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パラレルセッションズ2019を終えて

もうかれこれ一ヶ月経ってしまうんですが,11/20(日)に開催されたパラレルセッションズ2019の振り返りをしようと思います.

パラレルセッションズは2016年から毎年,日本建築学会の主催する建築文化週間の一環で開催されているイベントです.今年は「メタなカタ」をテーマに第一線で活躍する建築系の方々が60人近く集まり,熱いトークセッションを繰り広げていました.

今回自分が参加したのは,セッション30「デザインとオペレーションの相互フィードバックの可能性とは?」でセッションリーダーは勝亦丸山建築計画の勝亦優祐さん・丸山裕貴さん.さらに公共R不動産の加藤優一さん,sway designの永井菜緒さん,UDSの北本直裕さん・荒川佳大さん,セカイの横井創馬さん・北川健太さん,アキナイガーデンの神永侑子さんという,様々なスケールの活動や実践,思考をしている方々が集まりました.非常に刺激的だったので,当日感じたことから得られたものを中心に深められればと.

デザインとオペレーションについて

まず,ここでいう「デザイン」と「オペレーション」とは何なのか? ということを整理する必要がある.その前提として勝亦さん・丸山さんの言う「デザインオペレーション」の概念がある.
これは,彼らが言うところでは,

建築をデザインする” 設計” 事務所が運営までを行うプロジェクト

を意味しており,

設計監理契約では建設を前提としているが、デザインオペレーションは断続的な修繕を前提とする。現代日本においては、人口減少やデフレの長期化に伴い、スモールビジネスやスタートアップなどのプロジェクトが、地方・都市の建築ストックを成長過程の場として活用し、エリアに新たな文化や経済、雇用を作る可能性をもたらしている。このような状況の中で、建築家が場の運営に近い立場になった時、設計の与条件とはどのような枠組みで収集され、どこに向かっての条件となるのだろうか。設計と運営の間にどのようなフィードバックが可能かを模索したい。(セッションの文より引用)

としている.つまり,当初の想定では「デザイン」とは建築の設計を,「オペレーション」とは竣工後の運営を指しているわけだが,実際に参加者の活動を概観していくと,その射程は運営のみならず,事前の調査から企画→設計→運営と連続しているケースが多いことが見えてきた.また,単一のプロジェクトだけでなく,複数のプロジェクトに連続して,あるいはその活動自体が旧態の設計偏重のワークスタイルを変える可能性も持っていることも共有できた.
そこから,
①プロジェクト内(設計⇄運営)
②プロジェクト間(事業→事業)
③プロジェクト群(経営・職能)
とスケールごとに分類できることが判明.
(まとめは加藤優一さんのtwitterもご参照あれ)

欅の音terraceの位置づけ

では,「欅の音terrace」はどのような解釈が可能かを検討する.
「欅の音terrace」は企画段階からオーナー・設計者(つばめ舎建築設計)・不動産(スタジオ伝伝)が一貫して協働して進めたプロジェクトであり,設計時からつばめ舎建築設計が運営に継続的に関わることも企図していた.

その中で,「運営」から「デザイン」にどのようなフィードバックがあったのか?

一つは,入居者による自主管理(管理会社を入れず,自分たちで管理運営をしてもらう)を奨励するために,DIYが可能な内装や仕組み,共有部の使い方へそれが反映されている.
また,「欅の音terrace」の住人にはどんな人がなるべきか考えるために事前に面談したり,不動産の募集の仕方に趣向を凝らしたりしたわけだが,それが設計段階での実際の間取りや設備機器の位置,温熱・音環境のスペックなどにも反映されている.具体的には,店舗側の給排水・ガス先行配管の位置決めやエアコンをどこに取り付けるか,断熱性や音環境は無理に上げず既存に多少手を加える程度にする代わりに相互のコミュニケーションによって理解し合う関係性を築けるよう配慮する,といった具合である.

ただ不特定多数の人間を相手にした居住空間を設計するのではなく,極めて具体的なペルソナを設定したうえで,なおかつ彼らがどのような関係性を構築し得るか,するべきかを想起しながら設計することは,「オペレーション」を前提として「デザイン」にフィードバックが生じる例として一つ価値があるものに思う.
現状ではまだ①の段階までしか議論できないが,これによって「デザイン」の解像度が劇的に上がり,説得力が増すのではないだろうか.

参加者の方々の試みから

一方で,勝亦さん・丸山さんは②の中でも複数のプロジェクトに関わることで,「オペレーション」で生じた課題や改善点を次の「デザイン」に活かすことが出来たり,加藤さんや永井さんの活動は相互フィードバックをキッカケにして新しい事業やプログラムが発生したりしている.

単一のプロジェクトから複数に展開する中で,設計者はこれまでのクライアントワークから必然的に主体的な位置付けになることを余儀なくされるわけであり,主導権を握ることで事業の中心に存在するようになる.
そうなることで,明らかにこれまでの建築家たちが辿ってきた道とは違う地図を描けるようになるのではないだろうか.

これは「欅の音terrace」が今後目指しているエリアリノベーション「ナリ間ノワプロジェクト」としても実現したいことである.

さらに,永井さんの活動は金沢での活動が「賛否,解体」や「カフカリサーチ」「カリアゲ金沢」など,設計業務のみならず遵法チェックや宅建業,建設業と「デザイン」にまつわることを網羅的に展開することに繋がっている.一連の流れの中でどこにキャッシュポイントを持ってくるか,それを把握するか,投資・回収するかを主体的にコントロールしていく姿勢は非常に参考になる.

また,勝亦さん・丸山さんの富士と東京の二拠点をベースにしながら,同時に不動産のサブリースを行うことで収益モデルを構築するワークスタイルもまた,これまでとは異なる設計者像として映る.

これは「欅の音terrace」でもそうだったのだが,建築を通してやりたいことをやるためには必然的にこうせざるを得なかった,こうする方がベターだったという結論でこれらの活動に行き着いている方々が多かったのは印象的.
それは明らかにプレイヤー側になるということを意味するわけで,無いものを作り出した結果辿り着いているのが,「オペレーション」の領域なのではないだろうか.

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〈時間性〉を設計に内包させるということ

「デザイン」は竣工した時点で終了してしまうかに思われてきたが,「オペレーション」を指向すると,〈時間性〉を帯びてくる.となると,「デザイン」という静的な地点で,いかに「オペレーション」という動的なものを扱い得るのか? というのが課題となってくる.

どのように使われるかを想定する時に,何でもやっていいと言われると,建築系の人間(あるいはクリエイティブな物事に従事している人々)であれば喜んで取り組めるのだが,一般的な人々にとって,それはレールを外された,何をしていいか分からない状態に陥れる言葉でしかない.

彼らにとって,何でもできる空間とは,何もできない空間でしかない.

それは彼らに何ら責任があることではなく,日本的な慣習,教育,社会が生み出した,もはやある種の宗教観である.

そこを突破するためには,私たちは「補助線」を引かなければならない.
それも事前に「デザイン」の段階で.

ここなら何かやってもいい,こうしてみたい,これはできるかもしれない.
そう思わせる「補助線」をいかに引くことが出来るか?

それはもはや動詞では表現し切れないような,動詞と動詞のあいだの「デザイン」,あるいはアフォーダンスにも似たものかもしれない.

それは,カタチではなく「オペレーション」の仕方や使い手との距離感,関係性,話し方,触れ合い方,出会う頻度によって変わるのかもしれない.

つまり「補助線」とは,有形無形の,「オペレーション」を指向した時に内包されるべき〈時間性〉を規定する「デザイン」のことである.
これを引かなすぎるとコントロール出来なくなる一方,引きすぎれば息苦しくなる,そんな繊細な,しかし極めて重要な線である.

近代建築は「補助線」を一切捨てて,〈時間性〉を切り捨てて「竣工写真」によって固定化してきた.
しかし,現代建築はこの「補助線」を積極的に受け入れ,〈時間性〉を内包させることを試みつつある.そこで求められるメディアは一体何なのか? それは動画か,ドキュメンタリー映画か,はたまた何かもっと違うものなのか?
映画的建築のシークエンシャルなものではなく,文字通り映像でしか捉えきれなくなってきているのかもしれない.

それでも建築に求めたいものは

だが,その時に建築自体の強度が置き去りにされてはいけないと思う.というよりも,「補助線」を引くという「デザイン」が,絶対的な空間性を指向“しなくていい”という免罪符にはならない.

これらは同時並行的に共存し得るものであり,どちらか一方では片手落ちではないだろうか.

これまではあまりに「デザイン」に偏重してきたが,「オペレーション」を検討するあまり「デザイン」の強度が崩壊することもまた避けられるべきことである.
「オペレーション」によって「デザイン」,そこに立ち現れる空間が如何に変容するのか? まだその臨界点には誰も達していないように思う.

今後の建築でそこを追い求めていきたい.

1991年神奈川県横浜市生まれ.建築家.ウミネコアーキ代表/ wataridori./つばめ舎建築設計パートナー/SIT赤堀忍研卒業→SIT西沢大良研修了