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愛憎芸 #36 『愛の不確かな真実:山本由伸が炎上した夜に』

愛の不確かな真実:山本由伸が炎上した夜に

 わたしの一番好きな投手である山本由伸を、阪神打線がボコボコにした。そしたらわたしの中で少しだけ、愛にまつわる欲求が復活した。球界の大エースの大炎上と一個人の恋愛感情の浮き沈みに因果関係を見出すことは何とも難しくこじつけにも思えるが、わたしは本当にそう思ったと断言できる、なぜならそう思ったときわたしの眼前で、この街でまだ一度も行ったことがない日高屋の看板が煌煌と光っていたことをきちんと記憶しているからだ。

 山本由伸がボコボコにされることはわたしにとって理不尽以外の何物でもなかった。最速159キロのストレートに150キロで落ちるスプリット、それを先発投手でやってるだけでも化け物なのに、左右にカットボールとシュートを投げ分け、カーブまでもが勝負球として使える。右投げオーバースローでピッチャーをやったことのある人間からしたら、小学生が作文で作る投手だ。決して背が高いわけでもないのにその姿は圧倒的。「投手としてプロ野球選手になれなかった自分」の夢をすべて彼に託している、そんな感覚さえあるのだ。

 それを!!!ねちっこく阪神打線は苦しめてきた。カーブがなかなか決まらない、だからこそ真っすぐに張れたのか。スプリットは捨てていただろう、空振りは諦めていたはず。でないとあんなに強振できない。いくらいいところに投げても打たれ続ける山本由伸を見て苦しくなってTVerを消した、胸が苦しくなった正体はいまいちわからない。とにかく、この気持ちを誰かに吐き出したいと思った。

 そのとき、あ、「話聞いてほしいだけなんだけど!!」の時ってあるんだと思った。そういう感情の実在についてようやく思い出す。わたしは基本的に「聞くだけなんてひとつも意味がない」とばかり思い込んでいたし「寄りかかられたら何かしらの解決策を示すことこそが健全な関係性である」というのが信条だったが普通に崩れた。このときのわたし(山本由伸が打たれて絶望しているわたし)にかける言葉など何もなく、仮にわたしが誰かに吐き出しても、「かわいそう」と言われるほかに何も求められていない。「今日カーブ決まってなかったし真っすぐ張られるのも仕方なくない?」とか「カットボールもっと使った方がいいのにね」とか「由伸のまっすぐは速いけど回転数が」とかそんなこと言われても「そんなんわかってるけど!?」としかならず何も解決しないし鬱陶しいだけだ。ようやくわかったよ…人の気持ちをわかるために野球の比喩が必要ってめちゃくちゃサラリーマンのオジサンみたいだな。

 ともかく、山本由伸が打たれた夜にそばに居てくれる人がいたならそれは幸せであり愛をわけあっていることになるということだ。突き詰めるとわたしは、まだだれかと暮らしたい気持ち。どこかで抱いているのかもしれない。転職して落ち着いたら、意地っ張りモードを解除して、少しばかり誰かと歩幅を合わせることを考えてみてもいいかもしれない。そう思わせる山本由伸は炎上したの?いや、阪神打線が野球うますぎるんだよな。あー、日本シリーズ第6戦では完全試合をしてください。

丸佳浩・ヴィム・ヴェンダース・エフェクト

 丸佳浩がヴィム・ヴェンダースの映画に出ていた。いや別にキャストとしてではないけれど、映っていた。ヴェンダースが東京を撮った例の映画。東京の象徴として「読売ジャイアンツのナイター」があったのだろう。丸佳浩はいつも通り「丸ポーズ」をしていた。丸がFAしなかったらきっとあり得なかったことで、バタフライエフェクトのことを思う。自分の行動が与える良き影響に心躍ったり、悪い影響を案じたりして人生はグラグラだが、わけのわからん関係ないところで何かが繋がったり、知らないところで結実したりするわけなので、もう少し肩の力を抜いていきましょうねホント。



■MAGAZINE:BUTLOVESONLY

■ぐんぴぃさん(春とヒコーキ)×戸田真琴さんの対談動画

 バキ童ことぐんぴぃさんがファンを公言している、映画監督の戸田真琴さんとの対談動画。近い価値観を持った人が共鳴していき話が深まっていく様子ほど見ていて面白いものはありません。やっぱり会話の解像度が一気に上がりますよね、深堀が止まらないので。まるで星野源さん×オードリー若林正恭さんの『LIGHTHOUSE』を見ているかのよう。この二人によるポッドキャストを熱望しています。

■山本由伸VS森友哉(2021)

 ストレート一級品なんですよ。どんだけ良い真っすぐでもプロは張ったら打てるので、『MAJOR』はウソです。

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