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街 6

~外伝~

教頭

”彼について教えてください”

「あいつはクズですね。学校にまともに来ないし、裏では怪しい奴らとつるんでいるようですしね。まず何が気に入らないって私の授業に一切出ないんですよ。」

”授業に一切でないということは単位はないですよね?”

「・・・」唇をかみしめて、こちらを睨むようにみてきた。

「あいつは・・・あのクズは・・・」そういって拳を自身の太ももに叩きつける。

「すまない。君には関係がないことだね。・・・話すよ。約束だからね。」少し表情が落ち着いて話はじめた・・・・

「あれはアイツと仲の良い駿という生徒が珍しく高得点を取ってクラスのトップだった。駿は数学が苦手だったからいつも40点からよくても60点くらいだったのにその時は90点以上とってトップだったから・・・私もつい口が滑ってカンニングしたろ?と言ってしまったんだ。」少し顔が曇る。

「まさに逆鱗に触れるというのか烈火のごとく怒ってしまって・・・その私を殴ろうとしたんだ。もちろん教師に手を上げれば一発で退学だ。そしたらアイツ遅刻してきて早々、怒る駿をみると私との間に入り193cmの長身から繰り出される渾身の一撃を受けたんだ・・・そして駿に小さな声で何かを言った。途端に力が抜けて座りこんだんだ。」

”どうなったんですか?”

「アイツは駿の肩をポン、ポンと叩いてこちらを振り返り私の胸倉を掴んで言ったんだ・・・”賭けをしようと。お前が駿に言った事は決して許されることではない、お前の顔面を別人に変えることは造作もないがチャンスをやろう。次回のテストで俺が90以上取ったらこのクラスで赤点が出ようが、欠席だろうが必ず単位を卒業まで付ける。どうする?そろそろ他の教師が来るぞ。早く決めろ・・・”私はわかったと言ってしまった。」

”承諾したんですね”

「そうだ。私は教頭になるために血の出るような努力をしたんだ。校長になれる可能性も高い今は余計なトラブルを起こすわけにはいかなかった。アイツは手を離すと私にコレでもかというでかい声で罵声を浴びせ、すれ違いざまに”俺との約束は命掛けろよ”と囁いて他の教員に取り押さえられた。」

”問題にはならなかった?”

「ああ、アイツはその場にいた全員に口裏を合わせさせたんだ・・・・・・アイツが遅刻した事を私が注意したことにアイツが逆上して駿が殴って止めたと・・・・本当に腹の立つ奴だ。」

”約束はどうなったんですか?”

「私はアイツを縛り付けるチャンスだとも思った。なんせ”命を掛ける”とまで言ったんだからな・・・だから後日テストをした。前回やった範囲から新たな範囲の問題30問だ。アイツは授業に一度も出なかった。」

”じゃあ・・・”

「98点でクラストップだったよ。クズなんだ。アイツはクズだ。それなのに、それなのに・・・嘲笑いながら”俺を舐めるなよ。てめぇの糞みたいな授業なんて俺には必要ない”と言って全員の前で恥をかかされた。」

”でも彼は全教科赤点のクラス最下位でしたよね?”

「そうだ、ある時期からな・・入試はトップの成績で入学していたんだよ。医者になるなんてほざいていたくらいだ、確かに私立の医学部なら入れるくらいの実力はあったのかもしれんな。」

”ではそれで単位だけくれたんですか?”

「そうだ。どうせ就職だったからな、単位くらいくれてやったわ。アイツは唯一出席日数も点数も足りていないのに数学の単位はとった。」

”最後に・・・もし今彼にあったらなんと声をかけますか?”

「何も無い。アイツにやる言葉なんて一文字もない。クズは死ぬまでクズだからな。君も奴に深入りすると不幸になるぞ。もうやめておけ。」

”そうですね。

きっとあなたには死ぬまで彼を理解する事はできないと思います。

彼は体裁や既得権益なんかには1mmも興味がないですから。

校長就任おめでとうございます。匿名で記事にしますからご安心を。

ありがとうございました。”

「・・・うむ。

アイツにもし会ったら伝えてくれよ。確かに奨学金は保証人が必要だった。だから親の兄弟や親戚に頼めと言ったのに動かなかったのはお前だ。つまり体裁を気にして人生を棒に振ったのはお前のほうだ。・・・・とな。」

”わかりました。伝えておきましょう”

かつての教頭は夢にまで見た校長と言うポジションを得て、さぞ満足していると思ったが心のどこかであの人の存在が素直に喜べなくしているようだった。



この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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