ウインブルドン 2023)男子シングルス決勝

男子シングルスの決勝。ライブで観戦しましたけど本当に面白かった。
近年稀に見る、まさに手に汗握る名勝負でしたが結果はフルセットの末、アルカラスが初優勝!

僕も、世間の予想もジョコビッチ有利なものがほとんどだったと思うのですが、その大方の予想を見事に覆してアルカラスが初優勝するとは!
僕は心情的にはアルカラスを応援してましたけど、いやー、でもまさか本当に最後まで本当に優勝するなんて思えなくてハラハラドキドキしっぱなし!
だってあのジョコビッチですよ。フェデラー相手にマッチポイントを2つ握られて、そこから逆転優勝しちゃうような絶対王者相手に、何が起きるかなんて本当にマッチポイントを決めるまで思えるわけがない!

試合後の準優勝者のスピーチでジョコビッチは、
「クレーやハードで君に苦戦させられる覚悟はしていたけど、まさか芝で負けるとは思わなかったよ」
…と素直にアルカラスを称賛。その堂々としたスピーチの最後で、観戦していた息子さんの姿を見たときに悔し涙を流す姿にはこちらも涙を誘われました…。

その後のアルカラスのスピーチでは、
「僕が生まれた頃、あなたはもうツアーの中で戦っていた。僕が小さな頃テレビでいつもあなたの事を観ていた。そんなあなたと対戦できること自体が素晴らしいと思うし、こんなフレッシュな36歳なんて信じられない。まるで26歳みたいだ」
…とこちらもジョコビッチに対して最大限のリスペクトを表明して感謝の言葉を述べました。心温まるような、素晴らしい閉会式。あー、本当にいい試合だったなぁ、と感慨に浸ることしばし。

◆    ◇    ◆

この試合で僕が感じたポイントは以下の2つ。試合における需要な局面ははいくつかあったけど、そうじゃなくて技術的・戦術的な事ですね。

1)アルカラスが芝のコートでの処理の仕方に目覚めたこと
2)ジョコビッチのカウンターをアルカラスが予測し始めたこと

1つ目のポイントはめっちゃ地味だったので、あんまり記憶に残っている方は少ないのかも。それは第二セット3-3ぐらいの場面で訪れました。
第一セットをあっという間の30分ほどでジョコビッチが奪い、セカンドセットはアルカラスが引き離されないように必至にジョコビッチについていく展開。アルカラスは彼の最大の武器であるフォアの強打が思うように出せず、ラリーの主導権を常にジョコビッチに握られたまま必至に走り回ってなんとかキープを続けている状況。スコア的にはイーブンでしたが、第一セットをジョコビッチがとっていますし、思うような展開に持ち込めず精神的にはアルカラスがかなり不利な状況。。

そんな中(おそらく偶然なのですが)アルカラスがそれまでやってことのないような不思議なタイミングで打ったボールに、ジョコビッチがちょっと驚いたような気が僕はしたのですね。

ラリーの中でジョコビッチのボールが深く滑るように入ってきて、アルカラスはフォアで回り込もうとしたのですが、うまくボールとの距離をとりきれず差し込まれながらもなんとか返球します。決して足をふんばって全身のパワーを込めて打ったわけではなく、回り込む動きをしながら仕方なく軽く合わせるような返球をしたのですが、そのボールが以外な伸びを見せ、ジョコビッチのコート深くに入ります。一見すると簡単なボールのように思える地味なショットなのですがジョコビッチは、

「あれ? なんだ今のは?」

…というような雰囲気で少し慌てたような素振りを見せ、そのポイントを落としました。
完全に僕の想像ですけど、このボールでアルカラスは「あ、こう言う感じで打つとこうなるんだ」というグラスコートでのボールの処理の仕方を一つ見つけたんじゃないかと思ったんですね。。クレーみたいにいつも踏ん張らなくても良いのかも、って。

例えばマレーが素早く走りながらコンパクトなスイングでパパンと合わせながら鋭いボールを打つことがあるように。
例えばフェデラーが振り遅れにしか見えないような場面で、まるでハーフボレーのようなタイミングでアングルショットで逆襲することがあるように。

そしてこの場面から、アルカラスは強引なフォアの強打をしなくなります。クレーコートで本来のフルパワー100%のフォアと比較すると本人の出力は80%ぐらいかと思いますがそれでも球足の速いグラスコートでは十分過ぎるほどのスピードとなって相手を追い込める。そしてそのボールを使ってジョコビッチを左右に揺さぶり始めます。アルカラスの上半身にリラックスした雰囲気が出始め、ラクに打つ分、次のボールへの対応も早くなる。そうするとまた次に良いコースにボールを打つことができるようになる。

このあたりからジョコビッチに対してアルカラスは互角のラリーをするようになり、戦術を考える余裕が出始めるのです。

◆    ◇    ◆

2つ目のポイントは、ジョコビッチのカウンターがほとんどクロスにしか来ないと気づいたことですね。
全仏でもそうでしたが、アルカラスが全力のフォアをクロスコートに打ち込んで追い込んだ時、ジョコビッチはそれ以上の角度をつけてカウンターを放ち逆襲してポイントを奪い返すことが度々あり、それに驚いたアカラスの精神的なショック・緊張感が全身痙攣の一つの要因だったのではないかと思います。

ですがこの日のアルカラスは前述のように第二セット中盤からリラックスしたショットを打つようになりました。無理な強打をしていない分、次のショットに対する準備を速く整えることが出来ますし、そしてジョコビッチのカウンターに対してクロスのボールが来ると途中から完全に予測して、そこで待ち構えているようになりました。

そして今度は逆サイドにフォアのストレートを叩き込み、更に追い詰める。ネットで仕留める展開が出てきました。

「こうすれば大丈夫だ」

…という精神的な安心感はウインブルドンの、初の決勝戦という緊張せざるを得ない大舞台では大きなアドバンテージになったのではないでしょうか。

◆    ◇    ◆

僕が試合の流れを決めたと思うポイントはこの2つ。

言葉にしてしまうと簡単なことのように思えるかもしれないけれど、でもそれを実行するにはまずジョコビッチのあのハイレベルのサーブを打ち返し、ストロークの揺さぶりについていけるだけのフィジカルと技術が必要。それに持ちこたえて初めて戦術を考えることができるのですし、あの高い技術を持つシナーでさえ全くそれが出来ずにストレートで敗退しています。

しかしアルカラスが有利に思われたのもつかの間。さすがのジョコビッチはここから逆襲を開始します。
セットカウントで先行し気持ちが楽になったことで、ほんの少し油断したようなアルカラスの一瞬の隙をついてジョコビッチが先にブレイク。第四セットはジョコビッチがまた奪い返して勝負はファイナルセットへもつれ込みます。

何度も絶体絶命の崖っぷちから奇跡の逆転劇をみせてきたジョコビッチです。
もしかしたら逆転優勝もあるのかも…そんな雰囲気も漂う中、先にジョコビッチがアルカラスのサーブをブレイクするチャンスを掴むのですが、そこで見せたアルカラスのディフェンス力と言ったら…もうものすごかった。

ジョコビッチはまるで自分と対戦しているような気持ちになったんじゃないでしょうか。どこに打っても必ず返球してくる。しかも返すだけではなく、追い込まれた場面からもしっかり力のあるボールが返ってくる。特にバックハンドで大きく足を開きながらスライドし(グラスコートでですよ!)ライジングで返球する能力なんて、アルカラスはいつの間に身につけたんだろうって僕はこの時に思いました。あれはジョコビッチだけの専売特許だったはずなのに!

そのピンチをしのいだアルカラスは、後は勝利まで一直線でした。
伸び伸びとしたプレイを続け、絶対王者と思われたジョコビッチを破って、ウインブルドン初優勝!!!!!

いやー、こんなドラマチックな展開ってありますか!?

全仏ではアルカラスが優勝の大本命と思われていた中、ジョコビッチに良いところなく負けてしまった。その1ヶ月半後。ジョコビッチの独壇場と思われたウインブルドンでこんな鮮やかなリベンジを果たしてしまうとは!!!

試合に負けた直後の握手でもジョコビッチは立派でした。
アルカラスと笑顔で握手を交わし、称賛の言葉をかける。そんなプレイヤーはジョコビッチ以外には僕は知りません。普通は負けた悔しさで腸が煮えくり返っているか、地の底まで落ち込んだような気持ちになって相手を思いやるような事は出来ないものです。あらっぽい態度や過激な言動で批判される事も多いジョコビッチですが、こう言う人格的な素晴らしさも知って欲しいと思います。

とにかく今年のウインブルドンの男子シングルスは面白かった。
ビッグ4のうちフェデラーは引退。ナダルも来年の全仏を最後に引退するような事を言っています。マレーは復帰したものの以前のポジションに戻ってくるのはどうやら難しそう…名選手達が第一線を退き始める中、ウインブルドンの新しい王者となったアルカラスには「新時代」の訪れを確かに感じさせるものがありました。
ベスト8になったルーネ、そしてベスト4まで上がってきたシナーも含め、きっと新しい世代のプレイヤー達が新時代のライバル関係を築いていくでしょう。

そしてその若手の挑戦を、現役でありながら既にレジェンドでもあるジョコビッチがどう受け止めていくのか。

そして8月の末には全米オープンが始まります。
全仏を制したジョコビッチと、全英を制したアルカラスの決勝を想像するだけで、期待に胸が膨らみませんか?

後一ヶ月ちょっとですよ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?