嘘…。

エイプリル・フールの夜。今日一日ついた嘘を思い出しては一人、ほくそ笑む。

「いつも残業して大変ですね」と同僚に言われれば「仕事が好きなんで」と笑顔を見せ「娘さんが巣立って行って寂しいでしょ」とお客さんに聞かれれば「思いの外、平気なんですけど」と平静を装い、「明日コンサドーレの試合行くんじゃなかったでしたっけ?」と部下に気を使われれば「いや、いいんだよ。仕事の方が大切だし」と嘘をつく。

そうやって他人にも自分にも嘘をつく事でなんとか今日一日やってこれたから、あながち悪い一日なんかじゃなかったんだろう。だってこれまでの僕のちっぽけな人生にとって「嘘」は生きてく為の必要不可欠なモノで嘘じゃないホントの自分が出てきちゃたら、それこそもっと惨めな人生が待っていたはずだから。

でも、みんなそうでしょ?

例えば海の向こうの受賞式の平手打ちも「家族を守るべき男」演じた最優秀演技賞並の「嘘」かも知れないし、コメディアンが言ったジョークだって綺麗な善意で塗り固められた言葉への「嘘」というカウンターパンチだったかも知れない。そのニュースを遠く離れたこの国で見て訳知り顔で「けしからん」って言ってるこの僕自身もなんだかんだでやっぱり「嘘」をついてるだけだしね。いくら綺麗な瞳で世界中を覗いてみても「真実」なんて浮かび上がってこないし、なんとか見つけたと思った「正解」だってそう思い込む事で僕はちゃんとした大人だよって安心できる「嘘」なんだからね。

あーあ、もうすぐ今日も終わってしまう。「嘘」ばっかりの僕の人生でエイプリル・フールは僕の「嘘」が大手を振って歩ける記念日だから、残り少ない今日を楽しむ為に最後にもうちょっとだけ「嘘」をつこう。


そうだ。明日の浦和戦は仕事なんかほっぽらかしてドームに行こう。

サポーターの笑顔が溢れる待機列にハヤルキモチをおさえながら入場を待ち侘びて、スマホをかざして入口を抜けると駆け足で階段を駆けあがり自分の席を探し、目に飛び込んできた緑の芝生の匂いは胸いっぱい吸い込むんだ。ビールを片手に久しぶりに会った友とフットボールの話とくだらない事を言い合って笑い声を上げ、選手をこの目に焼き付け、そして固唾を飲んで赤黒のクラブの初勝利を願って、勝点3のホイッスルを聞くんだ。「やっぱり僕が試合を見に来たら勝つよな」って自慢げに妻にLINEし、「また来るよって」選手と札幌ドームに手をふりながら遠い家に帰る。そうだ。そんな日になるはずだよ。「嘘」のような最高の一日にね…。


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