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相続税事例(姪がローン付アパートを相続した場合)

こんにちは。
税理士の長野です。
今回も、私が相続税申告のお手伝いをしたケースについて、論点整理をしながら、簡潔に、ご紹介させて頂きます。
実際の事例を通じて、皆様の将来的な相続に備える一助になれば幸いです。

※個人情報が漏洩しないよう、家族構成や財産内容は脚色しているので、予めご了承ください。

【家族構成】
被相続人:叔母(92歳)
相続人:相談者姪(62歳)、弟(85歳)
※叔母に子供はいない

【財産構成】
土地:3,500万円
家屋:アパート2,400万円
※自宅は賃貸なので所有していない
現預金:1,400万円
生命保険:姪500万円
財産合計:7,800万円
借入金:アパートローン2,000万円

【相談内容】
叔母に相続が発生したため、相続税申告のご依頼
 
【ニーズ】
・賃貸アパートあり
・そのアパートにリフォーム工事したときのローンあり

【論点】
ご相続が発生された方には、子供がおらず、弟様と一緒に暮らしていました。兄弟姉妹が他に既に他界したお兄様がおり、そのお兄様には子供(姪)がいました。そのため、遺言書を生前に書かれており、その内容は主に下記のような内容でした。
・預貯金のうち1,000万円を弟に相続させる。
・上記以外の一切の財産を姪に相続させる。
 
相談者である姪御さんは、生前から叔母の身の回りのケアをされておるため、相続手続きも対応されており、相続税申告もご相談頂きました。
お話を聞くと、アパートをこれまで叔母に代わり、入退去管理や庭掃除、見回りなど姪である相談者が行っていたそうです。そのため、相続後のアパート管理については特段不安視されていませんが、一点だけ、懸念事項がありました。
それがアパートローンです。
アパートは築年数が30年近く経っているため、数年前にリフォーム工事をしました。そのため、相続発生日時点で2,000万円のアパートローンがありました。
毎月の家賃収入から返済を続けていましたが、それでも、将来的な空室リスクを考えると今後も返済を続けられるか、相談者は自分で借入金を背負ったことがないため、借入金含めてアパートを相続することに不安を感じていました。

【長野拓矢税理士事務所の対応方法】
まず、借入金を相続したくない場合、「相続放棄」という方法があります。これは、相続後3ヶ月以内であれば、プラスの財産を相続しない代わりに、マイナスの財産、つまり、借入金も相続せずに済みます。
相談に来られた日にちは、相続発生日からまだ1ヶ月しか経っていなかったため、まだ残り2ヶ月残っています。検討の余地は十分ありましたので、相談者にその旨をお伝えすると、

「叔母さんの気持ちを考えれば、相続放棄なんて考えられないわ」

とすぐに仰いました。
 
そうすると、アパートをローン含めて相続することとなります。姪が相続したときに税金面で論点になることは、「2割加算」です。
2割加算とは、兄弟相続や孫への相続(代襲相続を除く)、そして、今回のような甥姪への遺贈など、子供への相続以外の場合は、相続税が2割UPする制度です。これはなぜかというと、通常相続人というのは配偶者か子供です。それ以外の他の相続人が相続する財産は、どちらかと言えば、余剰財産とみなされ、相続税が多く課税されることとなっています。
今回、相続人は姪御さんなので、2割加算の対象となります。
それを見越して、叔母様は生前にリフォーム工事を行ったのかもしれません。
今回のように将来的な相続税が2割加算になると分かっている場合、通常よりも多く相続税がかかるため、相続発生前に、相続財産の圧縮を進めたほうが、相続税がグッと下がります。
 
さいごに、受贈者の場合、借入金を財産から控除(以下、債務控除といいます)できるかどうかが論点となります。
遺言書により、借入金を相続させる場合、遺言書の書き方が「包括遺贈」でないと、その借入金が財産から控除できないケースもあります。
なお、包括遺贈と特定遺贈はどのような違いがあるかは、下記のように分類できます。
包括遺贈:財産の一定割合を包括的に指定する方法
特定遺贈:どの財産をどの人にいくら渡すか指定する方法
 
これだけだと分かりづらいので、具体的に説明しますと、例えば、包括遺贈の遺言書では、
「財産の30%を姪にあげる」
という書き方になります。
これに対して、特定遺贈の遺言書では、
「財産のうちアパートを姪にあげる」
という書き方になります。
 
財産の一定割合を相続する受遺者は、実質的に、相続人と同じように扱われ、債務控除が適用できるというわけです。
一見、違いがそれほど無さそうですが、相続税法上、債務控除できる者は、相続人と包括受遺者に限られています。
なお、特定遺贈でも、負担付遺贈というケースでしたら、実質的に借入金を控除できるため、詳しくは専門家にご相談ください。
 
【ここがポイント!】
長野拓矢税理士事務所は、士業間の連携もあり、困ったときは他の士業の先生に確認しながら業務にあたります。
今回の遺言書は、弁護士先生にも確認しながら、民法上、包括遺贈と考えられると判断した上で、アパートローンを相続財産から控除しました。
これにより、相続税は借入金の影響でだいぶ圧縮できます。しかし、相続が終わっても当然ですが借入金は残ります。その後、長年にわたり、その借入金を返済し続けていかなければなりません。そして、その返済をする方は、借入をし亡くなった方ではなく、借入金を相続した相続人です。
ご本人様は、自分の相続で負担をなるべく減らしたいという気持ちで借入金をあえて作ることもありますが、相続人は借入金を非常に負担に感じています。それは相続が終わってからも返済しなければならず、かつ、アパート経営もしなければならないからです。
アパートも返済が終わるまで満室であればいいですが、経年劣化とともに空室リスクが増していきます。
相続の場面では、ご本人様が良かれと思ってやったことが、相続人にとっては喜ばしくないケースも起こります。後々しこりを残さぬよう、何か相続対策を行う場合は、専門家を間に入れるなど上手く活用して、当事者間(親子間や、今回でいえば、叔母姪間)で事前に話し合いが必要だといえるでしょう。
今回は、

「今後も確定申告しないといけないので、引き続き、長野先生にお願いしたいわ」

と、仰って頂けました。私の仕事ぶりを評価されたようで嬉しく思いました。

【まとめ】


相続・事業承継でお困りの方は 長野拓矢税理士事務所 にお気軽にご連絡ください。

【長野拓矢税理士事務所HP】
https://tax-nagano.com/
【お問い合わせ】
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