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感染症と食肉加工 裏に潜む格差(2/4)

◎要約
アメリカの食肉加工業は、寡占化が進み、わずか上位数社で食肉生産の大半を担っている。食肉大手の施設を筆頭に、食肉工場の労働者の感染率は二桁に迫る。一般的な食品工場の感染率の数十倍に至ることから、食肉工場で感染が拡大する原因として、閉鎖空間以外の大きな要因が示唆される。

前回の記事では、食肉加工場での感染拡大の状況をお伝えしました。今回は、食肉加工業で感染が拡大している背景を説明します。

①感染の状況 ー感染症と食肉加工 裏に潜む格差(1/4)
②感染の背景 ー感染症と食肉加工 裏に潜む格差(2/4)
③感染の原因 ー感染症と食肉加工 裏に潜む格差(3/4)
④感染の対策 ー感染症と食肉加工 裏に潜む格差(4/4)

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②感染の背景


前回の記事で触れたように、アメリカ、特に食肉加工場の感染者数は、世界でも群を抜いています。

そこで、アメリカの食肉処理現場がどういったものなのか、少し背景を見てみましょう。


まずは食肉業界について。

アメリカの食肉業界は、GDPの5%強を稼ぎ出す、100兆円規模の一大産業です。
およそ50万人が肉処理業で就労しており、うち7万人が屠畜や解体処理に、11万人が加工工程に従事しています。

絶対数としては、テキサス州、ノースカロライナ州、ジョージア州に従事者が多く、立地係数を加味すると、アイオワ州、サウスダコタ州、ネブラスカ州、ミネソタ州、アラバマ州は、とりわけ従事者の比率が高いです。
当然ながら、これらの州は全て、前回の記事で感染者が判明した工場のある地域を含んでいます。

これら食肉加工従事者の平均時給は14ドル強、平均年収は3万ドルと報告されています。単純に比較はできないですが、全米平均(※)を考えると決して恵まれた待遇とは言えません。
※アメリカの平均時給は25ドル(中央値で20ドル弱)、平均年収は5万ドル超。


人種構成に関して見てみると、屠畜処理や加工従事者の2人に1人がヒスパニック、4人に1人が黒人、10人に1人がアジア・太平洋諸島系です。
また、食品製造業の移民労働者の割合が2割と言われる中、食肉加工労働者の5割以上が外国生まれであり、有色人種や移民に労働力を依存していることが見て取れます。
※アメリカの人口構成は、白人60%、ヒスパニック・ラテン系18%、黒人・アフリカ系13%、アジア系6%で、残りをネイティブアメリカンや太平洋諸島系が占めます。また、アメリカの全労働者の17%が移民で構成されています。


また、アメリカの食肉加工は、寡占化が進み、わずか数社で食肉生産の大部分(上位4社で牛肉の85%、豚肉の66%、鶏肉の51%)を担っています。

アメリカ全体で835の家畜処理場370の家禽処理場がありますが、牛肉に関しては13、豚肉に関しては14の工場が過半数を処理する等、大手メーカーの所有する数十工場が国内供給の大半を担っているとも言われます。


次に食肉業界の感染率について。

そうした独占状態もあり、食肉大手3社だけで、食肉加工業での感染判明者の4分の3を占めています。


先述した直接肉を処理している労働者18万人に加え、包装や検品、整備、清掃等の担当も含めると最大30万人程度が食肉工場で働いています。

そのうち、27,091人に感染が確認(6月17日時点されたことから、食肉工場関係者の感染率(累計陽性者の割合)は10%に達しようとしています。

感染の中心は製造ラインの労働者と言われているため、食肉処理の最前線にいる労働者(上述の18万人)の感染率は、さらに高いと予想されます。


他方、食肉処理場ではなく、一般的な食品工場はどうかというと、6月17日時点で、2,060名の感染が報告されています。

食品製造業の生産従事者が85万人で、食肉加工従事者を差し引くと、一般的な食品工場の従事者はおよそ50万人です。そのため、一般的な食品工場での感染率(累計陽性者の割合)は0.4%程度に留まります。

同日のアメリカ全体の感染率(累計陽性者の割合)が、およそ0.6%であることから、食品工場での感染率は全米平均以下である一方、食肉加工場での感染率は全米平均の10倍を優に超えます。

食肉加工場の感染率が、一般的な食品工場の20倍以上あることからすると、閉鎖的な労働環境だけが食肉工場の感染拡大の原因ではないようです。

食品工場にはない、もっと大きな要因があることを示唆しています。

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以上、食肉工場での感染の背景、特に食肉加工業について解説しました。

次回は、そうした食肉工場で、なぜ感染が爆発しているのか、原因について迫ります。

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