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きょうの素問 金匱真言論篇 第四(1) 2023/7/6

今回から、また『素問』に戻って参りました。
このシリーズでは3度目になります。
トップバッターは「金匱真言論 第四」です。
「金匱要略」と同じ「金匱」という言葉が冠せられた篇ですが、大切な宝物をしまう箱の意味だとか。
どんな「真言」が保管されているのか。
さっそく読んでいきましょう。

黃帝問曰 天有八風 經有五風 何謂
(黃帝問いて曰く、天に八風あり、經に五風ありとは、 何の謂ぞや。)
 
歧伯對曰 八風發邪 以為經風 觸五藏 邪氣發病
所謂得四時之勝者 春勝長夏 長夏勝冬 冬勝夏 夏勝秋
秋勝春 所謂四時之勝也
(歧伯對えて曰く、八風、邪を發し、以て經風となり、五藏に觸す。邪氣、病を發するは、いわゆる四時の勝を得る者なり。春は長夏に勝ち、長夏は冬に勝ち、冬は夏に勝ち、夏は秋に勝ち、秋は春に勝ち、いわゆる四時の勝なり。)

まず、「天に八風あり」ですが、『霊枢』の九宮八風篇に以下の記述があるので引用します。

風從南方來 名曰大弱風其傷人也 内舍於 外在於脈 氣主熱
風從西南方來 名曰謀風 其傷人也 内舍於 外在於肌 其氣主為弱
風從西方來 名曰剛風 其傷人也 内舍於 外在於皮膚 其氣主為燥
風從西北方來 名曰折風 其傷人也 内舍於小腸 外在於手太陽脈 脈絕則溢
脈閉則結不通 善暴死
風從北方來 名曰大剛風 其傷人也 内舍於 外在於骨與肩背之膂筋
其氣主為寒也
風從東北方來 名曰凶風 其傷人也 内舍於大腸 外在於兩脅腋骨下及肢節
風從東方來 名曰嬰兒風 其傷人也 内舍於 外在於筋紐 其氣主為身濕
風從東南方來 名曰弱風 其傷人也 内舍於 外在肌肉 其氣主體重

八方向からの風と、対応する(宿る)臓腑、体の部位、影響の仕方が示されています。

『類経図翼』には以下のような図にまとめられています。


類経図翼

さて、「八風」が邪を運んでくると「経風」となり、五臓が障害されるとします。そして、五行の相剋関係に基づき、
春(木、肝)は長夏(土、脾)を剋す。
長夏(土、脾)は冬(水、腎)を剋す。
冬(水、腎)は夏(火、心)を剋す。
夏(火、心)は秋(金、肺)を剋す。
秋(金、肺)は春(木、肝)を剋す、としています。

このあたりは、ベーシックな(理論重視な)展開と言えそうです。
さて続きです。
 
東風生於春 病在肝 兪在頸項
南風生於夏 病在心 兪在胸脇
西風生於秋 病在肺 兪在肩背
北風生於冬 病在腎 兪在腰股
中央為土 病在脾 兪在脊
(東風は春に生ず。病は肝に在り。兪は頸項に在り。
南風は夏に生ず。病は心に在り。兪は胸脇に在り。
西風は秋に生ず。病は肺に在り。兪は肩背に在り。
北風は冬に生ず。病は腎に在り。兪は腰股に在り。
中央は土となす。病は脾に在り。兪は脊に在り。)

それぞれの季節の風邪と病む臓とその治療部位について簡潔にまとめられています。
興味深いのは、前段では五行の相剋関係で述べていたのが、
この段では四時(四季)の中央土の五行を前提としているところです。
素問、霊枢では、2種類の五行が述べられているとは度々触れてきましたが、この篇ではそれを同時採用しているところが興味深いです。

 
故春氣者病在頭 夏氣者病在藏
秋氣者病在肩背 冬氣者病在四支
(故に春氣なる者は、病、頭に在り、
夏氣なる者は、病、藏に在り、
秋氣なる者は、病、肩背に在り、
冬氣なる者は、病、四支に在り。)
 
故春善病鼽衄 仲夏善病胸脇 長夏善病洞泄寒中
秋善病風瘧 冬善病痺厥
(故に春は善く鼽衄を病み、仲夏は善く胸脇を病み、
長夏は善く洞泄寒中を病み、秋は善く風瘧を病み、
冬は善く痺厥を病む。)

兪の場所とほぼ対応する形で、病む場所が改めて提示され、またそれに対応した病態が提示されます。
またここではしれっと、中央土でない五行に話を戻しています。 

故冬不按蹻 春不鼽衄 春不病頸項 仲夏不病胸脇
長夏不病洞泄寒中 秋不病風瘧 冬不病痺厥飱泄
而汗出也
(故に冬に按蹻せざれば、春に鼽衄せず、春に頸項を病まず、仲夏に胸脇を病まず、長夏に洞泄寒中を病まず、 秋に風瘧を病まず、冬に痺厥、飱泄、汗出ずるを病まざるなり。)

※ 冬不按蹻
テキストでは「冬にはげしい運動をして潜伏している陽気を乱し動かさなければ」と訳しているのですが、どうなんでしょう。
「按蹻」は「異法方宜論」によれば、「中央 土」ですから、

中央者其地平以濕 天地所以生萬物也眾 其民食雜而不勞
故其病多痿厥寒熱 其治宜導引按蹻
故導引按蹻者 亦從中央出也

土剋水で、冬に行う治療手段としては適切でないので、そうした治療を行わなければ、その後の季節でも病むことはない、と言えるかもしれません。
少々強引な理解かもしれませんが。

ちなみに、易では冬 → 水 → 坎 となり、☵ の卦が想起されます。
この卦は上下を陰に挟まれ、中核に陽がある卦ですので、冬の寒い時期を、内部に春から芽を出す種となる陽気を大事に守っている意味も持っています。
その観点からいうとテキストの「潜伏している陽気を乱し動かさなければ」という訳も妥当に思えてきます。

夫精者身之本也 故藏於精者春不病溫
夏暑汗不出者 秋成風瘧 此平人脈法也
(夫れ精なる者は、身の本なり。故に精を藏する者は、春に溫を病まず。夏に暑汗出でざる者は、秋に風瘧と成る。此れ平人の脈法なり。)

急に「精」の話になりますが、夏にしっかり汗をかいておかないと、秋に「風瘧」の病を発症する、というのは、夏に冷房のお世話になりがちな現代人にとって示唆に富んだ指摘かと思います。

さて、今回は基本的な五行論の理論に基づいた記述が中心でしたが、次回はもう少し具体的になっていくと思われます。
また来週、この続きを読んでいきましょう。
今回も最後までお読み頂きありがとうございます。 

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