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ムーンウォーカー

櫻坂46推しの大統領をマイケル・ジャクソンヲタの総統が追放して、その国はマイケル・ジャクソンヲタの独裁国となった。
国民はムーンウォークで歩かなければならない。
ムーンウォークではない歩行が当局の目に触れたら、その場で連行されてしまう。
本人はムーンウォークしようと努力しているのだが、どうしてもうまくできないというような事案は、収容所送りだ。

僕はそっちの方だった。
身柄を拘束されて、網走の収容所に送られてしまった。
そして、それぞれがワンルームマンションのような、狭いけれども、必要最小限のものが小ぎれいに揃った独房に収容され、毎日マンツーマンで、ムーンウォークの特訓を受ける。
僕の教官はジャネット・ジャクソンそっくりのおばさん、もしくは当の本人だった。

初日。
手取り足取りの指導を受けるが、なかなかうまくいかない…というところで目が覚めた。
夢だったのだ。

といっても、見ながら、聞きながら、演じながら、これは夢なのだとはっきり自覚していた。
だから、夢から覚めたからといって特に、嬉しくも悲しくも残念でもない。
問題は、それから後だった。
毎日毎晩、有無を言わせず、夢の続きを見せられることになったのだ。

ジャネット・ジャクソン先生の厳しい指導が功を奏して、不器用な僕も日々、増しになっていった。
毎晩朝まで何時間も、一カ月ばかり過酷なレッスンを続けると、さすがの僕も息をするように、ムーンウォークできるようになった。
ジャネット・ジャクソン先生のお墨付きももらって、僕は無事釈放された。

翌日からばったり、その夢のシリーズを見ることは無くなった。
単に夢の話であれば、これで一件落着だ。
それだけではもちろん、終わらなかったのだ。

僕はムーンウォークしかできなくなってしまた。
夢の中とはいえ、超一流講師の厳しい特訓をみっちり受けたのだから、当然といえば当然だ。

街中を華麗なムーンウォークで闊歩する怪しい奴を見かけたら、僕だと思ってください。

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