せい

多汗症の男。 汗から解放された暮らしを夢見る男。

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多汗症の男。 汗から解放された暮らしを夢見る男。

マガジン

  • 多汗症のセイ君

    セイ君は普通の人よりよく汗を掻く人。特に手のひらの汗が悩みの種です。 そこでセイ君、思い切って手のひらの汗を止める手術をします。 手術は成功。でも、今度は「代償性発汗」という副作用に悩まされ続けてしまいます。 汗に人生を翻弄されるセイ君。故郷で暮らすことを諦め、夢を諦め、たくさんの挫折を味わいます。 それでもセイ君は大きな野望を胸に日々を生きています。 そんなセイ君のこれまでをプレイバックしていきたいと思います。

最近の記事

5.夢見るセイ君

高校を卒業したセイ君は島を離れて福岡の大学に進学します。どうして福岡なのかと言うと、四季を感じられて大都市のある所がいいなとぼんやりと思ったからです。 セイ君の島は田舎です。一番大きな建物はビーチに建つリゾートホテルぐらいです。本当は東京に憧れていたのですが、東京の大学はどれも学費も高くて生活費も高いです。それで少しは値段を抑えられる福岡に決めたのでした。 大学に進学したのも特に目的はありません。とりあえず大学にしとくか、という浅はかな考えです。そんな頭の悪い男ですから選

    • 4.馬鹿なセイ君

      運動会は散々だったセイ君でしたが、背中の怪我が治るとこれまでの鬱憤を晴らすかのような活躍をします。 校内の駅伝大会でアンカーに抜擢されたセイ君。二位でタスキを受け取ると見事に一位に躍り出てクラスを大逆転優勝に導きます。ゴールをする時のあの大歓声は今でも忘れられません。さらに島の中学駅伝大会ではメンバーにも選ばれます。結果はそれなりでしたがそれでも順調に楽しい日々を過ごします。 ただ、フォークダンスで起きた惨劇以来、セイ君は手汗をさらに気にするようになりました。 友達とゲ

      • 3.気持ち悪いセイ君

        二学期になると学校は運動会の練習や準備に大忙しです。 セイ君が出る種目は四つありました。 まず一つ目は組体操。これは男子全員での演目になります。セイ君は体重がクラスで一番軽かったので演じる全ての演目で上の役になります。しかも大人数で組むピラミッドや,、クラス全員で組まれる四段タワーでもセイ君は最上段の役になります。最上段なので皆の注目を浴びる事になります。ウケを狙ったポーズでもしてみようかなとセイ君はそんな事をぼんやりと考えます。 二つ目は1500m走。長距離が得意なセ

        • 2.じゃこうのセイ君

          「じゃこう!」 突然のヨシ君の大声にセイ君はびっくりして戸惑ってしまいます。 ヨシ君の言った『じゃこう』とは何なのでしょう。セイ君、初めて聞いた言葉です。 何が起こったのかよく分からないセイ君でしたが、立ち去っていくヨシ君の動きを見て理解します。 ヨシ君はズボンの裾で手を拭いています。 さっきまでヨシ君はセイ君の手を握っていました。 ヨシ君はクラスのヤンチャな子。人を笑わせるのが大好きです。いつも騒いでクラスを盛り上げるような人です。 そのヨシ君にはマイブームが

        5.夢見るセイ君

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        • 多汗症のセイ君
          5本

        記事

          1.セイ君

          セイ君は活発な男の子。 走るのが大好き。裸足になっていつも走り回ってます。 セイ君が生まれた所は沖縄県にある小さな島。毎日が常夏です。ギラギラな太陽が肌をジリジリ焦がしてきます。 でもそんなのセイ君には関係ありません。迸る汗を無視してセイ君は友達と思い切り遊びます。そんなセイ君の肌は日に焼けて真っ黒でした。 セイ君は小学6年生になって転校をします。島の中でも一番大きな学校です。 教室に30人もの生徒がいることにまず驚きます。あまりの人の多さにセイ君はとっても緊張しま

          1.セイ君

          47.悪夢

           蝉の声が煩かった。  目を開けると、一瞬ここがどこなのか分からなかったけど、すぐに自分の部屋だと分かった。  時計を見ると、もう11時だった。それで僕が今まで寝ていたんだと思い出して、もしかしたら昨夜の事故は夢だったんじゃないかと思った。  でもすぐに思い直す。昨日の事は、はっきりと覚えている。長い一日だった。あんなに長い夢があるわけない。  一階に下りると、玄関にまだ開かれていない朝刊が無造作に置かれてあった。その新聞を持って台所に向かうと、テーブルの上には小さな

          47.悪夢

          46.新藤がここにいる理由

          「そう。やっぱり・・・」  新藤のお母さんは呆れた顔をしていた。  あの後、新藤はなんとか車椅子に戻った。車椅子に座った後は、ずっと運動場を眺めていた。僕らに近寄る度胸はなかった。 「あの子の事だからきっとそうしてるんだろうと思った。いつもそうなのよ。心配させたくないから、いつもそうやって・・・」  新藤のお母さんは溜息を吐いて考え込んだ。そんなお母さんに新藤の容態の事を尋ねると、お母さんは話してくれた。  今の新藤は病院での注射と鍼治療で様子を見ているとの事だった

          46.新藤がここにいる理由

          45.突撃

           この日は学習の森でトレイルラン。  夏休みの練習は日差しの強い日中を避けて夕方からの練習が多いけど、トレイル練習だけは別。森の中で日差しもないから日射病の心配はない。練習で人気があるのはトレイル練習だった。新鮮な空気はひんやりとして涼しいからだ。森の中だと自分がパワーアップしたんじゃないかと錯覚するほど走りやすい。皆もそう思っていた。  最初の休憩中、水を飲んで涼んでいると賢人が近寄ってきた。 「哲哉。練習の後って暇?」  釣りの誘いかなと思った僕は「暇だよ」と返事

          45.突撃

          44.皆の想い

           夏休みに入ると、練習のメニューはさらに過酷になった。いつもの走り込みに、さらに長距離インターバル走が加わった。  一人を先に走らせて、しばらくしてから残りの全員をスタートさせる。先に走る人は一本ずつ交代した。 「先に走る人は皆を離す気持ちでやれよ。本番で追われる事を想定して走れ」  ピンときた。  これは去年の僕が経験した事を想定している。  一区の新藤がダントツで来る。そうなるとその後の区間は追われる立場になる。それを本番で経験したのは去年の県予選で二区を任され

          44.皆の想い

          43.意地っ張りなあの人

           新藤は重症だった。  腰椎分離すべり症。  それがどんな症状なのか分からなかったので、盛男さんが背骨をブロック塀に例えて説明してくれた。  背骨はブロックを積み上げたみたいに、一つ一つの骨が繋がってできている。  その中の腰にある骨の一つが腰椎。  腰椎の形は簡単にすると、空洞のあるコンクリートブロックのような形になっている。  空洞の周りの骨は細くて脆い。腰に負担を掛けすぎると、この空洞周りの一番細い骨の部分、両端の骨に罅が入る。  これが腰椎分離症。腰椎の

          43.意地っ張りなあの人

          42.どうしてそうなるの

           学校の体育館に大きな垂れ幕が掛かっていた。 『県総体 陸上競技 5000m優勝 新藤孝樹』  登校する皆が、その垂れ幕を見ている。  新藤孝樹の名前を見るのはもう何度目だろう。  帰りの空港、新聞、SNS、掲示板。色んな所に新藤の名前がある。  一回でもいいから新藤になってみたかった。こんなに自分が取り上げられると、一体どんな気持ちになるんだろう。  ふと三人の女子に目がいった。三人とも体育館の陰に立って運動場の方を見ていた。  気になったので近づいてみると、

          42.どうしてそうなるの

          41.疎外感

           五月に入ってすぐに島の高校総体が開催された。  今年もいつも通り二日間で各競技が各会場で競い合った。去年と同様に部員全員が5000mと1500mに出場する事になった。  その中で新藤だけが三種目に出ると志願した。  5000m、1500m、さらには800mまで。  盛男さんは止めたけど、新藤は「島の中長距離を制覇する」と聞かない。近くで亮先輩が「400はいいのかよ?」と口にしたけど、すぐに大志先輩が口を塞いだので聞かれなかった。  それを聞いてたら新藤は出場すると

          41.疎外感

          40.遠くなった背中

           また忙しい日々に戻った。  身体はきつい。でもあの無為な二ヶ月間の日々を思い返すと、今が「生きてる!」と胸を張って言える。  ただ、あの二ヶ月は大事だったと凄く痛感した。この二ヶ月で皆はめきめきと力をつけていた。特に省吾と賢人の背中が遠くなったのがよく分かった。  長距離の走り込みになると、省吾は亮先輩と大志先輩と競うまでになっていた。そういえば身長も少しだけど伸びている。その分パワーアップしたのかもしれない。  賢人はスピードで力を発揮した。中距離なら先輩達の前を

          40.遠くなった背中

          39.温かい人達

           教室に入ると、一番前の席の賢人と目が合った。けど、賢人はすぐに目を逸らして机の中を覗いた。  賢人の席に近づくと、僕は意を決して口を開いた。 「観たよ」  賢人が僕を見る。「そう」とだけ賢人は言った。 「凄かった。あの二人は本当に凄い」  その後に昨日から言おうと思っていた一言が出掛かったけど、ガヤガヤした教室がそれを押し戻した。 「で、なに?」  じろりと賢人が見てきた。冷めた目つきだった。素気ない賢人の態度にたじろいだ僕は「それだけ」と言って席に向かった。

          39.温かい人達

          38.伝えた人

           真っ暗な中で感じたのは、瞬間に吹き上がった突風だった。  バイクのエンジン音が一瞬の内に身体を切り裂いていく・・・・。  目を開けた。  バイクはいなくなっていた。  エンジン音は遠ざかっていた。音のする方へ目を向けると小さくなっていくバイクが見えた。  危ない運転をするなあ。  過ぎ去ったバイクを睨んでいると、そのバイクのテールランプが赤く光った。  どんどんスピードが緩んでいく。  お、お、お、と思っている内にバイクは道のど真ん中で止まった。  バイク

          38.伝えた人

          37.目を覚ました人

           翌日は祝日で休みだった。  特に何もやる事がなかったので部屋で漫画を読んだ。漫画の内容は入ってこない。頭を占領するのは昨日の大会の結果だ。スマホにギガがないから何も知らない。テレビとか新聞があるけど、母や千紗に見られてしまう。  外から声がした。窓を覗くと母と千紗がシバを連れて出て行くのが見える。  朝ご飯を食べている時に母が言ってきた。 「今日、新藤君と松島君が帰って来るって。皆で盛大に迎えるらしいよ。お父さんも同じ便で帰るみたいだからさ、一緒に迎えに行かない?」

          37.目を覚ました人