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創作のアンテナを磨く”野鳥観察”(エッセイ)

野鳥観察=バードウォッチングとは、その名の通り山野や河川などで野鳥を観察する活動のこと。

双眼鏡片手に山や海に繰り出すアウトドアのイメージが強いが、庭に来る小鳥や、街中のハトやカラスを観察するのも立派なバードウォッチングだ。

私は、大学3年まで文芸サークルで小説を書く傍ら、野鳥観察サークルにも参加していて、現在も近所にフラリと散歩に出かけては常に野鳥を探している。

ちょっと前までは「動物は好きだけど野鳥はあんまり」という感じだった私が、野鳥観察にハマった経緯と、ハマってみて感じた自分自身の変化や気づきについて綴る。

これを機に、創作活動をする人を始め、より多くの人に野鳥観察の良さを知ってもらえたら嬉しい。


野鳥との出会い


私が野鳥観察にハマったきっかけは高校3年の頃、センター試験も終えた2月始めの、ある昼下がり。

学校から帰宅すると、庭の生垣の根本でガサガサと何かがうごめいていた。節分のとき庭にまいた豆をハトがつついているのかと思い、木の根本に目を凝らした。

そこにいたのは、もふもふした羽にいかつい模様の小鳥――ツグミだった。

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かわいい。

ツグミはハトなどに比べて警戒心が強く、近づきすぎると逃げてしまう。

地面を覆う落ち葉を嘴でひっくり返しては、ピンと背筋を伸ばしあたりを見わたす。つついては背筋を伸ばし、一歩進んでは背筋を伸ばす。

「だるまさんがころんだ」にも喩えられる、特徴的な動きだ。

かわいい。

私はそれ以来、家の庭にやって来る鳥を観察しては、図鑑で名前を調べるようになった。

それでは飽き足らず、高校の近くにあった公園を散歩して鳥を探すようになった。地元はそこそこの田舎だから、探そうと思えばいくらでも鳥はいた。

シジュウカラ、エナガ、コゲラ(キツツキの仲間)、キジバト等々……自宅に眠っていた双眼鏡を持ち出しては外に出、鳥を眺める毎日を過ごした。

私が鳥を好きになったのは偶然の積み重ねで、気がついたときにはどっぷりと沼に浸かっていた。

私は鳥に魅入られたまま高校を卒業し、大学に入ると野鳥観察サークルに入部(幸運なことに私の大学にはあった)、鳥好きを拗らせて現在に至る。


鳥を“観る”ということ


鳥を観察し始めてまず驚いたのは、身近にいる野鳥の種類の多さだった。

遠目では全部スズメに見えていた小鳥も、図鑑で調べると違う種類で、それぞれ姿や鳴き声、飛び方も全然違う。いかに自分が今までぼんやりと鳥を「見て」いたか、実感させられた。

まずはネットの図鑑で、大きさや色、鳴き声などで絞り込んでみる。慣れてきたら、似た種類の鳥がまとまって載っている紙の図鑑を片手に細かく判別する。

「どれも似たような見た目だな」と感じていた水鳥なども、図鑑を使ってよく「観て」みると、嘴や羽根の色、餌の取り方がそれぞれ違うと気づいた。

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(オシドリ。どんぐりが好物の水鳥)

図鑑で種類を確認したら、その鳥がどんな行動をしているか、じっくりと「観て」みた。

街路樹でせわしなく動き回って虫を捕まえるシジュウカラ、水辺でせっせと毛づくろいするカルガモ。トビと喧嘩するカラス、砂場で遊ぶスズメ。

春から初夏にかけては、オスが歌声でメスにアピールする様子や、巣立ったばかりの若鳥のあどけない顔も見られる。

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(初夏に撮ったセグロセキレイ。右が若鳥。)

鳥を「観る」ことは、身近にいるはずの鳥の知らない表情に気づかせてくれた。そして、身の回りの世界の解像度をぐんと上げてくれたのだ。


創作のアンテナと野鳥観察


バードウォッチングにハマってみて感じたこととして、季節の変化や身の回りの環境の変化に敏感になった、ということがある。


よく見かけるスズメやカラスといった鳥は一年中日本にいる"留鳥"だが、ツバメやツグミなど、「春から夏にしかいない」「秋から冬にしかいない」"渡り鳥"も多くいる。

留鳥でも、春から初夏は子育てシーズンなど、季節によって生活スタイルは変わってくる。鳥を観察することは、そうした季節の変化をより強く感じ取ることでもあった。

また、何年か継続して鳥を見ると、鳥たちは毎年毎年同じ生活をしているわけではなく、環境によって少しずつ変化していることに気づいた。

渡り鳥の飛来の時期や、ウグイスが鳴き始めるタイミングさえ、その年の気候次第で毎年変わる。

「渡り」の途中に立ち寄っていただけの鳥だと、例えばその場所にあった止まり木が切られてしまうだけで、そこには飛来しなくなったりする。

去年見かけた鳥が来なくなった、というのは、些細なことかもしれない。だが、そういう「些細なこと」を拾い集めることが、創作活動をする上で大切なのだと気づいた。

庭にたまたま渡り鳥がやってきたことで私が野鳥観察にのめり込んだように、日常の小さな変化は、人の心を動かし、行動を変えるきっかけになっているかもしれないのだから。

日常の解像度を上げ、変化を感じ取るアンテナを張り巡らせるために、私は今日も鳥を探して近所を彷徨っている。


おまけ:おすすめの野鳥図鑑

この記事を読んでバードウォッチングを始めたくなった人のために、おすすめのWeb図鑑と紙の図鑑を書いておく。

その1:日本野鳥の会 オンライン野鳥図鑑(生息地別・大きさ順にまとめてある)

その2:サントリーWebサイト 日本の鳥百科(鳴き声や色などで絞り込める機能付き)

その3:小学館の図鑑(子供向けだが初心者の大人も使えるイラスト図鑑)

その4:‎ 山と渓谷社のハンディ図鑑(種類も豊富で情報量の多い本格派)


このご時世なので、近所で・少人数で密を避けて。河原や街中で鳥を観るときは、事故や歩行者の迷惑にならないように気を付けて。

図鑑(とあれば双眼鏡)を持って、ぜひ身近なところで鳥を観てほしい。

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秋はシギやチドリ、カモがわたってくるシーズン。今年はどんな鳥たちに会えるのかな……(とらつぐみ・鵺)