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「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー

「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー


🔶 NHKのサイカル(SCIENCE & CULTURE)に五木寛之さんのインタビューが掲載されました。


その中から、自分の気持ちに近い言葉を引用します。

特に、「回想」という言葉に反応しました。回想録を書いたからです。

 

妻(由美子)が2015年8月8日に他界し、『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』(自費出版 264ページ 四六版ハードカバー)を2016年1月25日に上梓しました。

 

詳しくは下記をご覧ください。

【回想録を書こうと思ったきっかけ】


その著書を回想録というジャンルでNoteに全96回(他に上記のきっかけと写真のみの投稿も)にわたり投稿し、先頃完結しました。

そのような事情があり、五木さんの「回想」という言葉に反応したのです。

【由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い 第12回】


に五木寛之さんのご著書『生かされる命をみつめて 見えない風編』(実業之日本社 二〇一五年一〇月十五日 初版第一刷発行)から一部を引用しています。

 

断捨離 

 「断捨離」という言葉が広く知られるようになってどれぐらい経つでしょうか?

私もやってみましたが、結局断念しました。持ち物に対する想いが強く、捨てることができませんでした。

 2階建ての一軒家に私一人と愛猫(ノア オス)一匹で住んでいます。両親も妻も姉も他界し、娘は2021年12月に入籍し家を出ました。2階の二部屋が私の主な生活の場(残りのひと部屋は娘の部屋でそのままにしています)で、1階の二部屋をノアが使い、自由に行き来しています(残りのひと部屋は仏間)。

 

 生前の妻や娘から「本が多すぎるので、重さで床が抜けてしまうので処分してください」とよく言われました。

本を処分したくなかったのですが、ビジネス書を中心に300冊以上を渋々買取業者に送りました。ところが、「値段がつかない」と連絡を受け、無料で引き取ってもらうことになりました。

処分したくなかった本を全く価値がないと評価されたことに落胆しました。「売れない本」というわけです。以後、本を処分することはやめにしました。

ゴミとして出すことなどとてもできません。

  

まえがきが長くなりました。本題に入ります。

いつしか時が経ち、もう一度「断捨離」を検討していた時、今回のインタビュー記事が目に止まりました。


五木寛之さんのインタビュー

前述のような経緯があったため、作家の五木寛之さんがインタビューで述べていたことに共感しました。

 

今年『捨てない生き方』という本を出版したそうです。その五木さんにNHKの高瀬耕造アナウンサーが「捨てないことも悪くない」という真意を聞いています。


【”捨てない人”への励ましの本】

この本の主旨を述べています。


「捨てられない自分」というのにね、愛想を尽かすみたいな。僕はだからそれに対し「そんなことないよ」と。僕はモノなんか全然捨てないでゴミ屋敷の住人として50年暮らしているから大丈夫だよっていう(笑)

励ましと言いますか。怠け者の励ましみたいなそういう本なんですね。

「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー

 

🔶 この言葉を読んだ時、安堵しました。人生における大先輩でも同じようにしているのだなと。


【コロナ禍に思う『捨てない生活』】

「孤立感」や「孤独感」が自殺の大きな要因になっているのでは、と述べています。


例えば、最近、自殺者の数は少し減ってきていますが、その中で年少者や女性の自殺の数字が増えているんですよ。

その原因として考えられることとしては生活苦などいろいろありますが、何か『孤立感』や『孤独感』というのがね、大きな要因になっているのではないか。

それはひょっとしたら、あまりにもプレーンに、きっちり片づけすぎた生活のせいではないかっていう風に、我流で考えるところがあるんですね。

僕なんかは、ありとあらゆる雑多なモノを捨てないで、とってあるっていうと大袈裟ですが、そういうモノたちに囲まれて暮らしていると、1つ1つにストーリーがあるじゃないですか。

これはいつどこで買ったとかね。そういうことを思い出していると1人でいても寂しくないし、ステイホームも退屈じゃないんです。

「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー







1968年にパリで購入したブーツに関わるエピソード


フランスで買った靴が1足あってね。これは1968年のパリの5月革命(※)の時に、カルチェラタンという大学がたくさんあるところでものすごい騒動があったわけですよ。

パリ中がひっくり返るような。その時、ほとんどのお店が閉まっている中で一軒だけ営業している靴屋さんがあったの。その靴屋さんに入ったら、一足の小型のブーツがあってね。

そのブーツを見たらジッパーがついているんです。そこに日本のメーカーの名前が書いてあるんだよ。日本製のジッパーなんですね。こんな騒ぎの中で開いている靴屋さんがあって、それで日本の製品とぶつかるのは、これはご縁だと思ってそこで買っちゃったんですけども。

(※)「パリ5月革命」
1968年、フランス・パリで学生や労働者などが当時のドゴール政権に対して繰り広げた大規模なデモ


「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー


そのブーツは以後50~60年一度も履いていないそうです。

そのブーツの思い出を語っています。


ひとつひとつの「物語」


その靴を手に取るとね、1968年の歴史的な当時のパリ全体が、燃え上がるような、そういう時期のことがぱーっと浮かび上がってくるんですよね。

あのときはこうだったな、ああだったなっていうことが。そういう風にモノにはひとつひとつ『物語』があるんです。

「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー




🔶 共感できますね! あなたもそうした「物語」のあるモノを1つや2つは持っていることでしょう。もっと多くあるかもしれませんね。


高瀬アナウンサーは次のように質問しています。

「五木さんは捨てられなかったからたくさんのものがあるのではなくて、捨てないことを選んだということですか?」

その質問に対して、五木さんは次のように答えています。


戦時中の子どもですから、捨てることがなんかもったいないという気があるのかな。できないんですよね、捨てることが。

それでもう仕事部屋なんか、体を横にして動かなきゃいけないくらいの混みようですけど。面白いことに散らかり方っていうのは臨界点があってね。

「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー


その「臨界点」について高瀬アナウンサーが尋ねると、このように答えました。


それ以上、モノは増えないし、なぜかそれ以上混乱しないんだよね。捨ててもいないし、新しいモノも入れていないんだけど。そんな風に何十年もやってきました。

今着ているジャケットも、42年ぐらい前のものなんです。

「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー


ここで高瀬アナウンサーが白いジャケットを取り出しました。

高瀬アナウンサーにその白いジャケットの「物語」を語ってもらいましょう!

白いジャケットの「物語」


大学時代、男声合唱団のグリークラブにいまして、演奏会の時に着ていたものなんですけれど。やっぱり捨てられないんですよね。

25年くらい前のものです。

何回も引越しをするんですけど、その度に捨てようかどうか迷ったんですが、ある意味、奇跡的にやっぱり捨てられなくて。

「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー




🔶 高瀬アナウンサーも五木さんと同様な経験をお持ちだったのですね。


回想


 五木さんが「回想」について語る場面があります。


人はね、何か昔のことを回想するってのは決して後ろ向きのことじゃないんです。

個人では回想だけども、例えば国のことを回想するのは歴史っていうわけですよね。

ですからいろんなことを考えながら、その思い出を、糸口を探すためには、何かのきっかけが必要なんです。それをね、“依代(よりしろ)”って古い言葉で言うんですよね。

だから豊かな回想の世界に浸っていくためには、まず入り口のドアを開けるが必要なんです。その鍵になるのが、小さな、忘れられた古いモノたちなんですよ。

「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー


🔶 とても心に沁み入りました。

特に、

「いろんなことを考えながら、その思い出を、糸口を探すためには、何かのきっかけが必要なんです」

の個所です。


私が回想録を書いたのも、年々記憶が薄れていくことが分かるので、紙の本という形で手元に置いておくことで、当時のことを思い出すきっかけにできると思ったからです。

“依代(よりしろ)”という言葉を初めて知りました。


【モノに宿るのは楽しい記憶ばかりではない】

捨てる・捨てないとはどういうことなのか?


捨てる・捨てないが、単にモノを捨てる・捨てないの問題だけじゃなくてね、自分の思想とか信念とか、そういうのをひっくるめてね、どういう風に、捨てるってことを覚悟して生きていけるかっていう。

「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー


🔶 深掘りするとはこういうことを指すのでしょう。


【語ることは残すこと】

五木さんは語ることをすごく大事にしているそうです。対談した人の数は700人いやその倍くらいあるそうです。


僕はもう書くことよりも語ることの方が大事だと思ってるんです。割と若い時から対談は喜んで引き受けてきました。

この間、寝る前にこれまでどんな人と対談したかなと思ってずっと数えていましたら700人ぐらいまでいったところで、眠くなくなっちゃってね。

たぶんその倍くらいはあると思います。亡くなった方が多いですけども。思い出しては、あのときは分からなかった言葉が今になってやっとわかることもあったり。あの時はこういうことを言おうとしてくださったんだなぁなんてことを考えたりしますね。

「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー



五木さんは今年9月で90歳になるそうです。その五木さんは生きていることは悪いことじゃない、と語っています。

【生きていることは大変だけど、悪くない】


年を重ねていくっていうことが、寂しいことではないという実感が僕にはあるんです。それは本当にいろんな昔のことを自分で思い出し、その依代を手に取っては「あのときはこうだった、このときはこうだった」って。

なんか若い時より今の方が幸せという感じがあるんですよ。ですから「大丈夫だよ」って。寂しくなるっていうんじゃなくてね。歳を重ねていくってことは、ある意味ではそういう追想とか記憶とかの海の中に泳ぎだしていくことなんです。

これはね、悪くないですよって、そういう話ですよね。本当に生きてることは大変だなって思いつつもね「ああ、でも生きててよかった」とつくづく思います。

「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー




今年の秋には90歳になりますけれど、生きてることが嫌だなとかウンザリしたとか寂しいとかそんなことは考えないですね。

ものすごくたくさんの人たちとつながっているし、井上ひさしさん、野坂昭如さん、永六輔さん、みんないなくなるでしょ、同年代の人たちが。

石原慎太郎さんなんかは、同年同日の生まれなんですよね、そのことでいろんなことを思い出すんです。

あの時、彼はこんなこと言ってたなとかね。そうするとなんかそばにいるような感じがして。

「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー


🔶 言葉のひとつひとつに深い味わいがあるとは思いませんか?


高瀬アナウンサーが最後に尋ねます。

「特にこれだけは手放せないというモノはありますか?」

その質問に対して、五木さんはこう答えています。


雑多なモノ、整理しないで机の引き出し開けてみたらもうゴチャゴチャいろんなものが入ってたって、その中で「あ、これはあのときの」とかって、こういうのが楽しいじゃありませんか。発見があるんだもの。

冒険の旅に出るのと同じですよね。それをきちんと分類して整理してしまったら、なんかやることないじゃないですか。思いがけないものとの出会いっていうかね。そういうものに出会って、思いがけないことを思い出して、すっかり忘れてたのに「あ、そうか」って。「これのおかげでこんなことを思い出した」っていうのが、なんか新しい出会いというか発見というか、ドキドキするじゃありませんか。


「捨てない生活も悪くない」五木寛之さんインタビュー


🔶 ドキドキ感を楽しんでいるのですね。何か素敵だなと感じました。
何歳になってもこのドキドキ感を楽しめる人間になりたいな、と思いました。


🔷 出典元

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