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紫本04 人間VS……

 人間がもし裸のまま、一切の武器を使用せず、騙し討ちもなしで「正々堂々と」他の生き物と1対1で戦ったら、どのくらい強いのでしょうか? かなり非現実的なシミュレーションではありますが、想像の羽を広げて読んでいただけたらと思います。

V S アメリカザリガニ

 アメリカザリガニのハサミは恐るべき凶器です。

 もし我々が眠っている間に、彼らがガサゴソと股間あたりにそっと近づき、「エイッ!」と渾身の力でハサミを閉じたら、確実に戦意喪失する男性戦士は少なくないと思います。そんなシチュエーションは滅 多にないでしょうが……。

(食欲そそるらしいです・・・)

 
  ある程度の固さのある地面や岩場まで誘導し、思いっきり拳を固くして、あるいは肘で、もしくは人体で最も固い踵骨(カカト)で、「オリャ! オリャ! オリャ!」と打撃勝負するもよし、彼らのハサミの可動範囲を予測し、完全にバンザイしてハサミが伸び切った時にシッポ側から背中を押さえて地面に固定、そこから関節技に持ち込んで、彼らの主武器であるハサミを「バキバキバキッ!」と可動範囲を超えて極める戦略もありでしょう。

 ハサミに毒はないですし、仮に指や腕を挟まれたとしたら(股間や眼などの急所さえ避けることができれば)、命に関わるほどの殺傷能力ではないので、小学生以上ならば、人間が勝利する確率は高いと思われます。

 勝利が確定した瞬間、アメリカザリガニの命だけは助けてあげるのも、人間ならではの余裕です。額に汗しながら、「これ以上、田んぼで稲を荒らすんじゃねーぞ!」と決め台詞で真剣勝負を終える、という幕引きもありでしょう。

 彼らだって「 You guys took us from The States to Japan, remember?(お前ら人間がアメリカから日本に連れてきたんじゃねーか! 忘れたのか?)」と言い返してくる可能性はありますが(ありません)。

 かくして、人間VSアメリカザリガニでは、おそらく人間の勝率が上回るでしょう。勝因は「サイズとパワーが圧倒的に違う」、これに尽きます。もしこれが同じ体格だっ たらジャンケン以外勝てる気がしませんが……。

VS ネコ

  愛くるしくて可愛いペットの代表格、ネコ。彼らは運動能力の権化です。そのジャンプ力は凄まじく、体長の約5倍ほどの高さまで跳べます。170センチメートルの人間なら、約8・5メートルの高さまで跳躍できる計算になります。高いところから飛び降りる能力も素晴らしく、マンションの3階から4階の高さから飛び降りても怪我もなく、安全に着地できるのです。

 人類最速ウサイン・ボルト選手の100メートル走のタイムは9秒58ですが、これは時速換算で約37.6キロメートル。ネコの短距離ダッシュのスピードは時速約48キロメートルとの報告もあり、短距離走ではネコに軍配が上がります。


 「ネコパンチ」もハンパではありません。

 ネコはとても器用で、動く小動物を簡単に一撃で仕留める達人(達ネコ)です。普段、じゃれ合っている時は爪を引っ込めていますが、本気モードでは爪を出し、時にはニワトリを一撃で沈めてしまうこともあるほどの圧倒的な打撃力をもっています。ボクサーのパンチスピードは秒速 11メートル、時速にして40キロメートルですが、ネコパンチのスピードはなんと秒速22メートル、時速80キロメートル、ほぼ倍のスピードを誇ります。ネコパンチのほうが断然速いのです。

 2010年のネブラスカ大学の研究によれば、世界中で33 種の野鳥が野良ネコによって絶滅に追い込まれたとされており、ハワイ大学でも同州の絶滅に瀕している野鳥の数が減少している要因のひとつが「ネコ」であることが確認されています。

あの愛くるしい表情に騙されてはいけません。ネコは超一流のハンター(殺し屋)であり、ネコはみんなネコを被っています。

 というわけで人間VSネコですが、道具を使わない、着衣もなしとなると圧倒的な体格差があるとはいえ、人間が勝利するのはかなり難しいです。仮に彼らを抑え込んだとしても、身体中にひっかき傷を負い、食いちぎられて流血してしまうでしょう。


 しかもネコの攻撃は目に見えるものばかりではありません。ネコがほぼ100%保 有している口腔内常在菌のひとつ、パスツレラ菌に感染すると、筋膜(筋肉を包む組織)が壊死したり、敗血症や髄膜炎などの重症感染症を引き起こしたりすることがあります。


また「猫ひっかき病」と呼ばれるバルトネラ・ヘンセレ(細菌の一種)の感染症では、可愛い病名とは裏腹に、発熱や頭痛、リンパ節腫脹、脳炎などを起こすことがあり、高齢者や基礎疾患があり免疫が弱まった人たちでは重症化のリスクがある感染症です。日本人の抗体陽性率は6・4%であり、予防接種のワクチンも存在しません。


 ネコの静かなる反撃は続きます。2016年夏、連れ帰ろうとした野良猫に噛まれた女性が「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」を発症。10日後に亡くなるということがありました。

原因である「SFTSウイルス」は、2011年に発見された比較的新しいウイルスで、SFTSウイルスに感染した「マダニ」に咬まれると、意識 障害や下血などの出血症状などを起こす危険な病気です。国立感染症研究所によると、2013年~2019年11月までに国内で感染した492人のうち、約14%にあたる69人が死亡した致死率の高い感染症で、「マダニに対する注意」が喚起されています。

 先の女性がマダニに直接咬まれた痕跡はなく、厚生労働省は「マダニに咬まれていた野良猫から間接的にウイルス感染した」可能性を指摘しています。少なくとも抗生剤投与や点滴、投薬といった「現代医療が受けられる前提」でなければ(であっても)、かなりハイリスクな戦いを強いられることになりそうです。

このように人間のフィジカルな強さから考えると、(個体差はあるとはいえ)ネコとのの圧倒的不利が予想されます。


PS 弱さからの出発。

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