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殻を破れ!Panasonic 成長なき40年からの脱却 2023.01.23 3/3




日経ビジネスの特集記事 60

殻を破れ!Panasonic 成長なき40年からの脱却 2023.01.23 3/3

<このページでは、『日経ビジネス』の特集記事の概要紹介と、管理人のコメントを掲載しています>

CONTENTS

PART 1 電機の巨艦をむしばむ病 思考停止どう打破 トップ楠見の頭の中

PART 2 マイナーチェンジ地獄の原因 安売りよ、さらば 家電の悪循環断つ

PART 3 EVの大波に乗る マスクの速さに学べ 電池100年目の脱皮

PART 4 グループが変化する起爆剤に 米ブルーヨンダー 始まった異文化融合

PART 5 道しるべか呪縛か 経営の神様、幸之助と終わらぬ対話

編集長インタビュー 楠見雄規社長兼グループCEO 手を打たねばいずれ滅ぶ


第3回は、

PART 5 道しるべか呪縛か 経営の神様、幸之助と終わらぬ対話

編集長インタビュー 楠見雄規社長兼グループCEO 手を打たねばいずれ滅ぶ


を取り上げます。


【電機業界の雄、パナソニックホールディングス。営業利益は1984年度の5757億円を超えないまま、40年近くがたつ。成長できずにあえいできたが、今変化を起こそうとしている。停滞の殻を破ろうとする巨艦の現状と展望を探る】
というのが今週号のテーマです。


パナソニックは現在、EV向け電池の供給に全力で取り組んでいます。供給先は主にテスラです。

EV用電池は競合が多く、世界シェア1位はCATL、2位はLG化学、3位はパナソニック、4位はBYD、5位はSKイノベーション等となっています(EV電池・車載電池業界の世界市場シェアの分析 2023.01.27)。

近い将来の話になりますが、トヨタは全固体電池を2027年までに実用化させると宣言していますし、テスラも独自で開発を進めています。

さらに、今はまだ小さな会社ですが、米国の QuantumScape (QS) という会社はすでに全固体電池を開発済みで、2025年に実用化するそうです。

もちろん、パナソニックはEV用電池だけにビジネスを特化しているわけではありません。家電メーカーであり、電子機器・部品や車載機器メーカーでもあり、さらにソフトウェアから住宅設備まで幅広いビジネスを展開しています。

それでも、EV用電池メーカーとしても世界市場で勝ち残ることは重要なテーマとなっています。


PART 5 道しるべか呪縛か 経営の神様、幸之助と終わらぬ対話

1/3でご紹介した歴代社長について書かれています。
すなわち、中村邦夫、大坪文雄、津賀一宏の3氏です。

殻を破れ!Panasonic 成長なき40年からの脱却 2023.01.23


まず、中村邦夫氏について。

2022年11月、旧松下電器産業の社長だった中村邦夫が亡くなった。00~06年に6代社長に就いた中村は、歴代社長の中で、松下幸之助が築いた事業モデルを壊した人物とみられてきた

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p. 028 


具体的には何をしたのか?

中村が着手したのは事業部制の廃止。研究開発や製造現場の重複を解消するため、約70年続いた体制に終止符を打った。聖域とされていた雇用にも手を付けた。

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p. 028 

誰もやりたがらないことをしたということです。松下一族からだけでなく、社内の多くの人たちから嫌がられることを敢えてやった蛮勇の人と言えるかもしれません。そこまでしなければ、松下電器産業は変われないという強烈な危機感が根底にあったと推測できます。


大幅赤字から黒字転換

02年3月期には4278億円の最終赤字を計上、当時としては同社で過去最大の赤字額だったが、中村の構造改革によって2年後には黒字に転換。改革には、米国や英国の駐在が長かった中村の合理主義的な考えが色濃く出た。

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p. 028 


次に大坪文雄氏について。

中村の路線を継承した7代社長の大坪文雄は、08年に社名をパナソニックに変えた。「パナソニック」「ナショナル」など商品によってバラバラになっていたブランド名と社名を統一させ、結果として創業者、松下幸之助の色がない「パナソニック」を採用した。

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pp. 028-029 


破壊と創造を目指す

「破壊と創造」を旗印にした中村とそれを継承した大坪。だが、00年代後半にプラズマテレビへ過剰に投資し、のちに2年間で1兆5000億円に上る最終赤字を計上することになった。創業者時代の経営と一線を画す取り組みは多かったが、残ったのは「破壊」で、「創造」にまで至ることはできなかった。

殻を破れ!Panasonic 成長なき40年からの脱却 2023.01.23 
p. 029 

テレビやPCに使われた2つの部材、液晶とプラズマ。パナソニックはプラズマに入れ込みすぎて莫大な損失を計上することになりました。
この損失が、その後のパナソニックとソニーの企業業績の差となった遠因と私は考えています。


そして、津賀一宏氏について。

12年に8代社長に就いたのが、津賀一宏。当初は記者会見や社内で、幸之助やその理念にほとんど触れることはなかった。研究開発者出身らしく、何にもとらわれない独特の思考が特徴で、創業者さえも特別視しなかった。「創業者の枠組みから抜け出せないのは情けない」「我々の経営理念を築くべきだ」などと、時に幸之助の経営を否定しているかのような発言もあった。

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p. 029 


プラズマテレビの事業失敗からV字回復へーー新たなるつまずき

社長在任期間の半ばから、「次第に幸之助の理念や考えに立ち戻ることが増えた」とある幹部が話す。その時期は、プラズマテレビの事業失敗による巨額赤字からV字回復を果たしたのち、新たに打ち出した車載関連などの事業につまずき始めた頃と重なる。

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p. 029
 

津賀氏に関して、日経ビジネスは以前に特集記事を組んだことがあります。

お時間がありましたら、ざっと目を通していただけると幸いです。


そして、現社長である、楠見雄規氏について。

9代トップとしてグループをけん引する楠見雄規。持ち株会社制への移行で、事業会社の独自性が強くなり、いわば経営に遠心力がかかる中で、幸之助の理念を重視している。振り子は創業者へと大きく振れた。

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p. 029 


原点回帰

Back to basics. です。

企業経営は時として、振り子が逆に振れることがあります。
パナソニックグループの場合、創業者の松下幸之助氏の考え方「水道哲学」から逸脱してきていたのではないかという反省から、原点回帰に繋がったと推測されます。

水道哲学(すいどうてつがく)は、松下幸之助の語録に基づく経営哲学である。幼少期に赤貧にあえいだ幸之助が、水道の水のように低価格で良質なものを大量供給することにより、物価を低廉にし消費者の手に容易に行き渡るようにしようという思想(経営哲学)である。

水道哲学 Wikipedia 


いつの間にか「生産者と消費者の意識が乖離していた」、と社内で共通認識されるに至ったことが大きかったと考えられます。

水道哲学をもう少し具体的に解説しています。

幸之助はこう考えた。全ての物資を水道の水のように価格を安くして社会を豊かにする「水道哲学」としても知られ、25年からなる1節を10回繰り返し250年で世の中を楽土にする「250年計画」と併せ、楠見が引き合いに出す考え方の一つだ。

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p. 029
 

250年という超長期にわたる計画を構想していたとは驚きです。

現在では、5年先を正確に予測することが難しい時代になっています。

楠見社長は、「経営基本方針」を約60年ぶりに改定しました。


殻を破れ!Panasonic 成長なき40年からの脱却 2023.01.23


理念を重視するために、1964年から配られていた社員読本「経営基本方針」を読みやすく改めた。2022年、初めて文章の表現を改定したのだ。七精神の一つとして知られる「産業報国の精神」には、「私たちの使命は(略)地球環境との調和に貢献することです」などと記した。

殻を破れ!Panasonic 成長なき40年からの脱却 2023.01.23 
p. 030 


経営理念の重要性を知ったきっかけ

楠見は、経営理念が重要であることをトヨタ自動車の動向にも見て取った。同社は19年、100年に1度の大変革期の中で、創業の原点を見失ったまま生き抜くことはできないと、創業者の教えなどを載せた社員手帳を作った。歴史文化コミュニケーション室の中西雅子は、楠見が経営基本方針改定に着手する際、何度もトヨタの手帳を手本に出したと振り返る。「我々もトヨタのように社員が認識を共有できる冊子を作ろう」と、楠見は中西に話した。

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p. 030
 


持ち株会社制 原点回帰

持ち株会社制という経営手法は、幸之助が始めた事業部制の特徴を持っている。同じように経営の理念としても、原点回帰を進める。

殻を破れ!Panasonic 成長なき40年からの脱却 2023.01.23 
p. 030
 


原点回帰とはいえ、創業者を神格化してはならない

経営者にとって創業者は大きな存在だ。全社員を束ね、自分を誰も守ってくれない中で取捨選択を迫られるとき、その教えは重要なよりどころになる。しかし、頼りすぎれば自らを縛ることになりかねない。
楠見はそれを分かっている。「創業者が何を言ったかを強調すると神格化され、思考が停止する。何を言ったかではなく、何をどう考えたかこそが重要」と、中西に言った。言葉だけを追うと、自由な発想ができなくなるということだ。

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p. 030
 


村田製作所との差が拡大

スマートフォン用部品などへの集中投資を続けた村田製作所が京セラの何倍もの利益を稼ぐ企業になった。村田の23年3月期の連結営業利益は京セラの2倍を超す見込みだ。同社社長の谷本秀夫は多角化の意義を認めつつ「選択と集中の考え方を取り入れる」と語り、半導体関連などへの投資を強化する。パナソニックグループも変えるべきところは変える姿勢が必要になる。

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p. 030
 

ここで、パナソニックグループ、村田製作所、京セラの3社を比較してみましょう。

パナソニック(6752) 株探
村田製作所(6981) 株探 
京セラ(6971) 株探 

この3社の業績を比較する上で注目していただきたいのは、「修正1株益」です。

修正1株益の比較 (単位:円)<EPS=Earnings Per Share>

           予24/03  23/03  22/03
パナソニックグループ  149.9  113.8  109.4 
村田製作所       260.4  401.3  491.0
京セラ         410.6  356.6  411.2

年々増加していますが、明らかにパナソニックグループは他2社と比較すると見劣りしますね。 売上高は3社の中で1番大きいですが、売上高に対し純利益が少ないため、利益率が最も低いからです。

楠見社長の決断

楠見は幸之助の経営手法と理念をよりどころにして、自ら考える組織づくりへ動き出し、さらに事業の選択へと進む。打破するのは、日本の多くの組織にはびこる思考停止の悪弊。パナソニックHDが成長できるかどうかは、これからの日本の進路を占うものにもなる。

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p. 030
 


編集長インタビュー 楠見雄規社長兼グループCEO 手を打たねばいずれ滅ぶ

ここからは、日経ビジネス編集長 磯貝高行氏が楠見雄規社長にインタビューした内容の一部を抜粋してご紹介します。楠見社長は歯に衣着せぬ言い方をしています。

パナソニックHD楠見社長「手を打たねばいずれ滅ぶ」


PROFILE 楠見雄規[くすみ・ゆうき] 氏 1965年奈良県生まれ。
89年京都大学大学院工学研究科修了、
松下電器産業(現パナソニックホールディングス)入社。
主に研究開発畑を歩む。
家電を扱うアプライアンス社の副社長などを務め、
2019年にオートモーティブ社社長に就任。
トヨタ自動車との角形電池の共同出資会社設立に向けて
交渉役を務めた。
常務執行役員を経て21年にパナソニック社長兼CEO、
持ち株会社化した22年4月から現職。
趣味は料理とロードバイク。
殻を破れ!Panasonic 成長なき40年からの脱却 
2023.01.23 p. 033


1970年代、トヨタと松下電器産業(現パナソニックHD)は日本の製造業の代表と言われていました。そんな時代もあったのですが、トヨタの現場を見てきて、これが進化を続けてきた会社と停滞が続いてきた会社の違いなのかと感じたのです。もちろん、戦略の巧拙など他の要素もあるとは思いますが、やはり基本的な姿勢の違いが大きな差を生んだのだろうと考えています。

殻を破れ!Panasonic 成長なき40年からの脱却 2023.01.23 
p. 032
 


2013年に売上高で車載2兆円、住宅2兆円という目標を会社として掲げましたが、いつまでにという期限があることで、本社が意図しないような、利益が取れない無理な注文を取ってくるケースが横行しました。本来は、事業に一番近い責任者が自らの意思で目標を設定し、コミットメントとして実行しなければいけませんが、それができていませんでした。

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p. 032
 


上司が部下を追及することが増えたことで、会社は上意下達が強い風土になってしまった。本当は現場に近い人ほど事業をよく知っていますが、部下としては「上のことを聞いていたらいいんだな」となって、気付いたことも言えなくなってしまっていた。1000人いたら1000人の力を結集させたいところが、上だけで判断すると知恵が集まらなくなる。そういったことが停滞につながってきたと考えています。

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p. 032 


事業会社が中心となる形なので、私たちは「事業会社制」と呼んでいます。目的は自主責任経営の徹底を図ること。(38ある事業をそれぞれ統括する)事業部長ら責任者に、高いモチベーションを持たせる必要があります。

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p. 034
 
 


当社には64年に制定され、事業に取り組む際のよりどころが記された経営基本方針があるのですが、ここから遠ざかっているというのが私の認識です。それで、「お客様第一」や「自主責任経営」「衆知経営」などを再認識するために、約60年ぶりに経営基本方針を分かりやすく改めました。

殻を破れ!Panasonic 成長なき40年からの脱却 2023.01.23 
pp. 034-035 


業界の中ですべてにおいて1番になるのは難しいかもしれないけれど、特定の領域では誰にも負けないことは必要です。

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事業を見る際の指標にしているのは3年間の累積営業キャッシュフローとROIC(投下資本利益率)です。新型コロナウイルスの感染症によるロックダウンもあれば、半導体不足も起きるので、単年度の売上高や営業利益を追いすぎないようにする。もちろん短期の業績も見ますが、そこに至らなかった理由は何だったのかを聞き、改善する機会と捉えて話し合うように心がけています。

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p. 035
 


お客様に一層お役立ちになるものが出てきた瞬間に、役に立てない事業は消えてなくなるのだから、今変えていかなければならない。その速さが他社より速ければ、成長するはず。業界2位や3位でありながら売りが立っているのでいいじゃないか、というのは言語道断です。

殻を破れ!Panasonic 成長なき40年からの脱却 2023.01.23 
p. 036 


事業をダイベストメント(投資撤退)するきっかけは2つです。一つは、ある事業に資金を集中させたいけど、原資がないときです。集中したい事業がある場合に、別の事業をあきらめるということはあるでしょう。
もう一つは、構造的劣後にある場合です。ライバル企業がすでに多くの範囲を手の内に収めていて、自分たちが同じことに遅れて取りかかろうとしても、投資がかさんで勝てないときなどです。そうした構造を変えられないのなら、外に出したうえで発展させることも考える必要があるでしょう。

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p. 036 


大切なのは改善を積み重ねていくスピードです。スピードで誰にも負けないレベルになれば、競合に絶対勝てる。オペレーション戦略部に言っているのは、トヨタの改善のスピードを追い越せるのはいつかということです。そういう目線でまず目標設定をしようと。業界が違うので単純に比べられませんが、トヨタのスピード以上になればすごいことです。改革に終わりはありません。

殻を破れ!Panasonic 成長なき40年からの脱却 2023.01.23 
p. 036
 


最後に、磯貝高行編集長の「傍白」をご紹介します(全文)。

「親父はおだてられるのが大好きな普通の人間だった。でも神様になっちゃったから今さら何も言えないよ」。松下電器産業(現パナソニックHD)の2代目社長で幸之助氏の女婿の正治氏が生前、私の取材で語った言葉です。偉大な創業者を義父に持つ複雑な感情を吐露していました。

歴代トップにとって「経営の神様」との向き合い方は様々です。持ち株会社初の社長になった楠見さんは創業理念への原点回帰でグループを束ねる道を選びました。「自主責任経営」で自走する組織をつくり、求心力を保つために創業者の「250年計画」をサステナブル経営の軸に据えます。創業者を神格化せず、理念を利用する。新世代のしたたかさを感じます。

殻を破れ!Panasonic 成長なき40年からの脱却 2023.01.23 
p. 036
 

🔷編集後記

パナソニックの改革は緒についたばかりです。
これからも紆余曲折があるでしょうが、生き残り、勝ち残るための勝負はこれからです。

しかし、残された時間はそう多くはありません。

楠見社長は英断をしました。
ただ原点回帰するだけでなく、現場のスピード重視で事業を推進していこうとしています。上意下達で「指示待ち」では勝負に負けるということを頭で理解するのではなく、腹落ちするまで徹底する。

状況によっては事業からの撤退も辞さない、という強い信念が感じられました。

伝統も実績もある日本の企業ですから、大改革を断行し、再度成長曲線を描き、ぜひ復活してもらいたいと願っています。


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