「アルジャーノンに花束を」読んだ

この世の中にそう何冊もないような完璧な小説だったと思います。

知能の急激な上昇という題材を選んだ以上、避けては通れない問題がいくつも噴出しますが、それらを一つ一つ丁寧に摘み取っていくのは作者の作品への向き合いを感じられて良かったです。

特に面白いのがアルジャーノンという鼠を用意したことですね。

人の知能指数が急激に上昇する、というだけでもう随分面白そうに思えますが、そこに先行する鼠という存在を加えることで、主人公を一人ぼっちにしないという采配を下してます。

これが上手く効いていて、知能指数の乱高下によって目くるめく人付き合いが移り変わるのですが、常に傍らにはアルジャーノンがいるということがどれだけ心強いか、それが小説を読む上での安心感、引いては絶望の予防線にも繋がっているように思えます。

また文章としても素晴らしいです。

これは翻訳者さんの腕前にもよるかもしれませんが、ろくに文章も綴れない主人公が段々と言葉を覚えていく過程も完璧に表現されています。

はじめ拙い文章で思いが綴られるところは色々な意味で見てられない部分もありましたが、徐々に言葉を覚えていくにつれ、文法が整うにつれ、そして知能が波に乗り始める頃にはもうこれ以上なくのめり込んでいました。

ジェットコースターに乗った、という言い表しがこの本の読書体験を言語化した場合の最適解のように思います。

急激な速度で知能指数が上昇するにつれ、自分のところに追いついたときはスラスラと読めていたものが、自分を追い越したあたりからは許容範囲を超えた読書体験を余儀なくされました。

さながら一人の人間の凝縮された一生を味わったようなものなので、読み終わってからしばらくは放心状態になりました。

なにか言うことがあるとしたら、完璧すぎて感想くらいしか残せる言葉がないということですね。

おそらくこの本は死ぬときに思い出す10冊のうちの一つになると思います。

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