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枯れ葉(2023)

2017年に監督引退宣言をしたアキ・カウリスマキ監督が、6年ぶりに帰ってきた。新作はロシアとウクライナの戦争のニュースが日々ラジオから流れるフィンランドに生きる、市井の人たちの物語で、タイトルは「枯れ葉」。

スーパーで働くアンサは、賞味期限切れで捨てる食品を少し持ち帰ったことを理由にクビにされ途方に暮れる。同じ街のスクラップ工場で働くホラッパは朝から晩まで酒浸りで、仕事中に隠れて酒を飲んでいるのがバレてクビになる。

そんな2人がある夜、カラオケバーで出会い、なんとなく目が合って、お互いのことを知らないまま何故か惹かれ合う。孤独を抱えながらそれぞれ1人で生きてきた女と男が偶然に出会い、再会し、声をかけ、映画に出かけ、少しずつ距離を縮めていく…。

2人が初めてのデートで見に行く映画は、ジム・ジャームッシュ監督のゾンビ映画「デッド・ドント・ダイ」。デートでこれ選ぶか!?(って感じなんだが、カウリスマキ監督とジャームッシュ監督は仲良しなんだそうで…)

電話番号を書いた紙を失くしてしまったホラッパが毎晩映画館の前でアンサを探す描写や、ホラッパが立ち去った後に映画館の前でたくさんの吸い殻を見つけるアンサ。しかし、アンサはホラッパが電話番号をなくしたことを知らないので、単に連絡をくれないのだと思い込む。

やがて再会できた2人。ホラッパを食事に招待しようとスーパーで安い皿とフォークとナイフを1つずつと、小さなボトルシャンパンを買うアンサ。町の花屋で出来合いの小さなブーケを買うホラッパが、それぞれ可愛い。

でも、家にやってきたホラッパがアル中であることを知って、「アル中は嫌い!」と言い放つアンサ。「人にとやかく言われたくない!」と出ていくホラッパ。この日のために買ったサラダやフォークをそのままゴミ箱に捨てるアンサ。こういう細やかな描写がとても効いている。

また、折りに触れ流れる楽曲が、いちいち染み入る(公式サイトに曲紹介もあるよ♪)。

正直、どうしようもない男女の、地味でたわいない"ちいさな恋の物語"なのだが、なんだか心に沁みて後を引く映画です。

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