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最強の侵略者2代目・山口翔大選手×Dr.F③ ~物語と人対人~

Dr.F 山口選手は小学生の頃から30代に至るまでずーっとチャレンジを続けてきて、「強くなりたい」というモチベーションがなくならないのはどうしてですか? どうしてそんなに強くなりたいんでしょう?

山口 僕が「強くなりたい」と思う理由をひと言で言うと、男に生まれたからやと思うんですよね。ただ、なぜ挑戦を続けているのかという理由は、簡単に言うと「中毒」なんですけど(笑)。


 僕は漫画が好きで、『ドラゴンボール』だったり『ONE PIECE』だったりといろんな作品を読んでるんですけど、自分の人生を漫画で言うと、自分が主人公じゃないですか。自分という物語で何をやったら面白いのかと考えたときに、たぶん草野球をやっても面白いとは感じられないと思うんですよ。

 もちろん野球でプロになれたり、サッカーをやってワールドカップに出れるんやったら、物語としては面白いんですけど、それは現実問題として無理やなと。

 じゃあ自分の物語って何やろう?

って考えると、南豪宏師範という物語があって、師範が築き上げた「最強の侵略者」という物語の第2章で山口翔大が出てきて、空手界では目標を達成できたと。その物語の続きで何をしたら面白いのかってなったら、空手から違う競技に侵略というのが、漫画でもよくあるじゃないですか。

 僕は主人公でもあり読者でもあるので、常に面白い方を選択したいというのが、常日頃からある考え方ですね。


Dr.F 面白いですね! 自分という漫画家が外にいる感じなんだ。

山口 そうです。漫画家でもありますし、主人公でもあるし読者でもあるという感じです。

Dr.F そうかあ! 「フルコン引退して草野球やってます」よりも、「K-1制覇します」のほうが面白いストーリーですね。

 なによりも本人が面白いと思ってやってる方って、周りから見ても面白さが伝わりますよね。「つまんないなあ」「また今週も朝から審判かよ」などと本人が思っていたら、それはやっぱり伝わりますから。漫画から読者として得たものを、自分の人生でも想像してるということですね。


山口 そうですね。自分の物語を、自分も楽しみたいので。


Dr.F おそらく羽生結弦選手にしても那須川天心選手にしても、自分のストーリーを創ろうとされてるんでしょうね。そういう皆さんのワクワク感を僕らは享受している。いいお話ですね。

──山口選手からDr.Fに聞いてみたいということはありますか?

山口 僕はDr.Fの本『強さの磨き方』をあっという間に読んじゃったんですけど、すごく人間味のある本やなと思いました。

Dr.F ああ、ありがとうございます!うれしい感想だなあ。

山口 どんなスポーツ選手もそうだと思うんですけど、いろんな苦悩があったりとか、いい部分だけじゃないじゃないですか。そういうのがDr.Fの文章にはすごくにじみ出てるなと思ったんです。

 格闘技医学という新しいことを始められると、いろいろ周りからの声もありますよね。僕自身もそうで、空手界を飛び出してK-1に挑んでいる今、楽しい反面で孤独を感じたりとか、気づけば仲の良かったはずの方が口もきいてくれなくなっていたりとか、そういうこともあるんですよ。

 頭の中では、そういうことに左右されてはイカンと分かっていながら、やっぱり気になってしまうところが自分の弱さでもあるんですよね。そして、それがまた強さにもつながったりもして。

 Dr.Fも若い頃からそういうことを経験されていると思うんですが、どういう感情で向き合って、どう乗り越えてこられたんですか?


Dr.F すごくうれしい質問ですね! 例えば僕の場合、格闘技医学なので中立でやってきたんです。流派も派閥もプロもアマも無い。でも業界内のしがらみで「あんなヤツと交流してはダメだ」なんて言われることももちろんあります。
 
でも、僕のことを嫌ってる人が目の前にいて、いろんなことをワーッと言ってるとしますよね。でも、その人が目の前で倒れたら、僕は、いったん彼を助けると思うんです。

 応急処置をして救急車を呼んで、敵・味方をいったん離れて……僕は敵とは思ってなくて「さっきまでうるさかった人」なんですけどね(笑)……陰口を叩くような人間でも、目の前で死にそうになっていたら、その人に医師として適切に行動できるという自信はある。

助けた後に「よし、もう一回戦おうぜ」ができるんで。何を言われても大丈夫なんです。その逆はない、と思えるから。
 
山口 なるほど。相手を助けられる、という切り札を常に持っているんですね。
 
Dr.F そうなんです。“人対人”にいつでも回帰できるんです。そういうものを根底に持っていれば、何を言われても「あ、この人も立場があって、こう言わなきゃいけないんだろうな」と思えるんですね。

 僕を敵にしておいた方が楽なのかもしれないし、そうすることで組織を固めやすくなるのかもしれない。そこには「いや、それは違うんです」といちいち首を突っ込む必要はなくて、自分が長期間活動することで、伝わる人には伝わっていきますからね。

 それは山口選手の活動と同じですよ。そこで自分が成したことはのちのち証明されることになっていきますし。

山口 ああ、確かに。それは僕の経験と同じかもしれないですね。

Dr.F 今、格闘技界で「心臓震盪」という言葉を知らない人の方が少なくなってきました。でも私が格闘技医学の活動を始めた頃は、「この言葉を知ってる人?」と尋ねても、ほとんど手が挙がりませんでした。子どもの命を守りながら武道やスポーツをもっと安全に楽しんでもらいたい、少なくとも僕は、その方向性に関して曇りがないと思うんです。


人間として考えた場合「子供の心臓をド突いたら危ない」「顔面ありのガチスパーばかりだと人として弱くなる」みたいな事実はあるわけですし。
 
山口 確かにそうですね。たまたま大丈夫なだけで、危険なことはたくさんありますね。
 
Dr.F 山口さんが所属している大阪のTEAM3Kはちゃんと対策をしているし、新田明臣代表のバンゲも、安全に力を入れているジムです。そういうところと格闘技医学は親和性が高いんで(笑)

活動すればするほど、賛同者が増えますから「気にしない」から「気にならなくなる」んです。それが私の実感ですね。(続く)


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