奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか

ツィッターで流れてきて興味を持ったので読んでみました。
過去に読んだ専門家会議のレポートに比べ読みやすく、また面白く、ほぼ一気読みとなりました。

2020年初頭から(実際には2019年末からですが)の、コロナ対策における専門家たちと政府の苦闘をつづったレポートです。
僕がこれまでに読んだ同様のレポートは、西浦先生や尾身先生等、専門家ご本人が書き記して下さった本ですが、本書はフリーのノンフィクション作家が専門家をはじめ、周囲や周辺情報の取材から書き上げた、より多角的な視点を持った、貴重な「コロナとの死闘」の記録です。
専門家本人によるレポートよりも客観性が期待できそうだな、ということで読んでみた次第。
まずはこのような貴重な記録を1冊にまとめていただけたことに、心より感謝します。

筆者の広野さんは、元は猪瀬直樹事務所のスタッフだったそうで、気鋭の作家であったはずの猪瀬直樹が、ズブズブの腐った政治家に堕落していく様を間近で見た経験(本文から読み取った内容の意訳です)から「清廉に見える専門家が、政治の世界でどのようになるのか」という興味から取材を始めたとのこと。
なんだか俗な理由ですが、本書を読む限りは誠実に事態の推移や取材対象に向かった様が見て取れ、良質なレポートに仕上がっていると思いました。

詳しい内容は読んでもらうとして、読み終えて印象に残ったことをつらつらと感想として並べておきます。

本書に描かれた3年程度の時間、安倍政権、菅政権、岸田政権と政権が目まぐるしく変わりましたが、それぞれを比べてみるに、安倍の方が菅よりは危機感を持ってコロナ対策にあたっていたし、岸田よりは菅の方がまだ計画性があった感じ。岸田は何というか、無責任の権化というか、無責任を濃縮したような対応に終始した印象。政権が変わるごとに、新型コロナに対する政治の対応は劣化していったように読み取りました。

また、終始コロナ対応の足を引っ張ったのも政治家の「無責任体質」「事なかれ主義」と言えるのではと思いました。
今世間を騒がしている、派閥の政治資金パーティー裏金事件で、誰一人政治家本人は責任を取らず、罪を部下や派閥、すでに鬼籍に入った安倍晋三や細田に押し付けて司法の手からも逃れている様子からもわかるとおり、コロナ対策にあたった首相や西村、加藤などの閣僚は、徹頭徹尾「自分が責任をかぶらないためにはどう行動するのがベストか」という行動原理で動いているように見えます。「如何に国民を守るか」というベクトルでは動いていません。

近年多く指摘されていますが、恐らく自民党の政治家は、コロナや能登地震のような災害はもとより、他国から戦争を仕掛けられるといった危急の際にも、容易く国民を見捨て、保身にのみ汗をかく人格揃いであることが読み取れて、陰鬱な気分になりました。まあこれはちょっと脱線です。

話を戻して。
この辺り、前述した専門家本人によるレポート書籍では、どこか政治家・官僚への遠慮・配慮があり(対立はあれども、ともに苦境を戦った同輩という意識があるのでしょうか。もしくは当事者であったことによる遠慮か)、曖昧に書かれていて良く見えなかった部分ですが、第三者である広野さんは、割とバッサリ評価して書いています。おかげでとても分かりやすかったです。
当時の「政治の動き」が、割合多く記録されているので、これまでに読んだコロナ対応レポートよりも、より立体的・俯瞰的に事態の推移を読み取ることができました。
登場する人物の背景なども、理解に十分なテキストが用意されているので、その面でも多角的に見ることが出来ました。

専門家達によるコロナ対応や提言の数々に不満や不信を抱いている人には、僕が過去に読んだ「新型コロナからいのちを守れ」や「1100日間の葛藤」と言った本よりも、この本の方が理解しやすいと思います。

コロナ対応の間、安倍、菅、岸田と言った首相や、与党の閣僚・議員たちが国民をどのように見ていたかは、第六章末尾の「国民はころっと変わる」の項に集約されていると思います。本書全体を読むのが面倒な方は、ここだけでも読んでみたら良いのではと思いました。

終盤では、岸田政権で「コロナ対応の総括」がどのように行われたかに紙幅が割かれています。
ここで、総括に携わった委員として、悪名高い社会学者の古市憲寿の名前が出てきて「うわぁ…」と思ったり。
読み進めると、わずか1カ月という、過去の事例(大体は一年半ぐらいだそうです)と比べても異様に短い「総括」期間の中で、古市憲寿は専門家の粗探しに終始し、政治家の責任をあいまいにする報告をまとめる作業を急ピッチで仕上げています。
田崎史郎同様、古市憲寿って、本当に、自民党政権のポチ、なんだなあと思いました。

コロナ禍はまだ続いていますが(なんせウィルスが死滅したわけでもないので)専門家会議が解散するまでの3年間を一つの区切りと考えるならば、その間を良く記録したレポートだと思いました。
前述のように、時間をかけて、もっとじっくり総括していくと、また違った側面が見えてくるのだろうなとは思いましたが、今の時点で全体を俯瞰するには良く纏まっている一冊でした。

とてもエキサイティングな読書で楽しかったです。お勧め。

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