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きょうの難経 七十五と七十七難 2022/2/3

今回は、難解で有名な七十五難です。「母を補い、子を瀉す」で有名な六十九難とよく対比されますが、実際にみてみましょう。

七十五難曰
經言東方實 西方虛 瀉南方 補北方 何謂也
(經に言う、東方實し、西方虛せば、南方を瀉し、北方を補うとは何のいいぞや)


金木水火土 當更相平
(金・木・水・火・土、當にこもごも相平らぐべし)
東方木也 西方金也
(東方は木なり、西方は金也なり)
木欲實 金當平之
(木、實せんと欲せば、金、當にこれを平らぐべし)
火欲實 水當平之
(火、實せんと欲せば、水、當にこれを平らぐべし)
土欲實 木當平之
(土、實せんと欲せば、木、當にこれを平らぐべし)
金欲實 火當平之
(金、實せんと欲せば、火、當にこれを平らぐべし)
水欲實 土當平之
(水、實せんと欲せば、土、當にこれを平らぐべし)

東方肝也 則知肝實
(東方は肝なり。則ち肝實を知る)
西方肺也 則知肺虛
(西方は肺なり。 則ち肺虛を知る)
瀉南方火 補北方水
(南方の火を瀉し、北方の水を補う)
南方火 火者 木之子也
(南方は火、火は木の子なり)
北方水 水者 木之母也
(北方は水、水は木の母なり)
水勝火 子能令母實 母能令子虛
(水は火に勝つ、子能く母をして實せしめ、母能く子をして虛せしむ)
故瀉火補水 欲令金不得平木也
(故に火を瀉し水を補い、金をして木を平らぐることを得ざらしめんと欲するなり ※1)
經曰
不能治其虛 何問其餘 此之謂也
(其の虛を治すること能わずんば、何ぞその餘を問わんとはこれをこれ謂うなり。)

※1 「不」は衍字との説も

ここでは、母子の相生関係をさらに拡大して、「子が母を実せしむ」「母が子を虛せしむ」という関係が述べられています。そうすると、母子関係でも相剋・相侮(逆剋)のような関係が成り立つようになり、関係性が一気に複雑になります。

それよりも私が気になるのは、冒頭の問いは「東西南北」で「四象(+中央土)」をベースとしているのに、答えは「金木水火土(中国ではこの順番での表記が多いとのことです。)」の(星型の)五行で説明しているところです。
今までにも見てきたように、「五行」の形態には、土を中心または土台とした、四象をベースにした五行と、木火土金水が互いに並列で、相生・相剋関係から星型になっている五行とがあります。
『素問』『霊枢』では、この2種類の五行がそれぞれ登場しているのですが、『難経』の七十五難はこれを統一して、整理しようとしたのではないかと感じました。ただ、十分にまとめきれず、中途半端になっていまったものですから、この難は非常に難解になってしまったのでは、というのが想像です。

漢方医の先生方からは、こうした理論を鍼灸師が実際の臨床にどのように用いているのか、という質問を頂いたので、経絡治療や積聚治療での例などを挙げさせて頂きました。

ただ、実際の運用においては鍼灸師それぞれで千差万別。
それは直観力に基づく暗黙知の世界ではないか、という提示をいただきました。
また、こうした各要素の関係性の考え方は、例えば細胞レベルにおける伝達物質やメッセンジャー、抑制性の物質などのふるまいと共通点があるのではないかというご指摘もとても興味深いものでした。

では、もうひとつ、七十七難を。

七十七難曰
經言上工治未病 中工治已病者 何謂也
(經に言う、上工は未病を治し、中工は已病を治すとは、 何の謂ぞや)


所謂治未病者 見肝之病 則知肝當傳之與脾
(いわゆる未病を治すとは、肝の病を見て、則ち肝當にこれを脾に伝うべきことを知る)
故先實其脾氣 無令得受肝之邪 故曰治未病焉
(故に先づ其の脾氣を實して、肝之邪を受くることを得せしむることなし。故に未病を治すと曰う)
中工治已病者 見肝之病 不曉相傳 但一心治肝
(中工は肝の病を見て、相い伝うることを曉らず、但心を一にして肝を治す)
故曰治已病也
(故に已病を治すと曰う)

これまた有名な「治未病」の一説です。
同様の内容は『金匱要略』の「臟腑經絡先後病脈證」にも見られるので、両書の繋がりを感じます。

問曰
上工治未病 何也
師曰
夫治未病者 見肝之病 知肝傳脾 當先實脾 四季脾王不受邪 即勿補之
中工不曉相傳 見肝之病 不解實脾 惟治肝也

漢方医の先生に、漢方でも「治未病」の観点で処方を出すことがあるのか質問させて頂きました。
まず大原則として「見症に従う」があるので、脈・腹・舌診、または問診を通じて症状があればそれに対応する処方を行うけれども、「治未病」の考え方だけで予防的に処方を出すことは無いし、そもそも現在の医療保険制度において予防投与は認められていないとのことでした。
このあたりは、同じ東洋医学を背景としていても、いろいろと意見の分かれるところかもしれません。

今回も最後までお読み頂きありがとうございます。





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