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「わからない」ことの魅力〜古代メキシコ展に行ってきた(エッセイ)


こんにちは、とらつぐみです。

先日、国立国際美術館で開催中の特別展「古代メキシコ」に行ってきました。


なんかいい感じに陽がさしてた入り口のパネル


↑公式サイト。写真撮影可(個人利用のみ、SNS可)とのことなのでちらほら展示品の写真が現れます。

古代メキシコ展は東京会場で開催されていたとき話題になっていたので楽しみにしていましたが、実際行ってみて、結論からいうととてもよかったです。

古代メキシコ、と言っても馴染みがない人が多いと思います。

とらつぐみは高校は世界史選択だったのでテオティワカン、マヤ、アステカと聞いて「名前は知ってるかな……」という感じのリアクションでした。

それぐらいの前提知識で行っても十分面白いので、もし馴染みがないというので行くのを躊躇っている人がいれば、是非行った方がいい、という感じの内容です。

今回はそんな古代メキシコ展について感想を綴っていきたいと思います。まだ行ってない人も、既に行っていて他人の感想に飢えている人にも読んでいただければと思います。

https://mexico2023.exhibit.jp/assets/pdf/junior-guide_osaka.pdf

↑公式サイトにあったジュニアガイド。展示のキーワードも網羅していて大人でもわかりやすいです。このほか公式サイトの内容も参考にしています。

↑各文明の概略など歴史的な話は世界史の窓がわかりやすいのでそちらを見てください。テオティワカン文明のピラミッドの写真もある。



生と死と祈り


この展覧会はタイトルの通りメキシコにかつて存在した文明のうち、テオティワカン・マヤ・アステカをメインとしたものです。

テオティワカン文明はメキシコ高原に前2-後7世紀頃、マヤ文明は4-6世紀にユカタン半島に成立したので時期が被っていて、両文明の交流(というか争っていた?)の痕跡もあります。

また、アステカ文明は少し時間の経った15世紀頃成立ですが、テオティワカン文明と同じメキシコ高原が拠点だったという共通点があります。

そうした地理的・時代的な共通点以外で、特に目を引く共通点とすれば生贄を重要視していた、という点でしょうか。なのでこの展覧会、めちゃくちゃ生贄の話が出てきます。

生贄の皮を剥ぐ儀礼用ナイフ、供物(生贄の心臓を含む)など、神に生贄を捧げるための道具、宗教的儀式に関連する遺物が多く展示されています。


儀礼用ナイフ。生贄の皮を剥ぐ用。
マヤの祭礼に使われたもの。中央の窪みに供物(作物や生贄の心臓)を載せる。


道具以外にも、土器に捕虜から心臓を取り出してる図が書かれていたり、綺麗な金のペンダントのモチーフが心臓になっていたりと、油断できません。


人の心臓形ペンダント(サイズ感比較のためパネルも映しています)


生贄を捧げる文化は世界各地にあったのでこの3文明の特徴と言い切るのは違うかもしれませんが、メキシコの古代文明の「生贄文化」はかなりユニークではないでしょうか。

例えば王墓に生贄を捧げる、というのは様々な地域で聞く話ですが、「王族関係者など身分の高い生贄のみ胡座が許される」というしきたりは聞いたことがありません。敬意の払い方が独特すぎる


テオティワカン文明はピラミッドの建造が有名で、マヤやアステカにも高度な暦法があるのは有名ですが、どうやら天体の動きーー太陽や星が昇る・沈むことと、生と死が結びついて考えられていたようです。

ポスタービジュアルになっていた死のディスクはピラミッドの頂点付近に飾られ、日没=死を表していた。


アステカの神話の神の中にも「死を司る」一方で「生命の再生を司る」とされた神がいるなど、生と死は巡るという思想があって、生贄(や生贄の心臓)はその「生」の象徴とされたのだろうか、などと感じました。

「古代文明」とは何だろう


ここまで色々書いては来ましたが、「生贄だなんて野蛮」という感想を抱く人もいると思います。

「生命そのものを捧げる」というのは野蛮で原始的に見えるかもしれませんが、それは日常生活から「死」を遠ざけている現代の私たちの価値観からすれば、ということです。

そもそも、ではありますが、これらの文明を原始の古代文明、というのも近代から観た価値観だということは留保する必要があります。

テオティワカン・マヤは広い領土を持った一つの国があったというよりは都市国家(の集合体)で、いわゆる近代的な国家とは違うのは事実です。

しかし、ピラミッドをいくつも作り整然と都市を整備したテオティワカン、暦法やマヤ文字などの文化があったマヤを見ると「原始の、未開の」という形容詞をつけるのはためらわれます。

レリーフ上部3箇所にマヤ文字が書かれている。模様みたいで美しい。


↓マヤ文字についての書籍もいくつか出ている。図書館などでも読めてやさしそうなのはこのあたりかな。


また、アステカ文明の遺物の中には、テオティワカン文明の遺物を掘り起こし新たなパーツを加えていたものがあります。

アステカ文明はそもそも比較的近年の成立ですが、文化を「掘り起こし」「発見」するというのは近世や近代でもよく見られた行為です。

仮面はテオティワカン、耳飾りはアステカ時代


「謎に包まれた古代の文明」と紹介した方が(客引き的にも)いいのかもしれませんが、どちらかというと「かつてあった、ユニークで高度な文化」と捉えてみた方が面白いのではと思いました。


わからない」けど、「わかる」魅力


しかし実際、古代メキシコの国々に対して馴染みがないので「謎の文明」と言いたくなるのも事実です。

というかマヤやアステカの神々、名前が難しくて全然覚えられない。「この壺はミクトランテクトリの姿を模していて〜」と言われても「何て???」となる。

でも、色鮮やかな彩文土器や翡翠などでできた遺物の数々、見事なアクセサリーをつけたマヤの「赤の女王」(墓が赤い辰砂で覆われた、マヤの王妃の墓)などは、驚くほど高度な文化や思想、人々の営みが確かにあったと教えてくれます。

アステカの雨の神、トラロクの壺。色鮮やかな彩色土器。


このアヒルのデザイン、めちゃクール

そしてその気づきは「馴染みがないからわからない」「自分たちの文化と違うから異物/野蛮」という考えから自由になるヒントになりうるかもしれません。

最初は「難しいな...…」と首を捻りながら観ていた私も、いつのまにか古代メキシコに魅了されてしまい、ショップでマヤ文字のハンコやケツァルコアトルのペンポーチを買ってしまいました。恐るべし古代メキシコ。


羽毛が生えた蛇神ケツアルコアトルのペンポーチ。ふわふわでかわいい。


「わからない」が「もっと知りたい」に変わる、知的好奇心を刺激する内容なので、まだの人は是非行ってみてはいかがでしょうか。

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博物館に行く前と行った後に映画を観たのでめちゃくちゃ目が疲れました。いまだに目がチカチカする(とらつぐみ・鵺)