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原稿用紙1枚小説「劇場にて」

 その映画はどこまでも陰鬱で、私は招待券を握り締めながら興ざめしていた。最後の銃声が鳴り視線を戻すと、スクリーンにはエンドロールが流れ始めていた。
 私が美優を映画に誘ったのは、一週間前のことだった。同じ大学のサークルで本の趣味が合ったことから、親しい中に発展していった。幸い、彼女は誘いに乗ってくれた。しかし映画の趣味は意外だった。
「どんなのが観たい?」
 はしゃいで聞く私に美優はこう言った。
「K監督の最新作!」
 巨匠、K監督は暴力描写をアート風に撮り国際映画祭を何度も受賞している。早い話、デート向きの映画を作ってくれない監督だ。
「面白かったね!」
 美優はギャングの復讐劇に至極満足したようだ。私は曖昧に頷く。でも、「女の子らしさ」を彼女に求めたくない。女性を愛する女性としての私が、そう言う。

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