えるべきプロセスですね。しかし、いま見出している課題は目的から逆算したときに本当にストレートに解決すべき課題なのでしょうか。目的から考えると、実は違った課題を解決した方がイイなんてケースもよくありますよね。

だから、最近は「課題特定が大切だ」といった認識も広まってきています。では、本当に解決すべき課題はいかに特定していきますか?

課題を含む「テーマの大海原」は、とても広く広く広く、どこから泳いでよいのかも分かりません。「ボトルネックを特定する」「インパクトのある解決策を見出す」なんて言葉がサラっとネット上に溢れていますが、コレって見つかります?、見つかったと思っているボトルネックは本当の本当にボトルネックですか?

そう、分からないんです。

分からないからみんな苦労するんですよね。トライアンドエラーって言葉が出てくるのも、「やってみないと分からない」からですよね。課題解決は不確実性との戦いです。いかにしてその不確実性を下げるかにみんな腐心するのですが、実行までのプロセスでその不確実性を下げる手段はそうありません。

第一、トライアンドエラーと言いながら投入できるリソースは有限です。輪をかけて厳しい状況に陥るのは「エラー」を許さない社会的な要請もあります。こうなると本末転倒ですが「エラーではない」と言い張るチカラを獲得してしまっていくため、結果的に社会全体でエラーから学習する能力が失われてしまう。いま私たちが生きる社会は、そんな側面があります。

ここで「ゲームをつくるプロセス」が、「本質的な課題」と「突破力ある解決策」の発見に役立ちます。その不確実性すら下げる構造を「ゲームをつくるプロセス」そのものが持っているのです。


05.ゲームの仮説検証だから見出せるもの


さて、ゲームとはどんな要素から構成されているのでしょう。大きく分けると「ルール(手段)」と「ゴール(目的)」です。

このルールとゴールの世界に参加するプレイヤーがいて、それぞれが何かしらのツールを使います。「競争性」や「没入性」といった要素もありますが、課題解決に直接影響を及ぼす要素ではないのでここでは省いて説明します。

シリアスゲームを構成する「構図」「要素」「時間」の3概念を紐解いていくと、「課題解決の仮説」を立てることができます。この「ゲームを構成する3概念」と「課題解決の仮説」を「ゲームのルールとゴール」に落とし込みながらゲームづくりを進めていきます。

仮説を立てるのは他の課題解決アプローチと同じですね。しかしゲーム化はこの仮説の「検証」に大きな違いが生まれます。ある程度ゲームにまで落とし込むことができると「プロトタイプ」が完成します。このプロトタイプを実際にプレイしてみると、また新しい発見が大量に起こるのです。

プロトタイプの世界ではプレイヤーに「役割」が割り振られます。例えば獣害対策をテーマにしたゲームなら「地域住民」「猟師」「獣」などです。それぞれのプレイヤーの行動原理はルールに反映されています。つまり、プレイヤーはゲームをプレイすれば「獣」の気持ちすら擬似体験できるのです。

行動原理がルールとして反映されているため、ゲームをプレイすると必然的にその役割の思考を追体験することになるのがゲームの大きな特徴なのです。

プロトタイプのプレイを通して、非常に重要なモノを2つ見出すことができます。

それは「テーマに影響を及ぼす因子」と「対象者の想定外な思考・行動」です。デザイン思考は「ユーザーを深く理解する」に留まりますが、ゲーム思考は「ユーザーを追体験する」ところまで辿り着くわけです。この差は非常に大きいでしょう。

プレイヤーになりきってプレイすると「ルールの穴」にも気づきやすくなります。「自分が演じている立場でゲームの状況にあるなら、取るはずの行動があるのにゲーム上では選択できない」という事態が起これば、それはゲームの設計に不足がある状態です。この気づきから「構図」「人」「時間」のどの要素を変更すれば良いのかも見出せるのです。

しかも、プロトタイプをつくるまでは大した時間を要しません。だから「見出した新しい気づき」を「構図」「人」「時間」に組み込み全体像をアップデートさせる、アップデートした全体像から「課題解決の仮説」もさらに更新する、更新した仮説をゲームとして試す、ゲームの中でまた「構図」「人」「時間」の挙動を観察するというサイクルを回すことができます。

このPDCAのサイクルがとにかく早い。爆速なのです。まるで竜巻旋風脚のような速度で回転するPDCAサイクルです。

最終的なゲームをつくるまでのプロセスで何十回とPDCAを回すことができるのがシリアスゲームづくりの持つ大きな価値。半ばバーチャルな世界ではありながら、リアルともしっかり繋がった世界の中での検証と再検討を、ゴリゴリゴリゴリと繰り返しまくることができる。まず間違いなく、「いままでは見えていなかった課題」や「クリティカルな解決策」に出会う確率は高くなるでしょう。

もちろん、本当のリアルな世界を再現することはできません。あくまでも仮想現実の世界です。しかし、現実の複雑性を残したままで可能な限り抽象化した世界を再現しようとし、その世界を検証するサイクルは「やってみなきゃ分からない」を「やってみる前に分かる」に向け、できる限り近づけるチカラを持っているのです。

ゲーム思考はシステム思考とデザイン思考のハイブリッドであると表現しました。ご覧のとおり「テーマ全体の構図」と「一人の人間」を反復横跳びしまくりながら進めます。

もっと付け加えるならば、システム思考とデザイン思考を現実に落とし込み何度も何度も何度も何度も検証検証検証再検討検証再検討を繰り返すのがゲーム思考であり、シリアスゲームの開発プロセスです。

ちなみに、僕たちは直接的なコミュニケーションを介するアナログゲームに注力しているので、多くの場合でカードゲームかボードゲームのフォーマットを利用します。そして、僕たちが取り組むテーマは「一人一人があざやかに生きる」ことです。

このプロセスを実現するゲームを開発しようとしていた時も、ゲーム開発の超速PDCAの中で何度も何度も立ち戻り、何度も何度も新しい要素を発見し、その度にアップデートを繰り返して完成に至りました。途中、自分たちの伝えるべき「そもそも論」に何度も戻った結果、ゲームのフォーマットそのものが変わったりもしました。でも、このプロセスを経るから一番大切なコトを見出せもするのです。


06.ゲーム思考を得ると、何が起こるのか


ちょっと身も蓋もない表現かもしれませんが、ゲーム思考を得るためにはゲームを作ってみるのが一番です。ゲームづくりのプロセスは本当に価値のあるモノです。

そもそも課題解決を現実に落とし込んだときに上手くいかないのは「見落としている要素がある」「見えていない関係性がある」「予期できない挙動が起こる」など、事前に潰せていない要素が山ほどあるからです。

優秀なコンサルであれば全部を見通すことができるのかもしれませんね。世の中には、そんなスーパーマンが存在するかもしれません。でも、スーパーマンに頼るだけでは「自分たちの課題解決力」は育ちません。そもそもスーパーマンは大して数がいないうえ、希少であるから単価もどんどん高くなるでしょう。

対して、社会の課題はどんどん増えています。これは実際に課題が起こる状況が増えていることもあるでしょうが、「課題を可視化する手段」そのものが増えていることも影響しています。つまり、課題として認知されるテーマはこれからも増え続けるのです。

さらに、人口減少と少子高齢化で経済の規模は縮小していきます。地方の税収が少ない自治体などにとっては、どの課題にどんなリソースを投入するか、さらに判断の難しい社会がくるのも見えていますね。

ならば、僕たちはどうするべきなのでしょう。本質的な課題に気づき、影響力の強い解決策を見出すことがプロ頼りではそもそも何も進められなくなり、ただ現状を見つめるしかできなくなってしまいます。

だから、「自前の課題解決力を育てる」必要性が出てくる。今も既にそうかもしれませんね。

そんな「自前の課題解決力を育てる」ために、シリアスゲームをつくるプロセスは最高の教材です。構図、人、時間の変化を捉える。システム思考とデザイン思考を反復横跳びする。検証を繰り返して新しい要素を発見しまくる。この過程から「ゲーム思考」を身につける人が増えれば、きっと社会はもっと良くなるんじゃないでしょうか。

シリアスゲームを課題解決の選択肢の一つとしてスタンダードにしていきたいと思っています。このテーマが、直接的に課題を解決するだけでなく、課題解決力を育てることにも寄与することを、もっともっと実践しながら広く伝えていきます。

そうそう、実際に出来上がったゲームはプレイするだけでも非常に大きな意味を持ちます。「当事者意識の獲得」、「対等な土俵での対話」、「肯定的な失敗の経験」、「自由に考えるキッカケ」など、テーマにまつわる様々な効果をもたらすことができます。

シリアスゲームをつくるプロセスで、テーマの「本質的な課題」と「突破力のある解決策」を見出し、シリアスゲームをつかうプロセスで、テーマに対する「本気の認知と行動変容」を広げていく。そんな価値があります。

この記事を読んで興味を持たれた方がいれば、ぜひご連絡してきてください。僕たちがつくったゲームの体験会や、シリアスゲームについてのセミナーも承っています。

■鹿児島県 沖永良部島 和泊町でのシリアスゲームワークショップ開催レポート


特に、社会課題に向き合っている自治体・行政機関の方、または社会課題を何とかしたいと活動している企業の方、社会課題を解決できる人を世に送り出したいと考えている教育機関の方、一緒にこのプロセスに飛び込んでみませんか?

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