見出し画像

なぜCGIデザイナーがTakramを選んだのか ── ビジネスとクリエイティブの境界を溶かす小林諒の専門性

デザインエンジニアリングに始まり、ビジネスデザイン、ブランディング、デジタルプロダクトなど、Takramのプロジェクトは日々領域を拡張し続けています。その流れに呼応するように多種多彩な専門性を具備したメンバーが集まってきています。昨年、加わったCGIデザイナーの小林諒もそのひとり。Takramでは初となるCGI領域のメンバーである小林は、なぜTakramを選び、そしてどのように専門性を拡張していこうとしているのでしょうか。

Photographs by Akira Yamada
Text by Asuka Kawanabe 

“頭の中の光景を3D空間でかたちにすることに興味をもった”


── 初めてビジュアルデザインの道を志したのはいつでしたか?

初めて映像やグラフィック、デザインに触れたのは中学生のときでした。父親のイベント会社の現場についていって、ケーブルを巻いたりLEDに映す映像をつくったりしていたんです。その影響もあって映像をつくる仕事を志し、高校卒業後は映像を学ぶ学校に進学しました。そこで学んだ映像づくりの感覚は、いまCGをつくる上でも役立っています。その後はポストプロダクション(映像撮影後の作業)を担う会社で3年くらい働きました。当時の上司はオペレーションがとても得意な人で、プロデューサーや監督が何を求めているのかを汲み取って、その場の即興で複数パターンの映像をつくるようなことをしていて。オペレーションが速いと言われることが多いのですが、素早く相手の要求を汲み取る技術は、そのころに培われたような気がします。

── CGIデザイナーに転身したきっかけはなんだったのでしょうか?

ポストプロダクションの会社でCGスタジオとお付き合いがあって、CGIデザイナーという仕事があることを知ったんです。撮影するのではなく、頭の中の光景を3D空間でかたちにすることに興味をもちました。でもいきなりCGに行ったわけではなく、まずは2Dアニメーションを学ぼうと思って、当時流行っていたFlashアニメーションの制作会社に転職したんです。

その後はフリーランスとして独立し、仕事をしながら3DCGを学びました。そのうちインタラクションで連動するビジュアルデザインに興味が出てきて、ワントゥーテンというスタジオに入り、XR領域やデジタルエキシビションのビジュアルデザインを手がけるようになりました。そのころからリサーチとして海外のモーションデザインスタジオが集う「Motion Plus Design」というイベントに足を運んでいましたが、それをきっかけに海外のビジュアルデザインに強い影響を受けました。

昨年、Takramに参画した小林諒は、CGIデザインを起点に新たな領域への拡張を模索しています。

日本の場合は、グラフィックデザイナー出身のアートディレクターがビジュアルのディレクションを行なうことがほとんどですが、Six N. FiveやManvsMachine、Tendrillといった欧米のビジュアルデザインスタジオでは、CGIデザイナー出身のアートディレクターがディレクションを行ないます。アウトプットの毛色からプロセスや時間のかけ方が日本とはまったく異なることを知りました。

手法の良し悪しではなく、後者のスタイルを用いることでグラフィックだけでは表現しきれない手触り感までも伝えることができるはずですし、日本のブランドにも今後、こういったスタイルでのクリエイティブを提供する必要があると感じました。そこから欧米スタイルのパーソナルワークをつくり始めました。

── その後、アルゼンチン出身のクリエイティブディレクター、ナウエル・サルセドさんが東京で立ち上げたOnesal Studioに転職していますよね。

はい。ありがたいことに僕の作品を見て声をかけてくれたことがきっかけで入社しました。Onesalは日本で唯一、欧米スタイルでビジュアルデザインを行なうスタジオです。自分自身もまさかOnesalから声をかけていただるとは思いもしなかったので、興奮冷めやらぬなか入社したのを、いまでもはっきりと覚えています。

Onesalでは、隣のデスクでレンダリングされる圧倒的に繊細なビジュアルに感化される毎日でした。間近にクオリティの高いアウトプットが溢れる環境に身を置けたことと、世界トップレベルのビジュアルやモーションデザイナーといったコラボレーターと仕事ができたことは大きな経験となり、いまの僕のデザインスキルの根源にもなっています。

“ディテールへのこだわりが共感されるポイントになる”


── 現場で学びながら多様なスキルを身に着けてきたと思うのですが、CGIデザイナーとしてのこだわりや哲学はなんですか?

Onesalでも特に磨くようにと教えられたことでもありますが、ディテールにこだわることです。レンダラーやグラフィックボードが進化したおかげで、最近の3DCGのモーションデザインはリアリティ溢れる表現が可能になっています。スパンコールがついたドレスなら、それを動かしたときのシャリシャリという音まで聞こえてくるかのような繊細な表現もできるようになりました。例えば、Jリーグの30周年記念のビジュアル制作のプロジェクトでは、メインビジュアルのJリーグキングの王冠やスパイクのソール部分にちょっと汚れをつけたりしたんです。30年も走ってきたということは、きっと新品の王冠ではないなと思って。そういうこだわりが、共感されるポイントになったりします。

小林がCGIデザインとディレクションを担当したJリーグ30周年のプロジェクト。
30年の歴戦の証を随所に感じられるようにデザインしています。

── モーションを考えるときのインスピレーションは何から得ていますか?

前提として、ものは動くことで時間軸という“情報”が生まれ、止まっているものに比べて情報量は膨大になります。質の高いアウトプットにするためには、動きに付与する情報の量とその優先順位づけが重要になります。僕は「この動きで何を伝えたいのか」を事前に整理し、すべての動きに「なぜこう動くのか」を説明できるようにしています。

その動きについては、コンセプトをメタ的に「見立てる」ことをよくやります。アニミズム的に動かす対象に擬態化させると言うとわかりやすいかもしれません。例えば箱がどういうふうに動いたら元気よく見えるか、どこの角で立ったらアクティブに見えるかといったように、いかにキャラクター性をつくれるかにもこだわっています。その見せ方のヒントは、自然の中にあります。葉っぱの回転の仕方や、風が吹いたときのたわみ方みたいなものとかをCGで再現すると、とてもリアリティを帯びるんです。アニメーションの正確性は自然の中に隠れてるんですよね。

もうひとつは音です。日本語だとディレクションをオノマトペでされることも多いんですよね。例えば、ボールがふわっと膨らむときに、ボッと膨らむのかシューッと膨らむのかによって、表現が変わってきますよね。結果、音と絵はシンクロナイズしています。なので、3DCGでモーションをつくるときも、こういう動きだったらどういう音がするのだろうということは先行して考えています。

“ビジュアルデザイナーがコンセプトづくりから関われる場所”


── Takramに入ろうと思った理由はなんだったのでしょうか?

何かを美しく見せるという機能的なビジュアルデザインを担うだけではなく、ビジネスデザインやコンテクストデザインを手がける人たちと一緒に、世界にインパクトを与えるような仕事をしたいと思ったからです。

Personal Work - TOKYO BUSINESS DESIGN AWARD Prototyping Visual

いまの日本はデザインファームとビジュアルデザインスタジオが機能に応じてわかれていて、デザインファームが「このコンセプトで、かっこよくデザインしてください」と言ってビジュアルデザインスタジオに発注するのが一般的です。でも、この方法だと両者の間にズレが生じることが少なくありません。それが本来の納品物とは別に”ディレクターズカット”という表現になってアウトプットを生んでいるのだと思います。

ディレクターズカットって、クライアントに採用されることはなかったけれど、ビジュアルデザイナーとしてはこっちのほうがよいと思った姿ですよね。けれども、ビジュアルデザイナーがコンセプトづくりから関わることができれば、そうしたズレは生まれず、プロジェクトの解像度や質が上がると思うんです。それができるスタジオは、日本にはTakramしかなかったんですよね。

── コンセプトづくりから関わる、というのは具体的にどういうことでしょうか?

テクノロジーが進化し、リアリスティックかつ繊細な表現ができるようになったおかげで、いまは3DCGをプロトタイピングに使えるようになりました。それができると、言葉だけでなくビジュアルでもプロダクトのストーリーやナラティブを検証できるようになります。ビジュアルがあると、さらに解像度を上げた検討ができるんですよね。また、プロダクトのコンセプトやストーリーのような感覚的なものを共有したいときは、言葉よりも抽象的なもののほうが届きやすいことがあります。それは、ビジュアルが得意としていることでもあるんです。Takramでは0→1でコンテクストやナラティブが必要なプロジェクトが多いので、そうした抽象度の高いビジュアルづくりでも関われると考えています。

Personal Work - Medical×Tech Style frame
Personal Work - Green Transformation Style frame

また、いま日本のプロダクトの動画には商品説明を行なうものが多いのですが、海外の有名スタジオが手がける動画はコンセプトをビジュアルに落とし込んだものが多いんです。そうしたコンセプトを美しくビジュアライズしていくことと、先ほどお話したようなプロトタイピングとしての3DCGが、これからやっていきたい領域です。今後はプロダクトづくりやサービスづくりの領域へCGIデザイナーの役割を拡張していければと思っています。

“ビジュアルデザインの立ち回りを模索していきたい”


── ビジュアルデザイナーがプロジェクトの上流からかかわる進め方は、海外では多いのでしょうか?

Landor & Fitchというエージェンシーが、ビジュアルスタジオであるManvsMachineを買収していたり、ビジュアルドリブンなスタジオとビジネスドリブンなスタジオが融合していたりというような流れが世界各地で起きています。日本ではまだ起きていないけれど、僕がその流れを起こしていきたいです。あと日本はグラフィックデザインドリブンなプロジェクトが多い印象がありますが、海外のようにモーションデザインとか3DCGでそのプロダクトのアブストラクトなイメージをつくってから、そこにグラフィックをのせていく逆パターンのプロジェクトもつくり出してみたいです。

Takramにはカテゴリー・クリエイターであろうみたいな考え方がありますが、そういう意味でも、Takramの内側からビジュアルデザインの輪郭を広げていきたいと思っています。

Takramにはひとつの職種にとどまらない、多様なスキルをもっている不思議な人たちが集まっているので、ここでしかできないプロジェクトがたくさんあります。そこに、特に3DCGでのプロトタイピングが加わるとどんな化学反応が起きるのかは楽しみにしています。

プレイフルをコンセプトに「Kachaka」のCGIやモーションのデザインを手がけました。

── 例えば3DCGを起点にしたコンセプトメイキングとか、ストラテジーを起点にした3DCGを強みにできるといいですよね。

そうですね。あと、Takramには好奇心旺盛な人たちが多いですよね。僕自身もプロダクトデザインやビジネスデザインに興味があって、個人的にビジネスデザインアワードに応募したこともあります。Takramではデザイナーでありながらビジネス面のリテラシーを伸ばせていけることも魅力ですし、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)やブランド名を考える上流過程からプロジェクトに参加できるという魅力もあるので、今後もその過程でのビジュアルデザインの立ち回りを模索していきたいと考えています。

── 上流からワンストップでプロジェクトに取り組めるチームができると、Takramの輪郭がさらに拡張しそうですね。

そのためにも、いまは本当に仲間が欲しいですね。日本で3DCGに関わっているデザイナーは、エンターテインメントの分野の人が多いんです。そのなかにも優秀な人がたくさんいるので「ものをつくるためのものづくり」とか「0→1領域のものづくり」といった話に共感してくれる人が来てくれるといいなと思っています。Takramには0→1、さらには1→100まで手がけることができる環境や可能性があるから。

TakramではCGIデザイナーをはじめ、さまざまなポジションで一緒に働く仲間を募集しています。ご興味のある方は、ぜひCareersページをのぞいてみてください。

小林 諒|Ryo Kobayashi
ビジネスとクリエイティブの境界を溶かすビジュアルデザイナー / モーションデザイナー。2020年~22年、Onesal Studioでクリエイティブディレクターのナウエル・サルセドに師事。CGIを駆使したビジュアルデザインとモーションデザインの領域で活躍する。ポストプロダクションやウェブプロダクション、デジタルエージェンシーでの経験値を活かし、映像領域全般及びリアルタイムグラフィクス領域のビジュアルデザイン等を手がける。また、プロダクト、ビジネスデザインのリテラシーを高め、さまざまなアワードを通して活動領域を広めつつある。22年よりTakramに参画。「KOKUYO DESIGN AWARD 2021 」準グランプリ、「TOKYO BUSINESS DESIGN AWARD 2021」 準グランプリ、「ADFEST2021」Film Craft: Silver / DigitalCraft: Bronze、「CANNES LIONS 2017」Bronze等を受賞。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?