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街 7

~外伝~

”佳織さん今日はありがとうございます。お電話でお伝えした通りあの人の話を聞かせてもらえますか?”

「はい!彼の事は本当に好きでした。そしてあんなに冷酷にバッサリ振られたのもあれが最初で最後ですね。自分で言うのもアレですけどそんなに悪くないと思うんですけどね。あの人は一度も振り向いてくれなかった。」

とても清清しい答え方だった。

佳織さんは綺麗な女性でとても素敵な笑顔で明るい人だ。

”ツライ記憶を掘り返してすいません。しかし彼がまともに関わった女性が少なくて・・・まず連絡先を特定できる方ということで佳織さんにご連絡させていただきました”

「あの人がチャラチャラしていると言う方が私は信じられません。    だって私からキスしようとした時にも・・・”女が軽々しくそんなことすんじゃねぇ”って怒られましたもん。                    あの人はいつも書道教室でベースを弾いていたんです。ウチの学校は軽音部ってなくて書道部の先生が彼らに練習場所を提供していたみたいで、書道部は週一回で彼らはそれ以外の日をつかっていました。書道教室なのにドラムセットとアンプとスタンドマイクが置いてあって、書道部が無い日はそこで強面のお兄さんたちが必死に練習してるのって今思うと滑稽ですね。  でも当時はそれがカッコよく見えちゃった・・・」

心なしかおっとりしている。なんだかまだ少し彼の面影を大事にしまっているんじゃないかと思わせるような表情だ。

”あの人は憧れの存在ですか?”

「違うよ。あの人のせいで学校にいけなくなっちゃた時もあったし、成績も落ちちゃったし、冷たい言葉で傷つけられたから・・・嫌いです。    違うな・・・大嫌いで、大好きだった人。」

たしかに彼の高校時代はかなりひどい奴だったという証言は多い。人でなしとか死んだ魚の目をしていたとか・・・でも年下の女の子をボロボロにするような男ではなかった・・・はず。

”彼はなぜ佳織さんを傷つけたんですかね?”

「・・・うん」少し目を赤くする。

「あの人・・・面倒くさい事嫌いでしょ?私めんどくさい女だった。   成績優秀で先生たちからも期待されていたし、ブスじゃないからそれなりに男の人も好意を持ってくれていたの。」まっすぐ前を見て話す。

「だから天狗になってたって言ったらいい過ぎかもしれないけど・・・あの人も私に興味を持つって思ったの。だからそっけなくされると余計にがんばっちゃった。でもそれが私のためにやってるなんて・・・15歳の私には理解できなかった・・・」一筋の涙が流れる。

「駿君に言われたの。アイツは何をしても無駄だって前の彼女も好きなのに俺のせいで不幸にするわけにはいかないって別れたから・・・あいつはもう人を好きになる事はないって。でもそんなの関係ないじゃん。高校生だよ。不幸になるって・・・あんなにいっぱい抱えてるなんて言ってくれなきゃわかんないよ・・・」

”たしかに高校生には重いものを彼は背負っていたかもしれないですね”

「あの人に近づけば、近づくほどあの人を傷つけていたんだと思うの。  だから今でもマルボロメンソールの匂いがすると胸が苦しくなるの・・・・あの人が一人で教室にいてベースを弾くときだけ吸っているあのタバコ。」

”ありがとうございます。最後に彼に伝えたい事は?”

「こんなにいい女をみすみす逃したお前は馬鹿野郎だ!!!!!!」

一瞬だが高校生の時のあの無邪気な笑顔になった気がした。

外には満開の桜・・・彼がこの街をでてもう一年が経つ・・・

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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