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[ライナーノーツ] New Life Standard / xmiiru みーる

2020/07/01にSNOWDOME PRODUCTIONからリリースされた本作は、アンビエントやノイズと云った、一聴すると難解とも捉えられかねないアプロ―チであることから、こうした作品に耳なじみのないリスナーの理解の一助とするため、ライナーノーツをオンライン上で公開します。(適宜アップデート)

[商品ページ] みーる xmiiru - "New Life Standard" EP 2020/07/01リリース(デジタル・CD・カセットテープ) https://note.com/takeyayuhhei/n/ncfffa5ffe371

■[寄稿(2020/07/13)]純粋な「生」 / ko ashida (studio:ex-presso) https://twitter.com/akko_exp

アイドルとはその名の通り偶像であり、愛玩される消費物としてのアイテムである。虚像としてのアイドル・偶像崇拝は世相の価値を左右する過程で、その時代の依代となり、代弁者としての役割を望まざるとて担わされてきた。

本EPでxmiiruの作り上げたトラック、おおよそ人の想像するアイドルとしての音は、薄ぼんやりとした陽炎の様な形骸であり、数多の望むアイドルとしての姿を何処まで保っているかは甚だ疑問である。が何よりも大切な事は、偶像を演じるアイドルその人こそ、ペルソナではなく血の通う「人」そのものであり、00年代、そして10年代を経ていまこの時代の中で漸くリアルな「生」への渇望、その表明を許された存在であるということ、そしてその表明こそがこの時代に求められるリアルな姿であるということだ。

幾重にも重なったそのレイヤーの向こう側、切り刻まれた音の断片から垣間見える純粋な「生」は、静かに聴く者を刺激するだろう。そしてその純粋さは聴く者を裏切り続けるだろう。xmiiruが見据えるリアルに触れられた者は幸せである。

 / ko ashida (studio:ex-presso) https://twitter.com/akko_exp

■[寄稿(2020/07/13)] 轟音の中の快楽 / イマヘイ https://note.com/takeyayuhhei/m/m0a44e1c2b59c

大概の事には折り合いをつけて、惰性的に時間が過ぎていく。
そしてそれが自分の人生だと言い聞かせて加齢を重ねていく。世の中そういうもんだよね、と自分で納得しているようで、何か腑に落ちない日々。
そんな時、自分の生き方を肯定してもらう映画や音楽に触れて、英気を養うが、その効力は半日と持たない。
結局、憂鬱な月曜の朝を迎え、泣く泣く仕事着に袖を通すのだ。
さて、Takeya氏から「kagerou」のMVをアップしたので見てほしいと言われ見てみた。
どうしたことだろうか、激しく叙情性を刺激されてメランコリックな気持ちになった。
ノイジーなのに妙に気持ちが落ち着く、加えて憂いをたたえた美少女が粒子の粗い画像に蠢くミニマルな映像が無機質で近未来的な世界を構築している。
マイブラッディバレンタインのようでもない、スマパンでもモグワイでもない、新たな轟音メランコリーへの誘いだった。
アイドルとアンビエントノイズの融合をやってのけたTakeya氏の手腕は見事である。
私にとってこの楽曲は刺激を通り越して、挑発だった。
月曜の朝の憂鬱は消え去り、嫉妬と焦燥がこみ上げた。
この悔しさを自分の次回作にぶつけるより他はなさそうだ。
フロンティアだけが獲得できる快楽をTakeya氏はこれから享受するのだろうか。
いや、彼にはそういった狡猾さではなく、
ただ「今」を楽しみたいという好奇心だけではないだろうか。
何かが起こりそうな予感がする・・・。

 / イマヘイ https://note.com/takeyayuhhei/m/m0a44e1c2b59c

■[寄稿(2020/07/01)] 「とうとうこの域まで来ちゃったのね」/ fug (northmalllab) https://twitter.com/northmalllab

アイドル文化に疎い私でも、ここ最近、オルタナティヴな音楽家達が楽曲制作に携わっているということは少なからず把握しているつもりだが、個人的に1番衝撃だったのは、世界に誇るアンビエント作家 hakobune氏がディレクションを行った1トラック72分の音源をリリースした"・・・・・・・・・"。
今日のアイドルは、テクノからノイズ、パンク、マスロックまでも取り込み、融和しながら、その存在を確立してきたのだなと。
そして、「とうとうこの域まで来ちゃったのね」と思ったものだ。

言わずもがな、ネット環境等の発達により、都市部と地方部の創作活動に関するあらゆる格差は無くなった。

そういえば本県にも思い当たる存在が…。
本作はアーティスト、リスナー双方にとって、次なるフェーズに入る契機となるはずだ。

 / fug (northmalllab) https://twitter.com/northmalllab

■[寄稿(2020/07/01)] "Evolving idol" / C.Mikami (compost) https://compost.amebaownd.com/posts/189269

このEPの製作兼プロデューサーである Yuhei Takeya氏は多才であり、数年前からLIVE音源や作品を多数リリースしている中、2つの全く性質の異なるワークス。“アイドル”と“アンビエントノイズ”という置き換えるなら「外交的」・「内向的」といったベクトルの相反する音楽を互いに刺激し合い、深いところで見事に融合させたEPに仕上がっている。

サンプリング、エフェクト処理等の絶妙なパラメータが偶発的に作用。排除したビートに代にわって、どこか寂しげに輪郭のぼやけたxmiiruのウィスパーボイスがノンクオンタイズでおぼろげに重なることで、聴く人の脳内に迷い混むように浸透してきたと思いきや、ノイズフィルターを通じて昇華する様は、アイドルカルチャーの可能性をアートの領域へ引き上げた作者の製作意図が感じられる。
そんな作者の意思とは裏腹にアーティストみーるのインダストリアル中の有機的なボーカルが押しつけがましく無く、そっと語るように歌っている。このEP全体の絶妙なバランスを表している。
今後、タイムレスに自分のミュージックライブラリに新たに加わる作品になること必至である。

 / C.Mikami (compost) https://compost.amebaownd.com/posts/189269

[Profile]
サウンドデザイナー兼DJ。“ambient”をキーワードにフィールドレコーディング等で撮り貯めた膨大な環境音アーカイブを即興的に加工処理し音響彫刻を創りあげる。北海道内各地の美術館等でのインスタレーションやアートフェスに参加。
2011 hertz04 北翔大学サウンドデザインゼミ・フェス(札幌モエレ沼公園)
2012 hertz05 北翔大学サウンドデザインゼミ・フェス(札幌モエレ沼公園)
2013 Ambient/h 弘前城灯籠祭り(弘前市)
2013 hertz06 北翔大学サウンドデザインゼミ・フェス(札幌モエレ沼公園)
2014 ダンス・パフォーマンス イン 函館美術館(北海道立函館美術館)
2014 ヨーク・クリスト追悼作品展(函館市大黒湯)
2015 INTERSECT2015 札幌地下歩道空間 north2(札幌市)
2016 青森EARTHアウトリーチ 立ち上がる風景(青森県立現代美術館)
2019 巨大木造倉庫×現代アート/小宮伸二展(函館市)
2019 TOBIU CAMP2019 (白老町)
2019 洞爺湖芸術館 秋特別展 小宮伸二展 トランスケープ(洞爺湖芸術館)
2020秋 ポーランドのインディーズレーベルFANFARE RECORDSより自身作品をリリース予定

■[寄稿(2020/07/01)] 楽曲派の皆様へ / Yuhei Takeya ("New Life Standard" プロデュース, SNOWDOME PRODUCTION) https://twitter.com/snowdome_p

 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴ってライブ等を含む全ての活動が制限される状況でリリースする、みーる @xmiiru の新作EPです。「音楽は自由であるべき」という信念に立ち、アイドル等のガールズ系イベントの概念から楽曲そのものを解放しました。具体的には、ビートを排除することを最優先しました。カラフルで明るいと云うのもアイドルですが、「青森」って先人の御言葉を拝借すれば「虹にも色が無い」と言われるような、もっとモノクロ、アナクロで、湿った木造建築の質感と云うか、そんな「青森」の空気感や土地柄や「人」を表現できれば、アイドル作品が「文化」の一端を担えるのではないか、と考えて、本作を創作しました。詳細は曲毎に下述。

[Suihei (作詞・作曲・編曲:竹谷裕平)] トニックとドミナントを繰り返す極めて原始的な西洋音楽の構造から、本作の幕は開けます。歌詞は、ポスト構造主義の代表的哲学者であるJacques Derrida (1930-2004)の言葉、1966年10月21日にJohns Hopkins Universityで行われた講義より。「アイドルとは何か?」という問いに対して、私は、常に「哲学である」と回答しています。「アイドル」とは、現代社会において、どのような存在なのか。この新型コロナ禍の中で、我々は何を考えるべきなのか。脱構築。

[luminance (作詞・作曲・編曲:竹谷裕平)] 全体を通じて最もビートが排除されており、一聴して抽象的な印象を受けやすい作品ですが、和声や進行という観点では、この曲が本EPの中で最もポピュラー音楽に接近している、というパラレルな構造を有しています。グリッチノイズが薄っすらとビート様に流れていますが、意図的にプログラミングしたものではなく、エフェクト間の相互作用によって意図せず発生しているノイズです。作家として、特に、能動的に収録した1曲です。

[316 (作詞:エマ、作曲・編曲:竹谷裕平)] エマ(ex.チョコレートコスモス)さんの書き下ろし詩作品をベースとした、みーる初のポエトリーリーディングの試みです。詩のバックに流れるシーケンスはモノフォニックのサイン波による16分音符のシーケンスが流れ続ける1トラックにダブ処理、さらにみーるのポエトリーリーディングにも同様にダブ処理することで複雑なオーケストレーションを構築しています。リーディングのダブ処理は「言語の意味の喪失」という危険性を秘めていましたが、エマさん作の詩世界が、言葉の断片からも意味を生み出し、音そのものにも影響を与えた、という点で、大変興味深いモノになりました。

[kagerou (作詞・作曲・編曲:竹谷裕平)] 
既発表曲"Brand new delight"の再構築です。従前はEDM的な編曲でしたが、そこにあったはずのビートを完全に排除、ノイジーなリード音をサビで大々的にフィーチャーすることで、ポピュラー音楽との往来を実現しました。全編に渡り流れるシーケンスのサイン波は、316と同じモノであり、EP全体のモチーフとして機能するとともに、本楽曲をメインテーマとして存在せしめています。バックに流れ続けているサウンドスケープは、東京お台場の某アイドルフェスが開催されている最中、その会場の音漏れが聴こえなくなる
場所まで歩いて収録したモノであり、YouTubeで公開している青森の草原の風景とは相反する音です。

[カバーデザイン:世界ひろし] 本作のジャケットデザインは、ミスiD2020芸術賞の世界ひろしにお願いしました。ビートというあるはずの概念を失ったアイドルポップスの所在なさが、ある種の浮遊感として表現されていると思います。氏との芸術論において必ず帰結する一つの課題が「アーティストなのか、クリエイターなのか」というモノで、これは実はアイドルポップスにおける作家にとっても非常に重要な課題の一つであると考えています。非常に示唆に満ちた作品を提供していただきました。

 / Yuhei Takeya (SNOWDOME PRODUCTION) https://twitter.com/snowdome_p

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