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権力と権限の境目

僕の職業は舞台監督です。
舞台や劇場内を統括し、指示系統を握り、基本的には場内の全ての情報を把握し、円滑に公演を行う為に適切な指示を出す役割です。

舞台監督は公演に於ける多くの権限を持ちます。
例えば公演の中断、演出の可否、公演の時間コントロールなど、細かいことは数え上げれば枚挙に暇がない。

大きく言うと、安全に公演を進ませる為の全ての責任を握っているといっても過言ではありません。最終的な判断は多くの情報から総合的、合理的に考えてどうするか、です。

舞台監督が一言「中断!!」というと、公演はストップさせられます。それが災害かもしれないし、何かしらのトラブルかもしれません。

近年は自分にオファーの来た公演のスタッフ人選も任されたりします。やはり制作サイド、プロデューサーサイドからみて舞台監督は総合的判断を下してくれる役割だからです。

しかし

権限を持つのと権力を持つのは全然違います。

ここを間違えると目も当てられない舞台監督が誕生してしまいます。権限を持つなんてのは舞台監督とはいえ、所詮与えられている側です。

上述した、舞台監督は公演を中断する権限は持っていますが、中止する権利は持っていません。

公演中止は払い戻しやチケット振替など金銭に関わるので、これはプロデューサーがその決定権を持ちます。

だから舞台監督は別に偉くはない。

でも、立派であるべきセクションなのです。


自分が立派かは自身ではわからないけど、それは周りが判断してくれるものでしょう。

話しはガラッと変わりますが、先日漫才劇場でとあるコント師が暗転中に2mくらいの脚立に跨るという演出を考えていました。

リハで舞台監督の権限として、その演出は許可しない。と伝えてやり方を変えてもらいました。

しかし本人達は釈然としていませんでした。
ボソッと「◯◯の劇場ではOKやったのになぁ」と話していました。

製品評価技術基盤機構が出している脚立使用に
「脚立に跨るのは禁止」とハッキリ明記されています。この声明は厚生労働省からも発せられています。

要は天場に跨ったり乗ったりすると、バランスを崩した時に掴まる場所がなく、高所から落下して重症以上のリスクが高いので禁止しているのです。

僕はそれを知っているので、権限として許可しませんでしたが、それを知らない◯◯劇場の舞台監督は何となくその演出を許可していたのでしょう。

仮にその演出を許可する場合は、そこから落下しても絶対に安全である対策が取れればOKです。

例えば下にマットを敷くとか、ヘルメットや身体にガードを着用するなど、それを対策していて初めて許可出来る話です。最もそれではコントの世界観が崩壊しますが…。


安易に危険演出を許可して、その上でもし出演者が怪我した場合、舞台監督は責任を取らされます。対策が不十分であれば書類送検されて、自身の立場を追われるでしょう。

その劇場は他社の舞台監督が運営しているので直接指導する訳にもいかないし、それぞれの会社のスタンスもあるし、その現場に僕自身が居たわけではないから、完全に一刀両断することはしませんが

舞台監督の定義としてはやはりガイドラインに忠実に、我々が持つ権限は最大限使用して、例え出演者がベテランだとしても、ダメなものはダメだと明確にして、安全に公演を進めるのが舞台の正義だと伝えたい。

キャリアこそ違えど同じ道の他社の後輩に、この文章を読んで貰えたらありがたいし、共に安全な公演作りに邁進したいと思う所存です。

最後になりましたが7月から漫才劇場が軸足になり、舞台監督のチーフになりました。上記に自分で書いた権限と権力の違いをちゃんと認識して、正しい劇場作り、組織作りをしていこうと思います!

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