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「決定力」の謎を探して我々は…

北の大地でfootballを愛する我々にとって今季よく耳にする「決定力」。無機質な漢字3文字に我々は心の片隅に憤りと怒り屈辱を日々いだいてしまう。時に我々はこの3文字の後に「不足」とつける事によってさもその能力が古来からある既成の能力のような幻想を、まるで少年時代に公園の砂場で城を構築したかのようなつぶらな瞳で作り上げてしまう。その幻想の城が夜中の風雨でそれこそ「祭りの跡」となってしまう事も知らずに。またある時はこの3文字の前に「あとは」とつける事によってすべての免罪符、否、かつてはお茶の間の団欒と劇中の入浴シーンにより偉大な視聴率を誇っていた先の副将軍の印籠のごとく試合後にそれを掲げ「かっ、かあ、かあー」と高笑いをして「助さん角さん、次の試合じゃ」と”うっかり”次の週末へ旅立ってしまうのである。しかし。しかしである。我々はそれと同時に決して肯定的なシチュエーションで出現しないこの「決定力」という単語になぜか心の中に未来への希望を抱いてしまうのもまた、まぎれない事実なのである。この不惑で砂塵、格式と助平心の「決定力」という言葉の謎を探しに今宵アマゾンの奥地へ旅立つのである…。


「決定力」。たとえばそれは、

このプロスポーツ不毛の北の地にfootball clubを招聘することであろうか。

私の少年時代。この地でプロスポーツとは一年に一度来道する大手新聞社の紳士と触れ込む野球球団とその対戦相手でしかなかった。我々は遠い海の向こうの外国「内地」で繰り広げらるプロスポーツたの戦いをテレビの前で指を咥えて見るしかなかったのである。圧倒的な人気を北の地で誇った紳士野球球団への愛は、おらが街のプロチームとしての愛ではなく「中央」への憧れだったというのは些かかいいすぎか。少なくとも私個人としてはそうであった。やがて時を経て私がこの地を離れあこがれの地に拠点を移した頃、footballがsoccerと呼ばれるこの国についにもう一つのプロリーグが出現した。しかし旧ナショナルスタジアムに光輝くカクテル光線が照らす大きなフラッグの中にのちにこの北の地の熱狂させる赤黒の旗はなかったのである。いやこの時赤黒の旗すら存在しなかったのである。だが、私が去ったこの地にはそのカクテル光線に「未来」を見た者とそれを「自分たちが暮らす地」へと夢を抱いた者たちがいた。この地の人々は「フロンティア」たる言葉がこの広大な地を切り拓いたように、胸に大志を抱く。しかしその大志を支持する者だけでなく数々の反対する者がいたのも容易に想像がつく。また、この地のおとなし気な人々にそのプロクラブは果たして受け入れられるのだろうか。ゼロから一を作り出すこのプロジェクトにどれほどの困難が付き待っとったであろうか。その一つ一つにどれだけの「決定力」を要したことか。


「決定力」。たとえばそれは、

クラブの創始者が亡くなった後の試合で5得点する選手たちの心意気のことであろうか。

普段、赤と黒を基調とするユニを纏うクラブの選手たちはその日アウエーの地で白いユニを着、左腕には黒い喪章をはめていた。それまで2戦連続無得点が嘘のように前半だけで3得点を奪った赤黒戦士……、いや僕らの「白い恋人」たちが僅かな休息にとロッカールームに引き上げたあとだった。スタジアムにはホームクラブに招かれた「ゴダイゴ」が演奏をはじめた。

”GODIEGO” たしか、「GOD」「I」「EGO」。神と自分、そしてエゴ。むかし何かで読んだそのバンド名の由来を思い返し「神」の部分をコンサに置き換えクラブと私の何とも言えない関係性を連想し苦笑した。毎週末、宗教のごとく勝利を願い試合を見る日々。歓喜より思い出すのは愛するクラブが期待通りの結果にならない過去の苦い記憶。そして期待という衣を借りた私自身のエゴ…。そんな私とクラブの複雑な関係を作ってくれた創始者のひとりが亡くなった事の言い知れぬ寂しさ…。いや、待てよ。違ったな。「GO」「DIE」「GO」だったけ。生きて、死んで、また蘇る、「輪廻転生」「不死鳥」の意味って読んだ気もする。しばし考え、彼らが演奏する曲のイントロが画面から流れ出した頃、私は記憶を呼び戻す事を諦めた。私の記憶のメモリーは過去の試合の記憶でもうマックスのようだ。その後コンサドーレの選手たちは後半2得点を追加し今季最多ゴールを「父」に捧げる決定力をみせた。

決定力の謎を解き明かすという「仮」の名目を借りて最高顧問へ捧げる文章を書こうとアマゾンを彷徨った今宵の私の結末は予想通り失敗に終わった。やはり彼の数々の業績を称える「決定力」のある言葉は私には持ち合わせていないようだ。だから代わりにと言ってはなんだが、あの試合で「ゴダイゴ」が歌った曲の歌詞をお借りしよう。彼がクラブ創設時に抱いた思いが輪廻転生のごとく生き続き、不死鳥のように未来にはばたくように。そう、今宵私は結局「決定力」をレンタルするのである。


    「さあ行くんだ その顔を上げて 新しい風に心を洗おう
     古い夢は 置いて行くがいい ふたたび始まる ドラマのために
     あの人はもう 思い出だけど 君を遠くで 見つめてる」

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石水勲氏。

北海道に「白い」恋人をつくり、「赤黒」のクラブを作った色鮮やかな、その人生に感謝。合掌。



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