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愛欲のセラピー(2019)

「落下の解剖学」が話題になっているジュスティーヌ・トリエ監督の前作「愛欲のセラピー」を見た。

主人公のシビルは、以前はベストセラー作家だったが、その後精神科医に転身していた。しかし、10年ぶりに創作意欲が湧いた彼女は再び小説を書くことを決めた。

紆余曲折ありながら患者を同僚のセラピストへ引き継いでいくが(そのやりとりを見ていると、患者とセラピストの関係性の難しさをしみじみと感じる…)、女優のマルゴは引き継ぎを拒み、シビルにセラピーを続けて欲しいと粘る。

作家に戻ると宣言した割には筆が進まないシビルは、マルゴと彼女が付き合っていた俳優のイゴール、2人が出演する女性映画監督の関係性に興味を惹かれ、セラピーを続けながらマルゴの身の回りで起きていることを小説のネタにしようと思いつく。

作家とセラピストという、どちらも他人の物語を書き記していく職業を掛け持つ主人公の設定が興味深いし、そんなシビルを演じるヴィルジニー・エフィラの、常に物事を客観視しようとしている風な、感情を表に出さない表情の演技が素晴らしい。

また、他人の恋愛を高みから覗き込みながら、自分の過去の甘い恋愛を回想し、その失敗の傷口を癒しきれず、いつの間にか他人の恋愛模様の中に絡めとらていく展開も面白い。

「人生はフィクションで書き換え可能」だと。

非常に興味深い佳作。原題は「シビル」で、"愛欲の"は、ややセンセーショナルな線を狙った邦題ですね!

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