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ストリートライブをしていたら女の子と出会った話

大阪に住んでいた頃、毎日のように高架下で歌っていた。ストリートライブというものがやりやすい街だった。

ふつうに暮らしていたら会えないようなひとたちと出会った。

よかった思い出もあるけど、飲んで、モメて、争って、借りて、奪って、奪われて、壊して、壊されてだって繰り返した。

僕も態度が良くなかったし、今よりも苦しかった。だから、むかしに戻りたいわけじゃない。

だけど、ひとにはそんな黒い歴史のなかでしか触れられないものもあると思う。

僕もあの日の記憶を漁っていると、名前を付けられないような感情が蘇る。
「愛だった」とか「恋だった」とかありふれた名前を付けるには、あまりに軽薄に思えてしまう感情だ。

あの頃はほとんどの時間酔っていたし、鮮明には覚えていないけど、忘れられないこともいくつかある。

あの日も僕は歌っていた。
東口と西口をつなぐ高架下の通路で、僕の歌声と通行人の笑い声が混じり合っていた。

日付けをまたぐ時刻から、2時間近く声を張りあげていたが、誰も聴いてくれなかった。

もう今日はやめようと思った矢先に、ふらふらと歩いてくる女がいた。後ろからオレンジ色のライトが差していて、顔はよく見えなかった。

ひどく酔っ払らっているようだった。
明るい色の髪に、崩れた化粧は皮肉にも街にお似合いだった。
女は倒れこむように僕の前に座った。
そして通路を挟んだ反対側の壁にもたれて、トロンとした目でこちらを見てきた。

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