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音楽

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星野源さんと、ネガティヴとポジティヴの混在と、『半分、青い。』

 ものすごく、星野源さんのファンである。その程度はというと、「POP VIRUS」の発売日と東京滞在の日程がたまたま被ったから、せっかくだしタワレコ渋谷店で予約して買おう、という謎行動に出るほど。無事A賞をあててマグカップを手に入れた。そんなこんなで「POP VIRUS」のあまりのアルバムとしての完成度の高さに唸りながら、星野源さんという1人の人間に寄せた文章となる。そして、以前前半は振り返ったものの、結局感想を総括できなかった『半分、青い。』にも言及しつつ、ネガティヴとポジ

奇跡みたいなバンド(Laura day romanceのこと)

 頭の中に思いつく限りでLaura day romanceについて綴っていきたい、それはやっぱり23時前まで働いた後に聴いた『夜のジェットコースター』の泣きのメロディ、つまるところ「ヒールが脱げてしまったなら裸足のままでこの痛みでさえも届かない悲しみ持ってレールの上」なのか『sad number』の「しま〜えば!」の愛おしさなのか『rendez-vous』の「今夜!」に感嘆符がついていることなのか、一体何がそんなに突き動かすのか、しかしわたしはもう気がつけばずっとこのバンドの

back number『冬と春』

 たしかに、冬に積み重ねた想いというのは春の暖かさの訪れとともに絆されていくものなのかもしれない。カレンダーを2月、3月、4月と捲っていくにつれて、わたしたちはそのコートを、マフラーを、手袋を手放して薄着になってみる。億劫だった外出もだんだん楽しみになってきて、花見という名目のもと桜の木の下で語り合ったりもしてしまう。そんな、寒い、暑いという2文字で表現できる気候の変化で、わたしたちの生活は様々な表情を見せる。  わたしたちの日常に溢れる言ってしまえばごく普通の、書かれなけ

星野源『光の跡』

 昔、いや本当に昔、小学生の頃。仰天アンビリバボーみたいな番組(色々混ざってる気がする)で前世がどうの、来世がどうの、という特集をやっていた。それを見終わったあと、風呂に入ろうか入るまいかというところで母と話した内容を今でも覚えている。「あんたの前世はなんやと思う?」と聞かれたわたしは「うーん、いない!〇〇は超新星!」と答えた。そしたら母親に「ずいぶん烏滸がましいことで」みたいなことを言われ、彼女はリビングへと戻って行った。わたしは首を傾げながら服を脱ぎカゴに入れてよく沸いた

愛憎芸 #33 『SSAW、それぞれの熱』

 自分探しをインドでやって、スパイスの香りとえらく違うオーラを纏った別人が帰ってくるというのはビートルズ以来続く伝統である。いま、転職活動がさらに進んでおりまともに自己分析をやっている。社会的な自分探し、それが自己分析。学生時代その存在自体にドン引きしあまり手をつけなかったそれを実際にやってみると、つまるところ自分がしてきた選択の一つ一つ、その源流を辿る旅だった。むかし、丸太町橋で鴨川を眺めていたら道ゆくジジイに賀茂川の源流はどこなのか説かれたことがある。なぜ、そのおじいさん

パク・ジヒョ『ZONE』

 この日を本当に待ち望んでいた。明確にこの人に光が当たる日、この日を本当に待ち望んでいた。パク・ジヒョはTWICEのリーダーだ。けれど、それが強調される場面は決して多くない。かつて「TWICE ジヒョ」として特集された情熱大陸を思い返したけれど、あれも結局導入のためにMISAMO3人のインタビューが挿入されたりして、ジヒョが一体何がすごくて(実際、何よりもパフォーマンス中の表情管理に長けていると思うのだけれど)、何故TWICEのリーダーに鎮座しているのか、何故Feel Spe

妬みから自己肯定、そしてしがらみからの解放へ。back numberの歌詞、その昇華を紐解く

 back number最新アルバム『ユーモア』を、清水依与吏が綴る歌詞から紐解いていく。いかにしてバンドはその核を生かしたまま大衆化したのか、「心の一番近い場所で歌うこと」と彼らはしきりに言うが、そもそも人に寄り添うこととは何なのか。彼らはスーパースターであってヒーローではないということ。そしてなぜ今の時代、back numberはもう一度ブレイクしているのか。清水依与吏の歌詞の変遷、そして今のback numberに存在する確かな価値を考える。 ルサンチマンから得てきた

「物語」へのピリオドと、その先の7年間へ - TWICE『Celebrate』

 『Feel Special』から地続きであった物語に、一つのピリオドが打たれた感覚だ。  TWICEの日本最新曲『Celebrate』が公開された。TWICEの活動を語るうえで欠かせないのは日本活動の充実である。K-POPアイドルにとって、ある種宿命として日本活動というものがある。彼らは本国でのヒット曲を、怪しげな日本語に書き換えられ、おそらくルビをふられた状態で必死に歌いそれらを日本アルバムとして販売し、韓国市場の売り上げに上乗せするために働かされている(韓国市場はまだ

観た人全員もれなく古参 YOASOBI 『KEEP OUT THE THEATER』

はじめに:配信ライブとの距離感 私にとって、2度目の配信ライブ視聴。1回目は昨年7月に行われた星野源の10周年記念ライブで、それ以来となった。大学生の頃は、つまるところコロナ禍以前はライブに行くことは日常で、アリーナ、ライブハウスは愚かドームにだって足繁く通ったのだけれど、配信ライブへのモチベーションは妙に上がらず、今までライブに行っていたバンドの配信ライブは、就職というタイミングが重なったこともあってことごとく機を逃してきた。  それでも、YOASOBIの配信ライブは絶対

一般男性(25)が藤井風に嫉妬し、ゲリラ豪雨を憂うエッセイ

 念願の藤井風くんのライブ『HELP EVER ARENA TOUR』初日横浜アリーナ公演を観に行った。リアルライブは5月のiriちゃん新木場コースト公演以来なので4ヶ月ぶりか。今回のツアーは頭文字を取って「HEAT」ツアーらしい。そして彼の最新曲は『燃えよ』だ。よくできている。  藤井風くんの死生観は24歳とは思えないほど洗練されている。ある意味あっさりしているけれど裏を返せばすごく優しさに満ちている。それは楽曲『帰ろう』に全てが凝縮されている。私はネオシティポップやネオ

ハチャメチャにキラキラにバチコーン - TWICE 『The Feels』

 めちゃくちゃ良かったです、TWICEの初全英語詞完全新作『The Feels』。全編英語ということでBLACKPINKやBTS『Dynamite』の存在が頭をよぎってしまう、でもTWICEの良さは明らかにそこにはない、どうかできる限り彼女たちらしい楽曲で英語詞デビューを…と懸念していましたが完全に杞憂だった。めっちゃくちゃTWICEらしいコンセプトと言えるのではなかろうか。バイブスは私の中で燦然と輝き続けるマスターピース、『LIKEY』に通ずるものがある。そう、TWICEの

「あなた」への歌 - back number 『水平線』

 2020年8月20日、YouTubeでのMV公開からはや一年。ようやく、back numberの『水平線』が各種ストリーミング・配信サービスで解禁、音源として聴けるようになった。私自身、YouTube MUSICを使用する習慣もなければ、MVをバックグラウンド再生する習慣もないのでこの曲を聴く機会は決して多くなかった。    back numberの音楽は、日常に溶け込ませてナンボのものだと思っている(それは、ここで何度も言及しているように「半径が小さい」音楽を作っているこ

物語が溢れ出す、真のマスターピース - back number 『黄色』

 back numberの最新曲『黄色』のMVが公開された。ディレクションは映画『溺れるナイフ』や『ホットギミック ガールミーツボーイ』で知られる映画監督・山戸結希。  アルバム『MAGIC』以降、シフトチェンジを謳い続けているback number。『エメラルド』はその布石として十分すぎるほどのロックナンバーであったし、『水平線』はかの『クリスマスソング』を超えるほどの勢いで拡がりを見せ、誰の心にも寄り添う楽曲としての地位を確立し始めている。その中で、Abema TVの恋

情熱は冷めても愛情は残る

 渋谷のタワーレコードの1階では、注目の新譜が大きく展開されている。ストリーミング時代において、CD屋さんが複数フロアで成り立っている奇跡。久々に立ち寄ったそこで、TWICEが妹分のITZYとコーナーを分け合っていて、しかもITZYの方はパネル展まで催されていて、こんなことがあってなるものか、厳に年功序列なK-POPの文化に沿わなくてどうする、と憤っていた。しかしTWICEはすでに発売2週目に入っていたようで、先週までは大パネル展を展開していたらしい。発売翌週になってCDを探