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美と殺戮のすべて

 実のところ僕は今、無職なんだけど、時間があるので映画館で映画を見てる。例えば『DUNE part2」はpart1が面白かったから、見たのだけど、IMAX。音響が良くて、画面も大きくて良かった。IMAXで何回か映画を見てるけど、画面の大きさと音響の良さなすごいと思う。画質も高いようだが、最近の映画はIMAXでなくても画質が良いから、その点では驚かない。ともかく、『DUNE part2」は没入感があって、すごかった。母親に灼熱の魂を感じて、ゾッとした。ドゥニ・ヴィルヌーヴの『灼熱の魂』とにかくすごいから、見て欲しい。


 画質と言えば『哀れなるものたち』には驚いた。あれポジフィルムで撮ってるんでしょ? 凄まじい高画質で、生々しさもすごかった。派手な色味に見えるけど、デジタルをいじくりまくった、CGみたいな不自然さではなくて、破綻のない感じ。まさにポジフィルムの良さが詰まっている。それを動画である映画の撮影に使うなんて、悪魔的。脚本的にも神に怒られるんじゃないかって、ハラハラと心配になった。ヨルゴス・ランティモス監督作品は、彼自身が脚本を書いている方が好きかもしれない(全作見ていない)。今回の映画はセンセーショナルで露悪的、その露悪にはポジフィルムもまさしく加担しているな。


 最近の見た中でもっとも心を打たれたのは、ナン・ゴールディンの『美と殺戮のすべて』だった。

「シチズンフォー スノーデンの暴露」で第87回アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したローラ・ポイトラス監督が、写真家ナン・ゴールディンの人生とキャリア、そして彼女が医療用麻薬オピオイド蔓延の責任を追及する活動を追ったドキュメンタリー。
ゴールディンは姉の死をきっかけに10代から写真家の道を歩み始め、自分自身や家族、友人のポートレートや、薬物、セクシュアリティなど時代性を反映した作品を生み出してきた。手術時にオピオイド系の鎮痛剤オキシコンチンを投与されて中毒となり生死の境をさまよった彼女は、2017年に支援団体P.A.I.N.を創設。オキシコンチンを販売する製薬会社パーデュー・ファーマ社とそのオーナーである大富豪サックラー家、そしてサックラー家から多額の寄付を受けた芸術界の責任を追及するが……。

https://eiga.com/movie/97623/

 作中でナンの作品がスライドショーで、何度も流れるんだけど、彼女の作品は改めて素晴らしいと感じた。彼女は作品をポジフィルムで撮ってきたんだけど、彼女の作品もまた生々しさに満ちている。写真集や雑誌でしか見てことなかったけど、今回は映画館で、暗闇の中で映写機にて見た。今回の映画で知ったのだけど、彼女の初期作品はスライド上映で制作、発表されていた。今回の映画体験にて、ナンの作品をスライド上映で見れて、すごく良かった。生々しく被写体に肉薄するポジフィルムなんだけど、儚くもそれは次の写真へと切り替わる。痛みは消えたかと思いきや、ポジフィルムに生々しく刻まれてる。ナンは彼らを、傷や痛みなども含めて愛している。センセーショナルだが、露悪的ではない。圧倒的な愛のリアル。彼女の喪失の穴はそこが抜けていて、いくら写真を撮っても満たすことができないのだが、撮らずにはいられない。そして穴の奥底にいる死者の声を、彼女は写真を通して聞くことができるのだと思う。だからこそ彼女は社会活動に踏み切ったし、くじけずに戦い続けることができたのだ。彼女達のデモンストレーションの叫び声から、悲しみの深さを感じた。


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