【ヘミングウェイ】Cat in the Rainから考えたことを綴る。
note実質初投稿は、最近マイブームのヘミングウェイの小説です。
題名は"Cat in the Rain."
英語で書かれた題名を日本語に訳すことで、英語にしか出せない味わいや感覚が失われてしまうことを恐れずに訳すと「雨の中の猫」になるだろうか。
私がこの小説に出会ったのは、倉林先生の著書である「ヘミングウェイで学ぶ英文法」の第一章。つまり、ヘミングウェイの世界への入り口としてこの作品に出会った。
ヘミングウェイの作品に潜む日本らしさ
代表作である「老人と海」と同様に平易な文体と平易な語彙で書かれてるが故に、行間から何を読み取り、どう解釈するかが読み手に委ねられている部分が、読者一人一人のCat in the Rain像を作ることができる楽しみをくれているような気がする。
ただこう言った文体、書き方は英語では珍しいのではないだろうか。
下記に示すように、英語はローテクストな言語・文化に属し、曖昧さをできる限りは排除したassertiveな表現が好まれる。
しかしヘミングウェイの小説、例えばCat in the Rainにおいて言えば、
登場人物の男女について多くは語られれないし、猫についても多くは語られない。
猫の存在が物語においてどのような意味を持つのか。二人の男女のなんとなくギクシャクした雰囲気は一体何を伝えているのか。この解釈は読者に委ねられている。
この点では、ヘミングウェイの小説はいささか日本的であり、ハイテクストな文化よりの小説のように思える。それは、物語の全体像の1/8程度しか明示しない、物語の氷山の一角だけをあえて見せることで、残りの部分を想像させる余地を与えているのである。
海外の小説を日本語に翻訳するということ
大学で言語学をまがいなりにも勉強したものとして、「翻訳」という行為の難しさを考えずにはいられない。
言語間の横断において、どうしても失われてしまうもの、付け加えなければいけないものがある。
例えば、I love you =あなたを愛しています
という原文と訳文が一対一で対応しているなんてことはなく、
コンテクストによっては「君のことが大好きだ」になるかもしれないし、
「愛してるんだよ」かもしれないし「月が綺麗ですね」かもしれない。
登場人物や場面設定、日本語における2人称代名詞の使い分けや意義など様々な要素を総合的に判断して、"もっともらしい"訳文を当てることはできても、
一つの正解を導くことはできないのではないか。
他言語で描かれた文章を翻訳するということは、
翻訳元となる作者の文化的背景、物語における前提、翻訳先の言語における語彙の適格性などをできるだけ損なわずに
翻訳の等価性を常に意識しながら、丁寧に再現していくことのように思える。
翻訳版と日本語訳
以下私なりの考察ですので、簡単に本文を理解した上で読んでいただけると嬉しいです。
最後の猫はなんなのか?
最後のワンシーンで、メイドが支配人の指示で猫を抱えてやってきます。
この猫は " a big tortoise-shell cat"=大きな三毛猫
であることは明示されています。
そこで三毛猫について調べてみると、三毛猫は雄の割合が著しく小さく、1/30000の確率でしか生まれないことがわかります。これは染色体の組み合わせによって決まっているものですが多くは触れないでおきましょう。
ではどうしてヘミングウェイはあえてこの場面で「三毛猫」を選択したのでしょうか?
またbigという形容詞は何を意図しているのでしょうか?
女性が求めている猫にsheやherを使っていることからわかるように、本文中で出てきた猫は、少なくとも女性の視点からは雌猫に感じられたはずです。
最後の段落で不定冠詞のaを使用し、あえて三毛猫を選択し、bigという形容詞を添えたのは、他でもなくこの猫が女性が求めていた猫ではない、雄の三毛猫であったことを暗示しているのではないでしょうか?
さらに雄の三毛猫には「生殖機能を持たない」という特徴があります。
支配人に出会った女性の描写です。
彼女の"内側"には、何かがとても小さくて締め付けられるように感じられています。それは大切なものだとも描写されています。
このとき彼女はその存在を一瞬ですが感じています。
そう、一瞬です。
支配人に出会ったときに"一瞬だけ"小さく大切なものを体の内部に感じた女性は、小さな雌猫が欲しいと少女のように何度も男性に依頼していました。
彼女は子供が欲しかったのではないでしょうか?なんらかの理由でそれが叶わない彼女は、少女のように駄々をこねてみたり、猫が欲しいと言って男性を困らせていたのではないでしょうか?その気持ちを和らげてくれているのが支配人なのではないでしょうか?
そしてその理由は「生殖機能を持たないこと=不妊」なのではないでしょうか?
他でもなく、最後の段落で登場する"a big tortoise-shell cat"がそれを暗示しているのではないでしょうか?
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?