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クラファンあれこれ(1)横浜シネマ・ジャック&ベティ

すでにご存知の向きも多いかと思いますが、「横浜名画座」から数えて70余年の歴史を持つ、横浜のミニシアター シネマ・ジャック&ベティ が、現在、クラウドファンディングを実施中です(2024年1月31日まで)。

概要としては、2020年以降のコロナ禍や劇場建物の老朽化、デジタルプロジェクターの買い替えといった諸問題により経営が逼迫しており、もはや閉館待ったなしのところまで追い込まれているため、何卒ご支援を賜りたい、というもの。目標金額は、この手のクラファンにしてはかなり高額と思われる 30,000,000円が設定されています。

シネマ・ジャック&ベティの外観
名画座のなごりが館内の随所に

クラファンの開始は11月24日。私がそれを知ったのは、ほぼ1週間が過ぎた11月30日、俳優・渡辺梓さんのX(旧ツイッター)のリポストによってでした。
実は渡辺さんと知り合ったのも、ジャック&ベティの梶原俊幸支配人のご紹介によるもので(詳細は後述)、それ以外にもろもろの関わりがあり、「これは放ってはおけない」と、あわてて貧者の一灯を献じた次第です。

そして、同じように「放ってはおけない」と考えた、ジャック&ベティを愛する人の数は思った以上に多かったらしく、何と、クラファン開始からわずか2週間ちょっとで、かなりハードルが高いのでは? と思われた目標金額の30,000,000円をクリアしてしまったのです。これには少々驚きましたが、想像以上にミニシアターの存続を願う人がたくさんいることに、大いに勇気づけられました。

最近では、タイムパフォーマンスの重視とかで、映画を1.5倍速で見る若い層も増えていると聞きます。そういった人たちにとっては、早送りもできず、途中でトイレにも行けない映画館での視聴など、不便不自由以外の何物でもないでしょう。そうなると、彼ら彼女らの社会への台頭とともに、劇場で映画を鑑賞する習慣が廃れていくのは時代の必然で、もはやどうにもならないこととなかば諦めていたのですが、この勢いを見る限り、まだ望みを捨てるのは早いのかも知れません。ここ数年、岩波ホールや名古屋シネマテーク、京都みなみ会館といった老舗のミニシアターが次々と閉館しており、「もうこれ以上劇場の閉館を見たくない、聞きたくない」という映画ファンの悲痛な思いが、今回のクラファンの起爆剤になったようにも感じます。

さらに、ジャック&ベティは、<&[and] シネマ>というプロジェクトも構想しており、
<“あなたと” “街と” “暮らしと” 共にあり続けられる映画館でありたい>
という目標をかかげています(詳細はクラファンの「プロジェクト」ページをご覧ください)。
劇場が「人と人とがつながる場」であることを、長年の劇場運営でよく理解しているジャック&ベティのスタッフならではのプランだと思います。PCやタブレットなどで映画を見るのは「視聴覚情報の取得」でしかありませんが、劇場で映画を鑑賞するのは、「ひとつの体験」であり「ひとつの出会い」なのです。両者はまったくベクトルの違うものであるということを、今一度認識する必要があるのではないでしょうか。

いささか熱くなってしまいましたが、ここで、ジャック&ベティと私との関係を振り返ってみたいと思います。

ここ10年(2013~2022)の間に、4本の映画を劇場公開してきましたが、そのうちの3本の神奈川エリアでの上映館がジャック&ベティであったといえば、そのつながりはご理解いただけるのではないでしょうか(以下、作品名をクリックすると予告編に飛びます)。

鎌倉アカデミア 青の時代(2017)
浜の記憶(2019)
空へ ふたたび(2023)

特に私の映画は大規模なものではないので、配給や宣伝も直接私が行っており、したがって、劇場との連絡(上映の交渉、チラシや予告編など宣伝物のやりとり、映写素材の手配、舞台挨拶の打ち合わせ等々)も、すべて直接先方と行っております。したがって、梶原支配人、小林副支配人とは、上映の前後には、電話やメールで、かなり頻繁にやりとりをしてきたわけです。

ご存知のとおり、ジャック&ベティは2スクリーンあり、1日に10前後の作品を上映、1ヶ月では50作前後になります。それだけの数の作品を扱っていて、常にご多忙なのは明らかなのに、梶原・小林両氏も、劇場スタッフの皆さんも、実に細やかな対応をしてくださり、配給側としてはいくら感謝してもしきれないような感じなのです。

最初に上映していただいたのは「鎌倉アカデミア 青の時代」(2017)というドキュメンタリーで、横浜と鎌倉が隣接していたこともあって、最初から旧知のような感じで接していただきました。鎌倉市にある川喜多映画記念館の担当の方からのご紹介だったと記憶しています(実は、私の旧作「火星のわが家」(2000)は、ジャック&ベティの旧経営会社である中央興業が運営していたシブヤ・シネマ・ソサエティと横浜西口名画座で公開されているので、厳密にいえば初めてではないのですが、新体制になってからはこれが最初ということで…)。

「鎌倉アカデミア~」に続く、「浜の記憶」(2019)も、鎌倉を舞台にした、いわばスピンオフ的な劇映画で、この作品では上にも書いたように、梶原支配人にお願いして、渡辺梓さんを紹介していただき、出演の快諾を得ました。
これは、渡辺さんとご主人の稲吉稔さんが運営されている「似て非 works」が、一時期、ジャック&ベティのすぐそばにあったという「地縁」によるもので、渡辺さんは、封切り館の新宿では初日のみでしたが、ジャック&ベティでは、初日と最終日の二回、舞台挨拶に登壇していただきました。

「浜の記憶」初日舞台挨拶。
左端は司会を務めた梶原支配人(2019年11月16日)
「浜の記憶」最終日舞台挨拶。
左から渡辺梓さん、加藤茂雄さん、宮崎勇希さん、大嶋拓(2019年11月22日)

93歳で映画初主演を果たした加藤茂雄さんが、
「若いころ東宝で共演した仲代(達矢)さんの、無名塾の教え子である渡辺さんと親子役がやれるなんて、役者を続けていて本当によかった」
と壇上で目を細めていた姿が懐かしく目に浮かびます。

左から渡辺梓さん、加藤茂雄さん、宮崎勇希さん。
加藤さんはこの7ヵ月後にご逝去、これが最後の晴れ姿に(2019年11月22日)

そして、今年(2023年)の2~3月には、「空へ ふたたび」という作品でも大変お世話になりました。コロナ禍で大打撃を受けた、日本初の女性アクロバットダンス・カンパニー G-rockets の、再生への祈りをテーマにしたドキュメンタリーです。

劇場スタッフさんお手製のディスプレイ

撮影はコロナ真っ只中の2020年。それからだいぶ時間が経ったとはいえ、コロナの影響は根深く、正直、まだお客様が充分劇場に戻ってきていないなあ、と感じさせられる公開でした。ちょうどこの時期、ジャック&ベティのオンラインチケット販売が一時休止となっており、「もしかして、経営状態がかなり厳しいのでは?」といささかの不安が去来したのも事実です。

「空へ ふたたび」最終日舞台挨拶後のスナップ。
左から倉知あゆかさん、大嶋拓、今村ゆり子さん、山中陽子さん(2023年3月3日)

しかし、あれから9ヶ月が経過した今、ジャック&ベティは死中に活を求めるべくクラウドファンディングを実施し、着実な成果を収めています。12月25日現在、コレクターは2,102人を数え、支援額は35,382,175円。終了まであと1ヶ月以上ありますから、この額はもっと増えていくことでしょう。
どうかこのムーブが、これからのジャック&ベティの、新たな歴史の最初の1ページとなりますよう。そして、梶原支配人のあの個性的な髪型とファッションが、いつまでも健在であることを祈りつつ……。

ジャック&ベティに関しては、「鎌倉アカデミア~」公開前の2017年8月に以下のような記事も書いていました。初代「スケバン刑事」のあの方も、密かな常連だったことがうかがえる内容です。


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