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ビニールハウス(2022)

まだ29歳という若さのイ・ソルヒ監督が、自身の認知症の祖母と、祖母をケアする母親の関係性からオリジナル脚本を書き、自ら監督した映画「ビニールハウス」。第27回釜山国際映画祭で3冠。

こういうことが起きると嫌だなぁ…と、想像できる限りめいっぱいの"気分が悪くなる出来事"を並べて、それが一つのきっかけから連鎖反応的に、ドミノ倒しのように次々と起きるためにはどのように設計すれば良いかを考え尽くした、まさに計算高い、頭の良い、見事な完成度の"胸糞悪くなる"タイプの映画でした。

観たら、嫌な気分になるのは間違いなし! でも、よくぞここまで組み立てたなぁ!! と感心するし、観客にこの次の瞬間に起きる嫌な出来事を想起させつつも、画的にはギリギリ寸前のところで切ってハッキリ見せないところが、これまた巧い。

ビニールハウスに暮らす中年女性ムンジョンの夢は、少年院にいる息子が出所したら再び一緒に暮らすこと。その引っ越し資金を稼ぐために盲目の老人テガンと、その妻で重い認知症を患うファオクの訪問介護士として働いている。

ファオクはもはや現実を認識できる状態になく、献身的に世話をするムンジョンに対し、「お前は私を殺そうとしているんだろう!」と罵詈雑言を浴びせ、暴力を振るう。しかし、ムンジョンはお金を稼ぐために理不尽な振る舞いに耐え続け、夫のテガンはムンジョンに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

息子の方は(何をして少年院に入ったのかはわからないが)全く母親想いではないし、ムンジョンの母親も認知症で施設に入っていてお金がかかる。人生に疲れ切って、しかし、息子との暮らしに一縷の希望を託して不器用に真摯に懸命に生きようとする主人公ムンジョンを演じるキム・ソヒョンが見事だ。

貧困、痴呆、介護… さまざまな社会問題を孕みつつ、底なし沼から抜け出せない転落のストーリーを容赦なく描いた本作は、(気分が悪くなるような映画でも心が折れない方には)一見の価値ありな完成度の高い一作です。

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