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奇跡(1954)

カール・テオドア・ドライヤー監督の1954年作品「奇跡」を見た。原題は「Ordet」で、解説によるとギリシャ語のlogos(=言葉)をデンマーク語に訳すとOrdet。つまり、「はじめに言葉(=logos)あり 言葉は神と共にあり 言葉は神なりき」というヨハネ伝の書き出しにもあるキリストの「御言葉」がタイトルになっている作品で、まさにそのまんまの内容。

1930年代のデンマークに住む老農場主モルテン・ボーエンは、とても信仰心の強い人物です。長男ミケルは神を信じないものの、その妻インガーが信心深く、2人の間でうまくバランスをとっていました。次男ヨハネスは何らかのきっかけで精神異常になり、自分をキリストの生まれ変わりだと思っています。三男アーナスは仕立て屋の娘アンネと結婚したいのですが、彼女の父ペーターはモルテンとは宗派が異なるという理由からこれに絶対反対です。

このように、それぞれが神(=キリスト)に対して異なるスタンスを持つ人々が、愛する人の不慮の死に直面し、何を思い、どう行動するのか。父と息子たちと宗派で対立する人という登場人物の配置が見事に効いています。

日常生活に深くキリスト教が入り込み、その信仰の中で生きる人々の姿を、静かに深く描く作品。あまりにも信仰について真摯に向き合っているので、襟を正す気持ちになりました。

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