いた

小説などを読んで、気に入ったところがあったら書き留めています。

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最近の記事

野口悠紀雄著「超整理法」より

 2割を制するものは8割を制す : パレートの法則 講義やゼミナールでの学生の質問ぶりをみていると、すべての学生が同じように発言しているわけではないことに気がつく。よく質問する学生は決まっていて、全体の2割くらいである。そして彼らの質問が全体の8割を占める。「世の中の現象は一様に分布しているのではなく、偏った分布をしている」。これは、所得分布に関して、イタリアの経済学者パレートが100年ほど前に発見した法則である。つまり、2割の人々の所得で、社会全体の8割程度を占めるのであ

    • 「日本病」より、失われた二十年から歴史転換点へ

       筆者ら(金子勝 児玉龍彦)は二〇〇四年に岩波新書『逆システム学』において、市場や生命が制御の束であることを明らかにし、数値目標による成果主義が、かえって市場や生命の問題を悪化させると延べた。規制緩和の名の下に、制御系を解体することで経済成長をめざそうとすることが、制御系の機能不全から逆に長期停滞を生み出すと予想した。不幸なことにその予想は「失われた二〇年」という形で的中した。 しかし、今日の日本は、「長期停滞」というレベルを超えて「長期衰退」の道に入ろうとしている。かつて長

      • 「大夫殿坂」より

        あの日、宵の口には客がすくなく、庸蔵と風呂に入ったときは、浴室のなかにたれもいなかった。「背中、こすりまほ」とよくしぼった手拭で庸蔵の背中を擦っているとき、例によって庸蔵は後ろ手に手をまわして小磯にたわむれてかかり、 「小磯、玉出の滝」あい、と小磯は痴れ痴れと笑いながら庸蔵の肩に自分の股倉をつけ、ぬるぬると流しはじめたが、不意に湯気のむこうから、「おい」と声がしたかと思うと、湯桶一ぱいの熱湯を庸蔵の横びんにかけた者があった。庸蔵はとっさのことにカッとなり、「なにをする」「それ

        • 「八咫烏」より

          八咫烏(やたがらす)は、口下手だから、黙っている。一言主が、手ぶりをまぜて納得のゆくように話した。処遇条件も語った。 「それで、どうです」「よい」 拍子抜けするほど、あっさりと天鈿女命(あまのうずめのみこと)はひきうけてしまった。 「もうひとつ頼みがある。それに付随して」 一言主は、天鈿女命の顔色を読みつつ、 「あなたの憑き神も頂戴したい」 「当然なことである。巫女がゆけば憑き神もゆく。巫女と憑き神は一体である」 巫女は、それぞれ、自分なりの憑き神をもっていた。樹の霊の場合も

        野口悠紀雄著「超整理法」より

          「抗生物質の効かない日本経済」より

          強い抗生物質の耐性菌ほど大きい問題を起こす バンコマイシンは耐性菌ができにくいといわれたが、やはりバンコマイシンに耐性を持つ菌が生まれてきた。今、病院ではバンコマイシンはなるべく使用せず、MRSAなどが院内で広がった時に限って注意深く使用しようとしている。それはバンコマイシン耐性菌が広がるし、本当に手の打ちようがなくなってしまうからだ。 実は、われわれの体の中に入り込む病原菌はあまり毒性が強くない場合が多い。そこに強い抗生剤を次々に打ち込むと、耐性菌が選ばれて残ってくる。感染

          「抗生物質の効かない日本経済」より

          「ホームレス・マネー」に翻弄される世界、より

          これからの世界経済を考えるうえで、絶対に無視できない存在がある。「ホームレス・マネー」がそれだ。 ホームレス・マネーとは、投資先を探して世界をさまよっている、不要不急で無責任極まりないお金のことだ。その額は、最盛期には約6千兆円にも上がったが、リーマンショックで各国の株式市場が軒並み暴落し半減。現在は約四千兆円にまで回復している。この巨大なホームレスマネーが姿を現したのは、今世紀に入ってからであり、それ以前にこれほどの過剰流動性を人類が経験したことはもちろんない。 過剰流動性

          「ホームレス・マネー」に翻弄される世界、より

          「残り物に福があったロシア」より

          ソ連崩壊後、旧共産圏はバラバラになり、ロシアは「張り子の虎」といわれた。さらには、リーマンショックのあと、ほかの新興国にくらべて立ちなおりが遅かったが、よく見るとまだ、そこにはいいものがたくさんある。たとえばエンジニア。アメリカの航空機メーカー、ボーイング社は、ソ連が崩壊するや、スホーイやツポレフなどからすぐさま元社員を三千人ほど雇い、彼らに航空機の設計をさせている。いま同社がロシアで機体などの設計を担当させているエンジニアの数は、アメリカ国内とほぼ同じだ。半導体メーカーのイ

          「残り物に福があったロシア」より

          「酔って候」より

          維新後は、官を辞し、ひたすらに飲み、連日、新橋、柳橋、両国の酒楼に出没して豪遊し、ついに家産がかたむきかけたが、「むかしから大名が倒産したためしがない。おれが先鞭(せんべん)をつけてやろう」と豪語して、家令の諫めをきかなかった。 詩がある。 蛇足だが、つけくわえたくなった。 昨は橋南に飲み、今日は橋北に酔ふ 酒有り、飲むべし、吾酔ふべし 層桜傑閣、橋側にあり 家郷万里、南洋に面す 眦(まなじり)を決すれば、空闊、碧茫々(そらぼうぼう) 唯見る、怒涛の巌腹に触るるを 壮観却って

          「酔って候」より

          「東京のプリンスたち」より

          渡辺の二階へ上ると、プレヤーの上にレコードがかかったまま止まっていた。スイッチを入れると、廻りだしてエルヴィスの「レットミー」だった。「今朝、出かける時、あわてて止めたままだった」と言って渡辺は机に向かって万年筆の掃除をはじめた。山崎は片手で鏡を持ち上げて髪をとかしながら聞いていた。 正夫は寝ころんで本棚へ手を伸ばした。一冊ひっぱり出したら「原子爆弾ノ実験ト実在」という本だった。エルヴィスの唄を聞きながら読むのだから、読むものなら何でもよかった。聞いたところから読み始めた。‥

          「東京のプリンスたち」より

          「雪すだれ」より

          七つ浜に来てからそろそろ三月(みつき)、海の色にも風にも春の兆しがあった。あの後、吉兵衛にもこれといった剣呑な動きはなかった。急場に駆り集めた無頼どもは、新しい餌を求めて放って言ったらしい。 岬の館にも変わった動きはないが、どういうつもりか伊織は館に留まっているらしかった。 春を迎えて漁師の仕事は忙しくなる。城下にもどる踏ん切りがつかずにうろうろしてる玄太に、三吉は弱った顔をしていた。 納屋から定置網を引き出すのを手伝おうとした玄太に、三吉は怒った顔をした。 「浦辺さま」 三

          「雪すだれ」より