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O星人

暗黒舞踏のような白塗りスキンヘッドの半裸男が、
目の前に立っている。
両手を後ろ手にして、腰と膝を軽く折り、
やや前のめりの姿勢で、俺を見上げている。

「だんな、作家さんですよね?
一目見りゃあ、わかりますよ」

不意に現れて、不意に声を掛けてきた。
それでいて、違和感のようなものはなかった。

「どなたですか?」

「いやはや、失礼いたしました。
まず名乗るのが礼儀ってもんでしたね。
あたし、オーセージンって者です」

とっさに「O星人」という文字が浮かんだ。
いや、「王成人」とかいう中国系の人かもしれないな…

「オーさんとやら、俺は作家というほどのもんじゃないよ。
楽しい話を必死で考えて、みなさんに喜んでもらう。
言ってみたら、エンターテイナーの端くれさ」

「ってぇことは、あたしと同じことになっちゃいますわね。
ご謙遜、ご謙遜、天孫降臨、そんなこたあ、ナイアガラの滝でしょう。
なんてったって、だんなときたら、オイラなんぞとオーラが違いますわ。
アーティストというか、クリエーターというか、
才能が炸裂して、想像力がほとばしってらっしゃる。
眩しくて眩しくて、あたしなんかにゃ、とても正視できません」

老人のような姿勢の割には、声は若々しく朗々と響く。
見れば顔には皺ひとつない。
白塗りのせいではあるまい。
白塗りはむしろ、皺を際立たせるものだ。

「じゃあ、あたしは、この辺で失礼させていただきます。
これ以上お邪魔をして、売れっ子作家さんの貴重なお時間を無駄にしちゃあ、申しわけありませんから」

そう言い残して、くるりと軽やかに回れ右をした。
そのままぴょんぴょんと、うさぎ跳びのように跳ねて遠ざかって行く。

見れば、後ろ手に腰に回した両手は、
境目もなくつながっているのであった。
輪になっているのだ。

O星人…オーセージン…osejin…あっ、oseji…お世辞だって?

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